code04 分岐②
赤いライトが辺りを染める。
サイレンを鳴らさず、構内へ来てくれた。
救急車と、パトカーのライト。
「そちらは、怪我はなかったんですね?」
ヘルメットと白衣と言うのか、
白っぽい服の救急隊の人が聞いてくれた。
頷くだけで、精一杯だったが――。
「この女性は大事ありません。
寸でのところで止めましたから」
「そうでしたか。
もし何かあるようでしたら迷わず病院へ。いいですね」
「わかりました。――お願いします」
凍えるようだった道場とは違って。
しっかりとした温かみが肩と背中にある。
藤原先輩は、心配して戻って来てくれた。
様子が変だったから気になって、と。
来てくれなかったら――。
耳が裂けていたかもしれない。
すぐ横を掠めた、数本の矢じりによって。
「……寒くないか?」
大丈夫です、と。
言おうとしたが声にならなかった。
『アンタだけは許さないから』
救急車内から目が離せず。
唇が震えて止まらない。
寒さのせいではなかった。
肩を抱いて、背中を守ってくれて。
上着まで貸してもらって、何も寒くない。
なのに。
「あれほど追いつめられてたとはな。
この寒さで、自殺行為だよ」
「…………」
「朝比奈と……付き合ってたんだな」
「…………」
「別れたのは聞いてたけど……
立樹の事は言われてなかったから」
「……はい」
「強引すぎるんだよな、朝比奈は。いつも」
「…………」
「一緒に行くんだったよ。ごめんな」
首だけは、強固に振った。
藤原先輩が謝るのだけは違った。
「なんとか助かればいいけど……というか……
立ち直れたらな」
救急車の中で、隊員の人が電話を切った。
頷いている。
引受先が見つかったのだと、分かった。
バックドアが閉じられ。
ふたたび構内を走り去っていく。
辺りは、まだ赤いままだった。
パトカーと、黒い覆面が残ったから。
「えー。名前と住所、年齢を」
おだやかそうだが声の堅い刑事だった。
「…………」
「立樹三朝、時田谷区梅谷、20歳……
だよな?」
「たつき、みささ、さんね。
今夜はどうしてこちらに?」
「……よ」
「呼び出されたみたいです、彼女に」
「彼女というのは加害者の?」
「いま運ばれた女性です」
「……佳央梨さんね。以前から面識が?」
「同じ部の1学年上です」
「1つ先輩、と。で? あなたは?」
「僕も同じ弓道部の1学年上、藤原正樹です」
「あなたはどうして?」
「帰りがけ、
この立樹さんに会ったものですから。
呼び止めて、様子がおかしかったので、
道場まで引き返しました」
「何かあると」
「今日の練習は夕方に終わっていましたから。
おかしいと思って」
「……あなた、4年生ですよね」
「うちの部は就活終わったヤツから
復帰する事が多いんです。経験者が少ないから」
「そうですか。――で、たつきさん、でしたね」
「はい……」
「今夜は何故、呼び出しを?」
「……それは……」
「トラブルがあったんですよね。
どういったトラブルですか。
何か揉めていた。じゃないと
矢を持って襲い掛からないでしょう」
「……はい」
「もしかして、男性トラブルですか?
こちらの藤原さん?」
「いえ、ちがいます……」
「ではどうして? 何があって――」
ずさーーーっと。
そこへ車の入って来る音がした。
自然、視線がそちらへ向かう。
刑事も、藤原さんも多分――。
乗りつけたのは、黒塗りの大きなセダン。
運転手に見覚えは全くなかったが。
後部座席から降り立ったのは――。
「……あれは?」
刑事が、こちらを振り返る。
思わず、交互に、背後と見比べてしまった。
つかつか、と真っすぐ歩み寄った。
「えーと? 親御さん、ですかな」
「この度はご迷惑をおかけいたしました」
「いえ。お父様、ですか」
「伯父です、この子……女性の」
「伯父? 失礼ですが、親御さんは?」
「いえ。中学3年から引き取って、私が面倒を見ています」
「ほう……それは、またど……」
と、と、と、とつかさんっ――。
まろぶように、若い刑事が駆け寄った。
戸塚という刑事に耳打ちしている。
顔面蒼白が伝播して――刑事が硬直した。
「た、大変失礼いたしました!
佐木沢警視長とはいざ知らずっ――」
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