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心霊内科3  〜隠し神〜  作者: さいふぉん


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4/5

 夜の22時を回った頃、晃輔の運転するレンジローバーは、晶湖と朔を乗せて国道411号沿いを走っていた。小袖駐車場へ車を停め、鴨沢ルートを辿り、七ツ石神社を経由して雲取山へ登るつもりである。朔に最初から乗っていくことも考えたが、人目を考え麓までは車を使うことに決めた。

 車を駐車場に停め、万が一のための点滴セットや簡単な応急処置物品、水分補給品ロープ等を入れたリュックサックを背負う。ここからは徒歩である。

 晃輔のはチャコールグレイのコーデュロイのパンツに黒とグレーのトレッキングシューズ、薄手のダウンの上にブルーのレインウェアを着込んでいる。

 晶湖はゆったりとしたコットンのストレッチ素材の黒のパンツに、ハイカットのグレーのトレッキングシューズを履き、ハイネックのセーターの上に撥水性のダウンを着込んでいた。

 徒歩とはいってもほとんどが朔に乗っての移動である。

 辺りに人がいないことを確認して、狐の姿に戻る。朔の毛並みは淡い発光を伴い、暗闇の中で白く浮かび上がって見えた。 そして何故かそれをうっとりとした目で晶湖は見ていた。

「櫻川さん、貴方の前でこの姿をちゃんと見せるのは初めてでございますね。これが本来の私の姿、私は狐の(あやかし)です。恐ろしくはありませんか?」

 朔は敢えて正面から晶湖を見てそう聞いた。晶湖をやや見下ろすようになる。

「恐ろしいだなんて…とても綺麗です。ふふ、朔さんは人間の姿でもとっても美人ですが、本来のお姿もとっても綺麗なんですね」

 朔を初めて──夢の中や遠目では見たことはあったが──眼の前でみて晶湖は笑顔でそう答えた。

『嬉しい事を言ってくださいますね』

 妖姿の朔の表情からは分かりづらいが怖がらせずに済んで喜んでいるようだ。

 それから朔は二人が背中に乗れるように躯体を倍化させた。もふもふの毛並みがもくもくと膨れ上がる。

「すまん、朔さん、これも運んでくれないか」

 晃輔はそう言って、一升瓶二本を風呂敷に包んだものを朔の首に括り付けた。

「よし、頼む」

 そう言って、晃輔は朔の背中に乗り込むと、晶湖を自分の後ろに引っ張り上げた。

 恐る恐る乗った朔の背中は見た目より硬い外の毛の下は、想像通りのもふもふだった。

 晶湖は固く艷やかな毛並みを撫でる。誰かがそれを見ていたら、うっとりとした表情を浮かべているのが見えていただろう。しかし、生憎前に乗っている晃輔も二人を背に乗せている朔にも晶湖の顔を見ることはできなかった。

「しっかり捕まっていてくださいませね。先ずは一気に七ツ石神社まで向かいます」

「櫻川さん、申し訳ないけれど、僕にしっかり掴まっていてもらえる?」

「は、はい!」

 晶湖は晃輔の腰からお腹の方へ腕を回して掴まった。こちらは想像よりずっと筋肉質で硬かった。

「よろしいですか?では参りますよ!」

 朔は登山道を一気に駆け上がっていく。背中の二人を振り落とさないギリギリのスピードである。

 馬などとは違い前後にかなり揺れる。鞍もないので、正直かなり乗りづらい。

 昔、何かの映像でみたロデオマシーンはこんな感じなのかもと、場違いな事を晶湖は思った。

──恥ずかしがってなんていられない!

