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世界人口・2097152


窓の外は、うっすらと暗い。

雨か。


「昨日のうちに、屋上を片付けちまって正解だったな」

「そうだね。考えてみれば、もう天気予報に頼れないんだった」



秀治は教室の中央で、役立たずになったPCを眺めている。


「ラジオなんてどうだ?まだ放送してるかも知れねえゼ」

「可能性は低いと思うね」



秀治は憂鬱そうだけど、俺はもっと憂鬱だ。

頭の上、この教室のすぐ上階で、今もアイトが大量の模型を走らせてるんだ。


俺らにとって、特に害があるわけでもない。だから騒ぎたてる気はない。

でも、だから尚更、スッキリしない気分だ。



「みんな朝食も済んだね。要冷蔵の物が減ったから、発電機を休ませてくるよ」

「……秀治、手伝うよ」



秀治に同行し、教室を出る。

渡り廊下を歩いてると、なんだか臭いが気になる。


「秀治、ちょっと臭わないか?」

「そうだね、食べ物が傷んだのかな。でもここって半分屋外だし」


「ひょっとして、俺らがクサイ?」

「いや、シャワーも使ってるし、昨日パンツも洗ったし」

「俺も大丈夫だよ、ホントだよ?」



まあいい、大した事じゃない。

管理棟の端っこに来る。発電機が騒音をたてて稼働中だ。


「数時間だけでも止めておこう」

「ガソリンはどう?足りてる?」

「それはバッチリ、在庫も問題ないよ。給油だけ手伝ってくれ」



秀治がポンプを作動してる間に、空の容器をどかす。

ガソリン満タンの容器を近くに運んでくる。簡単なお仕事だ。



仕事はすぐ済んだ。

教室へ戻ろうと歩きだす。

渡り廊下で、ミラノと会った。着替えの服を抱えてる。


「やあミラノ、宿直室にご用事かい?」

「うん、()ったかいお湯あびたくなったから、シャワー使うよ~」



替えの衣服で両手が塞がってるミラノが、手先だけ振って去っていく。

俺らは教室棟へ向かって歩く。

3歩くらい、進む。


「待てよ、いまミラノ、お湯って言ったよな」

「ああ、言ってたな」


「お湯、出るわけないだろう?電気給湯じゃないしガスも使えないんだ」

「当たり前だよ、俺だって水だけ浴びてる」

「……ナヲキ、ちょっと行こう」



校舎裏に来てみる。管理棟の陰になってる場所だ。


「プロパンガスだ、これは盲点だったよナヲキ」

「ガス、使えるのか?」


「ボンベにガスが残ってる限り、普通に使えるね」

「そうだったのかよ、無駄だと思って試さなかったよ」


アンドゥー先生を捜した時、この屋外ガスボンベも視界に入ってたと思う。

宿直室のガス設備だけ外付けになってたのか。

ふつう気付かないってこんなの。


ミラノは多分、お湯を出したら出た。それでお湯を使ってるんだろう。


俺と秀治は”シャワーからお湯が出るよ”の術を獲得した。

そのかわり服を雨で濡らして、教室へ戻った。



___________________________________




教室にアイトが戻ってる。なんかそわそわしてる。


「秀治、発電機が止まってないか?」

「ああ、さっき停止してきた。午後まで発電機を休ませる」

「そうか、それならいいんだ」



すぐ教室を出ていく。

落ち着きのないアライグマだ。



雨が止む気配もないし、教室の窓は閉め切っている。


秀治は教科書とノートを広げ、自習を始める。

俺は作りかけのプラモデルをいじる。バランスボールには座らない。懲りた。

ツトムンガーは蜜柑を5つくらい食べて、ごろんと横になってる。


ムツミは、カラフルな布を縫い合わせてる。

莉々は、クッションに寝そべって漫画を読んでる。30巻くらい読んだみたいだ。

ミラノはシャワーから戻ってくる。ドライヤーが使えなくて不機嫌になってる。


こうして各自、好きに過ごす。

ヒマになっても全く問題ない。



午後になると、秀治は発電機を再起動しに行く。

ムツミは、料理の準備に行くようだ。


「牛肉がまだ残ってるから、火を通してあるよ」

「要らない」

「俺は食うゼ、全部いけるゼ」



寝てたツトムンガー、跳ね起きてる。

言うだけ言って、また横たわる。



俺のプラモデルは、組み上がった。

塗装も凝ってみたいけど、今日は止めておく。換気が悪いし。


