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世界人口・4194304


「今夜は、焼肉パーティーだ」



秀治が提案する。俺も異存はない。

果物はふんだんにある。俺はリンゴをかじって朝食にしてる。

ムツミもリンゴをかじってる。ミラノは小粒の葡萄、莉々も何か食べてる。ビワかな。


「焼肉もいいな。あの肉、上等そうだゼ?」

「お肉、苦手」

「よう莉々、好き嫌いは良くないゼ?」



食い物を話題にしてるせいか、ツトムンガーは機嫌よく喋ってる。


「せっかくだから、焼き網を用意する?」

「いいね、ワンコインショップで探せば、あるだろうか」

「きっとあるよ、炭もあるよ」

「よし、器材集めはムツミに任せるよ。買い出し班を編成しようか」


「俺はちょっくら、例の倉庫に行ってくる。保存食を運ぼう」

「見張る」

「じゃあ僕も同行しよう。ムツミは近場だからアイトと……あれアイトは?」



アイトは勝手に出掛けたようだ。あの不良アライグマめ。


「わたしは、1人でも平気だけど」

「ムツミさん?そうはいかないでしょ、俺とミラノが」

「あたし、用事があるんだよね~」



ミラノはスっと立ち上がる。

葡萄の芯をお皿に乗せてから、出口のほうを向く。


「ナヲキ君、しっかりエスコートするんだよ~」

「なんだよミラノ、どこ行くんだよ」



その時、ツトムンガーは無造作に歩み寄る。

黒板の前で、ミラノのゆく手をさえぎる。


ドンッ……


「もっと連帯しろよ。俺たちだけの、焼肉パーティーだゼ?」

「……ッ!」



あの、黒板ドンは先日、もう見せてもらったんですけど。

再度やるとは、逆に意外だったような。


横を見ると、ムツミは俺を見返してきた。困惑の表情だ。



__________________________________




ワンコインショップの入口は狭くて、階段を登った先にある。

俺はムツミと2人で、買い出しに来てる。


「お料理に使える道具は、だいたいこのフロアに揃ってるの」

「ふんふん」

「ナヲキ、こっち」



すぐに焼き網が見つかった。

他にもムツミは、長い鉄の串とか、使えそうな道具を買い物カゴへ入れる。


「専用の炭で焼きたいけど、無いかな……」

「上の階に行ってみる?」

「うん」



上の階にも、雑貨がびっしり置いてある。

生活に使う道具って、こんなに色々あったっけ。感心してしまう。


「おっこれ面白いな」



俺は栓抜きを手に取った。

ビン飲料の王冠をひっこ抜くやつだ。手元が可愛いブタの顔に彫られてる。


「栓抜きは、もう教室にあるよ」

「へえ、知らなかったな」


「あれこれ取ったらダメ。ナヲキ、風船ガム買ったの覚えてる?」

「うんにゃ、覚えてないですね」



ムツミから肘で小突かれ、フロアを移動する。

すると炭がある。バーベキューに使うような小道具と一緒に並んでる。


「よし、これで揃った」

「ムツミ、これ使えないかな」



銀色の鉄板を加工したような、肉や野菜を焼くための台。

なんとなく、上手に焼けそうだ。


「……でもこれ、特別価格だよ。ワンコインじゃないよ」

「そうか、じゃあ俺がプレゼントしちゃおうかな」



ポケットから札束を出す。俺はゴールドマンだからな。

ま、1万ゴールドもあれば、お釣りが来るかな?