 晶湖はぎゅっと目をつむり、振り落とされないように捕まる腕に力をこめた。

 どのくらいの時間が経過したのか。随分経ったような、まだいくらもの経過していないのかわからないうちに、七ツ石神社に到着した。

「七ツ石神社に到着いたしました」

 上から聞こえてくるような変な感覚の中で朔が二人に声をかける。

「ありがとう、朔さん」

 晃輔が先に降りると、晶湖を支えるように地面に足をつかせる。

 晶湖は足元がぐらついて晃輔に支えて貰わなければ立てなかった。

 夜間で真っ暗でありながらぼんやりと光る朔の体躯のお陰で周囲に霧がかっているのがわかる。

 暗がりの霧の中、ぼんやりと神社の社が浮かび上がるようにその姿を見せた。

 どこか浮世離れした雰囲気の中、あたりをきょろきょろと見渡しながら、晶湖は無意識に晃輔の上着の端を掴んでいた。

「お犬様にご挨拶申し上げる!」

 晃輔がどこへとも無く声をかけた。その声にビクッとした晶湖は思わず晃輔の背中に隠れるように身を寄せた。

『──こんな夜更けに来客とは、の』

 しばらくして社の中心ががぼんやりと発光したかと思うと、それはゆっくりと四つ足の獣のような形になり、淡く光を放ったままやがて狼の姿に変わった。

『人の身で我を呼び出すとは、随分久しいことよ』

 頭の中に直接響くような声がした。

 晃輔はその場に跪き、畏まるように頭を下げた。朔もそれに合わせてに腰を落とす。晶湖も慌ててそれに倣った。

「主の晃輔様とその嫁御の晶湖様にございます」

「なっ!?」

「嫁っ?!」

 朔が恭しく晃輔と晶湖を紹介する。その言葉に二人はそれぞれ驚いて声を上げた。

『…そうか、お前が狐の主か』

 しかし、狼はそれには反応せず言葉を続けた。

『狐の言う子供の話はくれてやった。他に何用か──』

「朔さん、ナニ言い出すの?」

「しぃっ!この方が話が早く進みまする」

 晃輔が小声で朔に問い詰めようとするもそれを朔は制して言葉を続けた。

「先刻、拝受いたしまいしたこと御礼申し上げまする。」

そして晃輔を鼻でつつく。晃輔は口をパクパクさせた後、仕方なく言葉を合わせた。

「その子どもの件でこれから荒事があるかもしれません。お膝元を騒がすこと、お許し願いたい」

 そういって、朔の首にぶら下げてきた一升瓶の風呂敷を解く。

「つきましてはこちらをお収めいただきたく」

 酒である。

『酒か!人の手ずからもらうのは久しぶりじゃ』

 ぼんやりとした輪郭でも狼の尻尾がぶんぶん振り回されているのが見えなくてもわかる。

──大層お喜びのようで何より

 ここへ来る前に、子供を探してもらうお礼に何がよいか朔に相談したところ、酒が良いとの事だったので準備してきたが、思ったよりも喜んでいるようである。

『さてさていつぶりじゃ──あれは──あの時も狐──おったな──はてお前は──平蔵か?』

 ──平蔵?えっとご先祖様だっけ?

