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匂いが丸い
土曜の午後、隆は一泊のゴルフ旅行に出かけ、
真央は部活の遠征で、朝から家にいなかった。
インターホンが鳴って、翔太が来た。玄関で靴を脱ぎながら、
台所のほうへ鼻を向ける。
「あ、これ、ビーフシチューだ。しかもたぶん、昨日から煮てる」
「当たり。よくわかるわね」
「だって匂いが丸いもん」
テーブルには、深い鍋のまま運んだシチューと、
ガーリックトースト、冷やした赤ワインを並べた。
翔太は白い皿によそわれたシチューを、いつものように一度、
鼻に寄せてから口に入れた。
「……肉、スプーンで切れる。ソース、ワインの酸が全然尖ってない。
やばい、これ、お店じゃ出ないですよ」
「そう? よかった」
美由紀はグラスを傾けて微笑んだ。うれしかった。うれしいのは本当だった。
「ねえ、美由紀さん」
翔太がスプーンを置いた。
「この前、実家に帰ったんですよ。母さんのごはん食べたら、
なんか、薄くて。美由紀さんのに慣れちゃったんだなって」
屈託のない声だった。けれど、そのとき翔太の目は、
美由紀ではなく、皿の底に残ったソースを見ていた。
美由紀は、「ありがとう」とだけ答えた。
帰りがけ、翔太は玄関で言った。
「次は、オムライス、楽しみにしてます」
鍋には、半分のシチューが残った。




