世界人口・8388608
電気ポットからマグカップに湯を注ぐ。
インスタントコーヒーを淹れる。
今日の朝めしは、それぞれ好きに済ます。
俺は残り物の菓子パンとか、オニオンサラダとかを食べた。
「今日も文化祭、続行でいいの~?」
「いやあミラノ、文化祭というか、自由行動で構わないよ」
「ふ~ん、それじゃ遊んじゃおう~」
「秀治は?今日もプラモ作る?」
「それもいいけど、たまには自習でもしようかと思う」
真面目だ。秀治はマジメの頭にひと言、追加したくらいの真面目だ。
「よお秀治、食糧の件で、俺はもう一度出かけたいんだが」
「ああ構わないよ。ツトムンガーなら単独行動でも心配ないね」
「強奪」
莉々ちゃんが、手帳を持ってツトムンガーに近寄ってる。
「ああ、判ってるゼ。なんなら莉々も来るか?」
「見張る」
「信用ねえな俺って。どうだ秀治、3人でピクニックするか?」
「そうだな、なら自転車に乗っていこうか」
「それは賢いな。徒歩より速いし安全かもしれねえ」
「じゃあナヲキ、今日は留守番を頼めるかな」
「オッケーですよ?」
ツトムンガーと、強奪しないか見張る莉々ちゃんと、引率役になった秀治が出かける。
教室を出た辺りで、アイトが莉々ちゃんに声をかけてる。
おや?と思ってると、アイトも外出するみたいだ。
あいつ自転車のれないのに、どうする積もりだろう。
「ねえねえムツミ、この端切れ、何に使うの~?」
「決めてないよ。綺麗だったから、欲しくなっちゃったの」
教室に残ったミラノとムツミは、ビニール袋からたくさんの布を出してる。
1色のもあれば、国旗デザインもあるし、やたらカラフルだ。
昨日、ワンコインショップで仕入れて来たんだろう。
「じゃあさ~、縫い合わせて女子部屋のタペストリーにしちゃう?」
「それ、いいかも!」
どうやら、また教室の改造を企んでるな。
この部屋も風船だらけで、縁日みたいな派手さになってるし。
ともあれ今日は、平和に過ごせそうだ。
留守番役をおおせつかったし、俺はプラモ作りに励むか。
ついでに、バランスボールに腰掛けて体幹を鍛える。一石二鳥だな。
……俺はプラモの組み立てと、体の重心を同時に意識する。
このプラモは、ガンディム重装砲撃ミレニアム仕様ハイグレードカスタムだ。
ボディはグリーンとパープルの奇抜なツートンカラー。発売当時、流行したらしい。
製作中、ちょっとでも気を抜けばバランスボールから転げ落ちる。この緊張感が
「ナヲキー」
「ほわっ、ぶっひゃっはっ!」
思ってたそばからひっくり返った。
机にヒザをぶつけながら床で背中を強打した。
「だいじょうぶ?」
「あっヒザと背中が……全然余裕ですけど?」
俺は男の忍耐をアピールする。泰然として座りなおす。
「それよりムツミ、どうしたん?」
「うん、お洗濯するからさ。ついでに服、着替えなよ」
お洗濯。確かに必要だよな。
最低限の服は家から持ってきたけど、ろくに着替えてないし。
女子がついでに洗濯してくれるなら、そりゃ好都合だよ。
そうか女子に、洗濯してもらえるのか……なんかドキドキするな。
「ほらナヲキ君~、脱いじゃいなよ~」
向こうからミラノが、煽ってくる。
足を組んで椅子に座って、裁縫をしながらニッコニコしてる。
ムツミは近くに立って、なんとなく体をくるっと動かしてる。
横目で俺をちらっと見てる。
この時、俺は形勢不利を悟った。
女子ふたりに俺ひとり。教室でこの関係は、不利だ。
「じゃあ、俺、洗濯機に放り込んでくるよ」
いそいそと立ちあがる。リュックを持って、教室から脱出する。
留守番も楽じゃないな。
教室棟の玄関を通って、部室棟へ向かう。
洗濯機のある場所は、覚えてる。
まえに電源コードを、引っ張ってきた事がある。
洗濯機のフタを開けると、まだカラッポだ。
俺は着てる物をさっさと脱いで、全部つっこむ。
リュックから替え服を出して着て、ひと息ついた。
さあ戻るか。振り返って歩き出す。
すると正面から、ムツミが近付いてくる。服の入ったカゴを抱えてる。
「ナヲキ」
「おおムツミ、服は洗濯機に入れといたよ」
「うん」
「それじゃ、よろしく」
「ナヲキ」
「えっ、何?」
ムツミは、呼び止めてから洗濯機の前に行く。