「…平蔵様は既に亡く…平蔵様の後胤にございまする」

 晃輔の考えをよそに朔が答える。少しだけ、ほんの少しだけ、朔の言葉に寂しさを覗かせたのに晃輔は気が付かなかった。

『そうか──平蔵は死んだか──人の命の短きことよ──そうか、よう似ておる──あの時も平蔵は酒を持ってきおったな。あれは旨かった──』

「こちらの酒もそれに劣らぬと聞いております。ご笑味ください」

 朔に突付かれて酒の封を切り、升に並々と注ぐ。

 狼は升の縁に鼻先を乗せるように顔を突っ込むっとかぷかぷと噛むように飲み始めた。

『──うむ。旨し』

 尻尾がさらに揺れている。パタパタと音が聞こえてきそうである。

「二本持ってきてございます。どうぞゆっくりとお楽しみください」

『──うむ。()()をどうにかしてくれるならこちらとて助かるというもの。──が子供を助けたくば急ぐがよい。最近声が聞こえぬ故な』

 「!」

 狼の言葉に晃輔は気持ちが逸る。

「…ご協力感謝いたします。ではお言葉に甘えて我らはこれにて失礼いたします」

 だが狼の前では気持ちを悟られないようにし、もう一本の一升瓶も前に置くと、狼が去るのを待った。

『──うむ。狐には不要と思うが気をつけるがよい。あれは(なり)は子供だが中身は──』

 いい終わるか終わらぬうちに狼の気配は薄くなっていきやがて、ゆっくりと仄かな余韻を残して消えていった。

 それと同時に霧も晴れ、朔の体躯の淡い光以外、周囲は再び真っ暗に戻った。

「よし!急ごう」

 晃輔が朔に振り返る。その声で晶湖もハッと我に返った。

 それまでまるで狐のつままれたような気分だったが、晶湖も狼の言葉を聞いていた。狼の言い方では攫われた子供たちはかなり弱っている可能性がある。

 きた時と同じように二人は朔の背中に乗り込む。

「林の中を突っ切りまする!身を低くしてしがみついていてくださいませ」

 朔はそう言うが早いか、登山道から逸れ、雑木林の中へ突っ込んでいった。

 バキバキと音を立てながら木と木の間を、時には細い枝を折りながら滑るように進んでいく。

 屈めた頭や顔、肩や脚などに小枝やツタが掠める。晃輔は顔を上げることはできないが、朔の進む前方に僅かに妖力の気配を感じることができた。

「結界がございますね。破壊します!」

 朔はスピードを緩めず、そのまま突っ込むと小さなドーム状のそれを前足で引き裂いた。

パリンと乾いた音を立てて結界が壊れる。その中央に朔は降り立つと、周囲を見渡す。結界があったと思われる範囲の端っこに、子供たちが五人固まって、うち三人がこちらを怯えた目で見ていた。

「だいじょうぶか?!」

 晃輔が朔の背中から子供たちをみつけると、滑り降りて声をかけた。

 子供たちは戸惑いと警戒の入り混じったような気配をみせる。

 晃輔は朔の背中から晶湖を降ろすと、リュックのサイドポケットから懐中電灯を持ち出して、明かりを子供たちに向ける。そうしてもう一度声をかけた。

「助けにきたぞ。だいじょうぶか?」

「…助けにきたの?」

 少女の掠れた声がする。

「そうだ、よく頑張ったな。今助けるからな」

五人のうち少女を含めた三人は懐中電灯の光を眩しそうに手で避けようとしているが、後の二人はぐったりとしていて、反応が少ない。晃輔と晶湖は手分けして子供たちの状態を見て回った。

「こっちの二人には静注しよう」

ぐったりとした子供二人には生理食塩水を点滴する。暗闇の中懐中電灯の光で血管を探す。結局二人とも手背からいれることにした。

「ちょっと痛いけれど我慢してね」

アルコール綿で手背を拭う。土汚れで真っ黒になりアルコール綿を二枚使うようだった。

晶湖が手背に入ったサーフローをテープと包帯で固定している間、晃輔は意識のある三人にOS−1のパックを渡す。

「ゆっくり、すこーしずつ飲むんだ。一気に飲んじゃダメだよ」

 そうしながら子供たちの身体の様子を見て回る。小さな擦り傷や切り傷は見られるが、幸い大きな怪我は無いようだった。それでもできるだけ早く病院に連れていきたい。特にぐったりしている二人は早く病院で処置を行ったほうがよい。

