code04 分岐③
黒塗りのセダン。
乗るのは初めてだった。
家の前に来るのは何度か見たが。
「藤原君、家は?」
「あ、いえ。駅で結構ですから」
「そう言わず。
助けてもらって、今夜はこんな事しか出来ないが。
せめて送らせてもらおう」
「……では、お言葉に甘えて……
新台橋まで、お願いします」
「心得ました」
即座に運転席から返答があって。
ハンドルを握る若い職員さん。
バックミラー越しに目が合った。
笑っているのか分からない。
でも、綺麗な目。
「君がいなければ、どうなっていたか……
危なっかしい娘でね。
迷惑をかけているんじゃないだろうか」
「いえ、その様なことは、けして」
「そういえば何度か名前を聞いていた。娘から。
弓道でも良くしてもらったとか」
「いや、はあ……」
「妻から、まだ帰らない、と連絡があってね。
私もこんな仕事をしてるから、何かあったかと。
そしたら本当に電話があってね。
これでも急いで来たんだが」
「来ていただけて助かりました。
僕も内心、冷や冷やしていましたから」
「無理もない。
刑事に話を聞かれるというのは、
誰でも気の良いものじゃないからな。
藤原君は娘の代わりに、
しっかり受け答えしてくれた、と。
さっきの署員から聞いたよ」
「いえ、そんな」
「また、この礼はさせてくれ。
日頃の面倒見のお礼もかねてな」
非常に好印象を持っている。
伯父の態度からすぐ分かった。
などと他人事のように考える自分。
藤原先輩が降りる時に。
貸してもらっていた上着を畳んで返した。
よく寝ろよ、と声までかけてくれて。
車内に、沈黙が降りた。
エンジン音と走行音。
たまに合うバックミラーの視線。
「……大事にならなくて良かったが」
ため息交じりの声が、心に重かった。
「のこのこと。1人で行くヤツがあるか」
「……ごめんなさい」
「少なくとも聞いてないぞ。
付き合ってるヤツがいたとか、どうとか」
「……はい」
「帰って千秋が何て言うか。
望はいいとして……しばらく家から出ないようにな」
「……わかりました」
「ちょうど大学も休みだろ。
勉強と、掃除でもしてなさい」
運転席から、少し笑い声がした。
伯父が目をやる。
「笑うことはないだろ」
「いえ、警視長。掃除って……
罰ゲームじゃないんですから」
「罰ゲームだ、文字通り。家族に心配をかけた。
あのな、こうみえて、この娘は――まあいい。
悪いが、あと少し。家まで頼むぞ」
「わかってますよ。
それにしても掃除かあ。いいですね」
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