code02 進学③
ハルカと、あれこれ悩み続けて。
「あ、これが赤門だよね。入ろう」
「そうだね」
キャンパス見学に出かけることにした。
今日は東大――東京大学。
「これがよく見る安田講堂だー」
ほへー、とハルカが可愛く見上げている。
とんでもない暑さで、お互い汗が滲む。
「けっこうデカいね」
「こりゃ立派だね。歴史を感じる」
「教科書で見たんだもんね」
「東京にいたって、来ないもんね」
観光気分で、学内をまわる。
見たことある建物が他にもある。
キャンパス見学って……。
雰囲気を見ればいいのかな。
実際の受験レベルなんて分かる?
と、行ってみる度、いつも思う。
「合う学校って、なんなんだろうねー。
三朝はどう選ぶ?」
「え、うーん」
考えるようで、分からなかった。
「直感かな」
「出た。それは感性の強い人の答え」
「かな?」
歩き回って、くたびれかけていた。
東大、広すぎないか問題が浮上し。
それだけで候補から外れそうな――。
「あ」
突然、ハルカが声を上げ。
前から来た男の人に手を振り始めた。
男の人も、表情が変わる。
「おー、安永じゃん。キャンパス見学?」
「会えると思ったんですよー。夏休みだけど」
「熱心だからなー、俺は」
「知ってます」
「え、と。友達?」
「そう、同じ弓道部の。この人ね、私の中学の部活の先輩」
「ども」
東京では中学の試合に出てないから
見たことがなかった。
頭だけ下げておいた。
「あ、そう。このあと広川と待ち合わせなんだけど。
すぐ、そこ」
「えー、会いたい」
2人で、こちらを振り返った。
「ごめん、三朝」
「いいよ、行って。電話くれたら。休んでる」
ハルカと別れ、手近な建物に入った。
暑すぎたので、ちょうどよかった。
うろうろと歩き、自販機コーナーを発見する。
運よく、誰も居ない。
レモンティを買って、横の長いすに座った。
ちょうどエアコンの吹き出し口の真下。
天井から、冷たい風が吹き下ろしている。
――はー、これはいい。
目を閉じてしばらく冷気を浴びていた。
掲示板があって、印刷物が貼ってある。
目立たない場所、でも座った人は見るのか。
あらためて、考える。
進路をどこに定めるべきか。
ハルカは冗談のように言っていたが。
警察庁――考えないでもなかった。
伯父、伯母が聞いたら何と言うか。
まだ早い、よく考えろ、その辺だろうか。
思っていると――。
すっと自販機の前に誰かが立った。
がこんっと飲み物を買っている。
男の人らしい。
つい見ると。
取り出し口に屈んで、真隣で目が合った。
うわ――めちゃくちゃ格好いい……。
思わず下を向いていた。
本当に距離が近かった。
その人は。
なぜか三朝の前を通りすぎ。
長いすの反対端に座った。
え。
ちょっといる感じ?
席を立ったら、感じ悪い、よな……。
水を買って飲んでいるようだった。
じろじろ見れないので、紅茶を飲み。
前の掲示板を見ているふりをする。
「ごめん、いい?」
突然、話しかけられた!
つか、声まで好みだったりとか……。
見ると……。
奥に置いてあったタワー型灰皿をさしていた。
あ、なるほど。
「気にしないので……」
「ごめんね」
男の人は、さっと煙草を出している。
電子煙草のようだった。
その姿に見入ってしまう。
日差しが翳って、陰影濃く映している。
伏せた目と、煙草を運ぶ細い指。
――絵になるなあ。
はっと気づいて、さっと反らした。
あぶなかった。
こっちを見ている気がしないでもない。
……ねえ、早く電話くれないかなあ。
煙草がイヤなのではない。
ただ気まずかった。
電話を出して、画面を眺めた。
見る気もないニュースアプリなど開く。
2本目の煙草をセットしたらしかった。
しばし、時が流れていく。
音はないが、息遣いは分かってしまう。
意味なく画面を触っていると、
ようやく着信が入った。
「あ、ハルカ? どこ?」
通話しながら、その場を離れた。
煙草を捨てる姿が、目に残った。
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