だが、計算ではもう一人いるはずだった。

「君たち、もう一人を知らないかい?」

比較的意識のしっかりしている三人に声をかける。だが、その答えを聞く前に、背後から別の声が降り掛かった。

「見つかっちゃった。おじさんの勝ちだね」

 聞くだけならば鈴を転がしたような可愛らしい声。

 肩までのびた綺麗に切り揃えられた黒髪に、レトロなベルベットの赤いワンピース。同系色の赤い靴をはいた少女は見ているだけならばとても可愛らしい女の子だった。

 だが、発する妖気が桁違いに強い。そこにいるだけで、晃輔は肌が粟立つ感覚を覚えた。

咄嗟に晃輔は晶湖と子供たちを庇った。そしてそれを守るように朔が威嚇してみせる。

朔の前方やや上の方には、いつの間にか登った月を背に少女が宙に浮いている。淡い光彩が鱗粉のように少女の周りを舞っていた。

「あれ?そのおんなの人連れてきたんだ。やっぱりその人だいじなひとなの?」

 それには答えず晃輔が叫ぶ。

「もう一人はどうした!」

「もう一人…?」

少女はコテンと首をかしげる。その姿すら可愛らしい。だか紡がれる言葉は可愛らしさとはかけ離れた残酷なものだった。

「ああ…最初の子ね。あんまりうるさくいつまでも泣いていたから、思わず潰しちゃったの。だってあの子のせいで天狗が怒ったんだもの」

一番最初のお友達だったから、仲良くしたかったんだけどね…と残念そうにつぶやく少女。

だが、少女の表情はコロコロと変わる。次の瞬間にはもう違う話題になっていた。

「そんなことより、次は何して遊ぶ?かくれんぼはやったから次は…?」

うーん、と考え込むような様子を見せる少女に晃輔は怒りを押さえて静かに言い返す。

「次はないよ。この子達は返してもらうよ」

 少女はそれに鋭く反応した。

「だめよ!その子たちは私のお友達よ!」

 強い妖力に気圧されそうになりながらも尚も晃輔は言い返す。

「お友達はこんなところに閉じ込めておいたりしないものだよ」

 晃輔の言葉に少女は少し不貞腐れる。

「だって、閉じ込めて置かなきゃ逃げちゃうじゃない」

「お友だちは閉じ込めなくても逃げたりしない。君のやっていることは友達に対することじゃない!」

「そんなことないもん!」

 少女は癇癪を起こしたように声を張り上げる。それは刃となって晃輔達に襲いかかった。

「朔!」

 バンッ!と何かを弾いた音がした。

 朔の張った結界である。

「我が(あるじ)を襲うなど許される行為ではない。死んで後悔するがいい!」

 そう言い放つと、朔は宙に浮かぶ少女に向かって飛びかかった。少女はパッと消えて別のところに姿を現す。

「わんちゃんと鬼ごっこ?それもいいね!」

 少女は嬉しそうに、軽やかに笑った。

「何を!」

 朔の三本の尻尾っから無数の針のような毛を飛ばす。それも軽々と少女は避けて見せた。

 避けたところに更に朔が飛びかかる。袖の服にほんの少し掠って服が裂ける。

「あー!もう!破けちゃったじゃないの!」

 少女が腕を振るう。それはそのまま力の刃となって朔に襲いかかった。

 それを朔は結界で弾く。そのまままたも尻尾の針を飛ばす。

「それは当たらないよ」

 少女はくるくると宙を舞うように針を避ける。それを先回りするように少女に飛びかかる。今度は少女も綺麗に避けた。

「何度もおんなじ手は喰らわないよー」

 少女は楽しそうに笑う。

 その瞬間、朔は 雷(いかずち)を落とす。バリバリと音を立てて落ちるそれを少女はパッと消えてまた違うところに姿を現した。

「今のは危なかったぁ」

 態とらしく胸をなでおろす。ふわりふわりと宙を飛び回りながら、楽しそうに朔の攻撃を避け、また反撃を繰り出す。

 晃輔らと子供たちの頭上では激しい戦いが行われていた。

 朔が新たに張った結界は結界の外の音を完全に消せるわけではない。

「きゃあ!」

「ひぃ!」

「怖いよう!」

 子供たちは泣き出している。晶湖も雷の劈く音に思わず耳を覆った。

 晃輔は晶湖と子供たちを庇うように腕を広げて戦況を見守っていた。

「晃輔様!このままでは埒があきませぬ。尻尾の解放の許可を!」

 晃輔たちをかばいながらの戦闘では二人は互角である。朔の方が寧ろ押してはいるが、いかんせん避けるのに専念されると、戦闘時間が長引くだけである。子供達の様子も気になるし、早く病院に連れていきたい。それにどのくらい時間がたったのか、早朝までかかれば登山客がきてしまうかも知れない。

「わかった!許可する!」

 そう答えた瞬間、晃輔の中から何かがどっと吸い取られたような感覚がした。一瞬力が抜けて、思わず両膝をつく。

「晃輔先生?!」

 晶湖が慌てて晃輔を支える。

「ありがとう、大丈夫ですよ…」

 一瞬遅れて、朔の尻尾が五本に増える。五本の尻尾は花弁のようにぶわっと広がり、それと同時に朔の妖力と移動速度の急激に上がった。

「な、なにそれずるい!」

 朔の妖力が上がったのに気がついたのだろう。少女は逃げられるよう距離を取る。

 しかし、新たに増えた尻尾から発する小さな狐火が、少女の身体にいくつもの火の玉となってまとわりつき、動きを牽制する。逃げてもそこを透かさず追尾するように無数の針が襲う。慌てて姿を消して移動すると、先回りするかのように雷が飛んだ。