「無駄遣いはダメって言ったでしょ」

「いいじゃないか、俺が出すんだから」


「またガソリン代が必要かもよ?その時に使えばいいじゃない」

「なんだよ、ムツミが喜ぶと思ったのに」



そう言うと、ムツミは口を尖らせながら、じっと俺を見る。

ちょっと考えてから、提案してくる。


「これも後払いで買おうよ。だからお金はしまって」

「ああ、判ったよ」



考えてみれば、なんでも後払いにすれば贅沢し放題なんだよな。

ホントはね。レジに店員さんが待ってるわけじゃないし。

現金なんて滅多に使いどころが無い。

そこに気付くと、ちょっと虚しい。


「ナヲキ、帰ろうよ」

「ああ」



しばし沈黙しつつ、階下へ戻る。

黙ったままじゃ、何となく気まずい。


「ムツミってさ、料理とかも上手だよな」

「ありがと」



さらっと返された。

会話が続かないじゃん。


「……わたしより莉々ちゃんの方が、よっぽど上手だけどね」

「莉々ってあまり喋らないけど、料理の猛者(モサ)っぽいよな」

「猛者って言い方はないでしょ」



ムツミはちょっと笑う。それから話してくる。


「お料理は、お母さんに習ったな。あと、お婆ちゃんから色々教わったの」

「ふうん、婆ちゃんか。実家なの?」

「和歌山に住んでるよ。でも、電話がつながらなくて」


「ああ、もうスマホも全然ダメになったよな」

「うん。今頃どうしてるかな」



横顔。ムツミの目付きが変わっている。遠くを見てる感じだ。

これ、良くない話題だったな。


「そのうち会いに行けるだろ。今は俺らがいるから、元気出して」

「うん。頼りにしてるよ、ナヲキ」

「ムツミさんの方が頼れます」



また肘で突っつかれた。



_________________________________________________




教室で合流する。

秀治たちは今日も無事、追加の食糧を確保してきた。


女子たちはパーティーの準備を、着々と進めてる。

解凍中の肉、ピーマンなどの野菜を教室に運んできた。


「屋上で焼かない?煙が出そうだからさ~」

「それはいいね、今夜は屋上で食べようか」



教室から椅子を運び出す。

焼き台や机も持っていく。

階段を登ってると、アイトとばったり出くわす。リュックを背負ってる。


「アイト、なんで上から来るんだよ」

「やあ、今日は屋上で食事なの?」


「そうだけどさ、なんで徘徊してるんだよ。学校のモンスターかお前は」

「そうさ、僕はモンスター。まだ忙しいから失礼するよ」



そう言って階段を下りていく。

この不良アライグマめ。いつか尻尾をつかんでやる。



屋上へ出てみると風は緩く、快適に過ごせそうだ。

机を並べ、台所で使うような耐熱パネルを敷く。

その上に、焼き台を設置する。


「どうやら、バーベキューみたいになりそうだね」

「スタイルなんて気にしねえ。旨けりゃ何でも歓迎だゼ」


「焼き串に~、アルミホイルに~、オリーブオイル」

「万全」

「トウモロコシとか、もう焼き始めようか」



女子達が下ごしらえを済ませてくれた。

炭を並べて着火する。まず野菜から、のんびりと焼いてる。

やがて香ばしい匂いが漂ってくる。


「うおお、我慢できねえゼ」



ツトムンガーはナイフを手にして、解凍肉を削り取る。

焼き台の鉄板に乗せ、ろくに焼けないうちにナイフを刺して、噛みちぎる。


「おい、平気なのかツトムンガー、良く火を通したほうが」

「うまああああっ!」



ツトムンガー、空に向かって吠える。

どうやら、食べても平気な肉みたいだ。



そこからは、肉も野菜もがんがん焼く。


「ムツミ、僕は500gほど食べたいな。ウェルダンで頼めるかい?」

「任せてっ」



ムツミが目分量で、解凍肉を切り分ける。鉄板に乗せる。

ジュッと旨そうな音がたつ。モクモクと上がった煙も食欲をそそる。


ムツミはステーキハウスの店主みたいになってる。

ジャージの上衣は脱いでシャツ姿、首からタオルを巻いている。


「ひと口」

「莉々、これくらい?」

「半分」



莉々ちゃんも、ほんの少量だけステーキに挑戦してる。

ここは俺も、注文せねばなるまい。


「500、いや650で頼むよ」

「注文が細かいねナヲキは。これくらい食べなさいよっ」



ムツミは肉をドカンと切り分ける。


「お客さん、焼き加減は?」

「ええと、イージーモードでお願い」

「なによそれ」



そんな調子で焼いてもらった厚切りステーキを、イモやブロッコリーと一緒に頂く。

……本当に旨い。こんな旨い肉、初めて食ったかも。


ただ、量が大雑把すぎた。完食するまでに腹がパンパンになった。

終盤はほとんど苦行だった。



苦しい腹をさすってると、アイトがステーキと野菜を盛った皿を持ち、歩いてる。

屋上から出ていく。


奴は、怪しい。

俺は尾行してみようと決めた。


階段を下りて気配を探る。

アイトはもう1階ぶん下りて、廊下へ出ていく。

すかさずアイトの背後に迫る。アイトは、とある教室へ入っていく。


そこは俺らが暮らしてる教室の、真上じゃないか。無人のハズだ。


遂に奴の尻尾をつかんだ。

変態アライグマが何をしてるのか、確認しよう。


「アイト」



返事がない。アイトはただ、俺に背を向けている。

しかし、教室の光景に目を奪われる。背筋が凍り付く。


模型。模型。模型。

机も椅子も無い。だだっぴろい教室の空間。

その床に、一面に張り巡らせた、細い幅のレール。


「なんだナヲキ、見学かい?」

「いや……なんだよこれ」


「よくぞ聞いてくれた。Nゲージの鉄道模型さ」



おびただしい数の模型。

見覚えのある新幹線、レトロチックな特急、通勤電車、貨物車……

教室だった空間に、小さな鉄道模型が走り回ってる。


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