カゴから洗濯物を出してる。
「秀治君とアイト君のシャツも、持ってきたよ。教室に脱ぎっぱなしだった」
「そう、あいつら横着な所があるからな」
「ナヲキもでしょ」
ムツミの口ぶりは、機嫌よさそうだ。
良く晴れてて、洗濯日和だから、機嫌もいいんじゃないかな。
「ねえ、最近あまり話せてないね、わたしたち」
「そんな事ないですよ?昨日もムツミと話したでしょ」
ムツミはカゴを置いて、洗濯機をスタートしてから、こっちを向く。
笑顔だ。でもなんか、むくれてる。びみょーな表情だ。
「あんなの話したうちに、入りませーん」
「へえ、そうなんですかー?」
「その喋り方、ナヲキって少し、変わったよね?」
「そうかな?でもムツミも、変わったと思うよ」
「どう変わったかな」
「うーん、そうだねえ……」
お喋りしてるうちに、俺とムツミは校庭の方を見てた。
太陽が照ってる、カラっとした土の色。
ムツミは今、元気に見える。落ち込んでない。そこが変わった。
まだ異変が起こる前の、ムツミと同じに見える。
目が、キラキラだった気がする。最近もキラキラして見える。
でも言えないね、思った通りの事って。
気恥ずかしいっていうか。
「ちょっとナヲキ?」
「ええと、何だっけ」
「なんだっけじゃないでしょ」
「いや逆にさ、なんで今日のムツミは話したがるの?」
「そーゆー時もあるの」
「ふうん、そーゆーもんですか」
そこまで言うと、ムツミは急に機嫌を損ねた。
俺を肘打ちで突っついて、去っていく。
俺はよく判らないまま、ポニーテールの後ろ姿を眺めた。
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その後、教室でプラモ作りを続ける俺。
ムツミの視線が気になるような、ミラノに笑われてるような。
落ち着かなくて、昼間っからシャワーの水を浴びに行ったりした。
秀治たちが戻ってくると、それだけでホッとする。
「大戦果だ!いまツトムンガーに運んでもらってる」
「なんだい、大戦果って」
「牛肉」
「へ~、お肉なんてよく見つけたね~」
「お肉は、常温だと危ないよ?」
「それが精肉場で発見したんだよ、まだ氷漬けだ。それだけじゃない」
「リンゴ」
「鮮度が落ちてない果物も八百屋で見つけた。これは莉々のお手柄だよ」
どうやら、遠征は大成功だったようだ。
これは嬉しい、食事がグレードアップするかも。
でも、待てよ。
「あのさ、アイトは?」
「さあ、僕らとは一緒じゃなかったね」
「別行動」
「そうなのか、何やってんだあいつ」
少し引っかかるけど、ツトムンガーも冷蔵庫から戻ってくる。
「生モノは早めに食っちまおうゼ」
「うんっ、任せて」
ムツミは、包丁やガラスの器を用意する。
ミラノ・莉々と一緒に教室を出ていく。
「……先の事を考えると、保存食を優先した方がいいかな」
「それも正解だろうけどよ、食える時に旨いモン食うのも正解だろ」
「うん、食いたい」
俺はバランスボールに鎮座して、率直な意見だけ述べた。
しばらくすると、女子がフルーツ山盛りの器を運んでくる。
「苺とパイナップルと葡萄だよ~」
「期間限定」
「他の果物は、まだ保ちそうだったよ」
「うおお、いい盛り付けじゃねーか」
「こうなったら早いもの勝ちだ、さあ頂こうよ」
まて、ツトムンガー居るし、すぐ無くなりそうだ。
貴重なチャンスだ、俺も速やかに食べないと
「ぶっひゃっはっ」
バランスボールから転げ落ちてヒザを痛打した。
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「あとは、氷漬けの牛肉をどうするかだね」
「解凍したら、すぐ料理しないとね」
晩めしを食べながら、相談してる。
いつの間にかアイトも戻ってる。無表情で食事してる。
「おいアイト、どこ行ってたんだよ」
「……なんだいナオキ?」
「なんだよ、お前ボーッとしてない?」
「そんな時もあるさ。僕は多忙な身だからね」
普段通り、のような気もするが。
こいつ、何かをやらかしてる。俺の直感が告げている。
じっとアイトを睨みつけてみる。
すると俺の視線を意識して、アイトがニヤリと変貌する。
悪いアライグマの顔だ。