「きゃあああ!」

 ついに朔の雷が少女を捉えた。着ていた赤いワンピースは焦げて所々穴が空き、髪も焦げたように左半分がチリチリになっていた。顔は焼けただれ左の腕もだらんと垂らしている。

「ひどい…どうしてこんなひどいことするのよ!」

 少女は動く右手で全力で晃輔たちの方へ力の刃を放った。しかしそれは朔に阻まれる。そして反撃とばかりに朔の針が少女に襲いかかる。

「ぎゃっ!」

 少女は全身を針で貫かれて、ついに地に落ちた。

 無数の針に貫かれた身体は左半分は焼けただれ、刺された無数の穴からは血液に似た何かが流れ出していた。左腕はありえぬ方向へ折れ曲がり、引っかかった木の枝にだらりとぶら下がっていた。

「…私、負けちゃったの?」

 地面に横たわる少女はぽつりとつぶやいた。

「…そうだね。君の負けだ」

 晃輔はやるせない気持ちで言葉を返した。

「どうして…?私、お友だちが欲しかっただけなのに」

「…お友だちはね、最初は挨拶からはじめるものなんだ。『はじめまして、友達になってくれない?』ってね。出来れば名前を名乗ったほうがいいかな?」

「名前なんて…ないわ」

 少女は自嘲するように薄く笑った。

「そうか…じゃあ僕がつけてあげよう。君の名前はヒイロだ。緋色の(あかい)ワンピースがどこまでも似合う君にぴったりな名前だろう?」

「ヒイロ…悪くないわね」

 少女は今度は少し嬉しそうに笑ってみせた。

「そうだろう?」

「…おじさん…次は何して遊…ぶ…」

 ヒイロと呼ばれた少女はサラサラと砂になって消えていった。

 晃輔はその様子を黙って見つめていた。

「坊ちゃま」

 朔が晃輔に声をかける。

 晃輔が振り返ると、朔の後ろに心配そうにこちらを見てる晶湖の姿が目に入った。そしてその晶湖が庇うように自分に子供たちを寄せて抱えるようにしているのが目に入ると

「急いで山を降りよう」

 と全員に向かって言った。


 下りは慎重に山を降りる。子供たちは朔を最初はおっかなびっくりな様子で見ていたが、噛みついたりしないとわかると、朔の首や背中を撫でたりもふもふを味わったりしていた。

 一度に全員を運ぶのは難しいので、朔の背から転げ落ちないように晃輔の身体に子供たちをロープでくくりつけ、何度かに分けて麓まで降ろす。それからレンジローバーで近くの駐在所まで移動し、子供たちの保護を求めた。特に体力の落ちている子供はすぐに病院に搬送するよう手配をし、他の子供たちも病院に搬送されていった。それから事情聴取のようなものを受けたが、そこは朔に頼んで有耶無耶にしてもらうことにした。

 勿論本当の事を言えないからだ。

 それによって晃輔と晶湖の仲を誤解させたような印象がないではないが、そこは晶湖には悪いが黙っておくことにした。晶湖も特に否定するようなことはしなかったようだった。

 そうして色々後処理を行っているうちに気がつけば、東の空が白んできていた。

「夜が明けてしまったな」

 警察署から出て空を見ながら晃輔はうーんと一つ伸びをした。

「終わったんですかね」

 後ろからついてきた晶湖が声をかけた。

「そうだね。もしかすると、もう一回くらい警察から連絡が来るかも知れないけどね」

 朔に術でごまかしてもらった聞き取りについて思い出しながら、晃輔は、ははは、と乾いた笑いを漏らした。

「さて、帰ろうか」

 晃輔は晶湖に声をかけながら歩き出す。

「はい」

 晶湖も続いて歩き出した。

 数歩歩いたところで晃輔は、思い出したように晶湖に振り返った。

「あー、櫻川さん、助かったよ。…一緒にきてくれてありがとう」

「…はい」

 晶湖はニッコリと微笑んだ。

   

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