腹が空いたので、学食の厨房へ行ってみる。

ムツミがもう向かってるはずだ。


昨日はステーキをたらふく頂いたけど、消化済みだ。

ツトムンガーに肉を独占されたくないし、先に分けてもらおう。



厨房では、ムツミが野菜を炒めてた。

俺が近寄ると、ちょっと振り向く。


「あれ、ナヲキ?」

「どうですか、調子は」

「……いま悪くなった。つまみ食い君が現れたから」



嫌味を言うわりには、元気そうだ。ポニテと背中がふりふり揺れてる。


「お肉はスライスしてあるよ、タレはそこ」

「うん、旨そう」

「お野菜を盛り付けるから待ってて。ご飯もこっちで炊いてあるよ」


「そうだ、2人前にしてくれる?」

「そんなに食べたいの?」

「いやまあ、ちょっとね」



学食のトレイを使って、焼肉定食2人前を貰う。

教室を素通りして、階段を登る。

行き先は、アイトの模型部屋だ。


模型部屋の外に、濡れた傘が立てかけてある。

玄関に置けばいいのに。



室内を覗くと、昨日よりもひどい事になってる。

教室だったはずの床に、山みたいな地形が盛り上がってる。

トンネルがあったり、川らしきところに橋脚が並んでたり。


「ナヲキじゃないか、今日も見学かい?感心だねえ」

「見学じゃねーよ、ほれ、めし」

「気が利くねえ、見たらお腹が空いてきたよ」



足の踏み場もない所から、アイトは器用に出てくる。

出入口のそばで、俺から食事のトレイを受け取る。その場に座り込む。


「これ、ジオラマだよな。とんでもなくデカいサイズの」

「うん、急ごしらえだけどね。計画は着々と進行中さ」



喋りつつ、アイトは焼肉定食を頬張る。

うんまいっ、とか言って上を向いてる。


「あのさ、学校でお前がやりたかった計画って、これ?」

「だいたいその通りだよ。ジオラマ製作は象徴的なプロジェクトだね」


「なにがプロジェクトだよ。教室を遊び場にしただけじゃん」

「ナヲキ、それこそが核心じゃないか。無政府状態ならではの遊びさ!」



食べながら、アイトは悪いアライグマ顔になる。


「はふっ、これだけ広いスペースを、むぐむぐ、自由に使えるって最高だよ」

「食うか喋るか、どっちかにしろよ」

「んぐっ。こんな旨い食事をしつつ、時間を忘れてNゲージ三昧。ぐへへ……」



びゃっひゃっひゃ。

そんな笑い声を高らかにあげ、ごはん粒を飛ばす。

この行儀も人相も最悪なアライグマに、俺はドン引きする。



アイトはめしを平らげ、ペットボトルの飲料をんぐんぐ飲み干す。

すっきりした顔になり、また語りだす。


「この間、昭和の特急ルーレットで遊んだろ?」

「ああ、色々と雑なゲームバランスだったな」

「それは仕方ないんだよ、昭和だから」



近くにあった、特急電車の小さな模型を手に取ってる。


「あれから真っ先にレトロな特急を手がけたくなってね、見てよこの485系、この面構え」

「485系とか言われても、さっぱり判らん」

「こっちはキハ80系気動車、無骨だし垢ぬけないカラーリングがほんと愛くるしいよね」


「まあ、白と赤のツートンで、カッコイイかも?」

「おいおいナヲキ、白?赤?良く見てよ、アイボリーと朱に近いだろ。この絶妙な色合いが時代を超えた存在感を(かも)してるんだよ、判らないかなあ」


「わかんねーよ、いい加減にしろよ」

「そうかい?もっとディティールも語り合いたいんだけどね」


「あんまし熱中してないで、教室にも顔出せよアイト」

「いや、駅舎も背景もまだ全然だから。これからが本番だよ」



ダメだ。こいつは何かに取りつかれてる。

俺は諦めて、食事のトレイを持って下階へ戻ることにする。


するとアイトは、濡れた傘を持ってついてくる。


「おい、ひょっとしてまた出掛けるのか」

「オモチャ屋で駅舎と島式ホームと、樹木セットと、昭和の家屋セットを調達してくる」



そう言って、せかせかと玄関へ向かってる。


「そうそう、発電機を止める時は教えてくれないか、試運転のダイヤが乱れちゃうから」

「そんなもん知るかー」



つくづく呆れた奴だ。教室を丸ごと遊び場にしやがって。

まあ女子たちも教室改造して遊んでるけど。

それにしたって、アイトは自分勝手すぎないか。


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