第23章:七人の王子
人間の大陸から遥か遠く――
暗黒の山々と黒き海を越えた先に、
魔族の領域が存在していた。
そこは人間がほとんど生き残れぬ場所。
その日、黒い石で造られた巨大な広間で、
緊急会議が開かれていた。
七つの巨大な玉座が広間を囲み、
それぞれに恐ろしい存在が座していた。
七人の魔王子。
魔族領域で最も強大な存在。
彼らはそれぞれ七つの大罪を象徴し、
人間の理解を超える力を持っていた。
その位階はただ一つ。
――異常。
ランク10を超える力の階層。
第一の玉座には:
ルシファー ― 傲慢の王子
王子たちの指導者。
その威容は荘厳にして恐ろしく、
都市を丸ごと押し潰すほどの覇気を放つ。
第二の玉座には:
マモン ― 強欲の王子
宝と神器を愛し、
人間のどの王国よりも多くの古代遺物を所有すると言われる。
第三の玉座には:
アスモデウス ― 色欲の王子
優雅で狡猾な魔族。
その力は知略と同じほど危険。
第四の玉座には:
レヴィアタン ― 嫉妬の王子
沈黙し、観察し、常に計算している。
第五の玉座には:
ベルゼブブ ― 暴食の王子
巨躯。
その肉体の力は怪物的で、
軍勢を容易に壊滅させる。
第六の玉座には:
ベルフェゴール ― 怠惰の王子
ほとんど眠り続けるが、
目覚めれば戦争の行方を変える力を持つ。
そして最後の玉座には――
最も暴虐なる者。
サタン/ベリアル ― 憤怒の王子
その眼差しは怒りに満ち、
道を阻むものをすべて破壊すると知られていた。
その時、一人の魔族が報告した。
――人間の大陸へ送った探索隊長が…死んだ。
広間は静まり返った。
ルシファーは頬杖をつき、低く問う。
――誰が殺した?
魔族は答えた。
――不明です。
――だがその気配は、人間の都市ルンセラ付近で消えました。
マモンは笑みを浮かべた。
――面白い。
レヴィアタンは冷静に言った。
――毎年、人間は大会の後に戦士を我らの領域へ送り込む。
ベリアルは玉座を叩いた。
――ならば我らが行こう。
だがルシファーが手を上げた。
――いや。
――まずは観察だ。
――大会が近い。
――我らの隊長を殺した人間が誰か、知りたい。
魔族の軍は明確な階層を持っていた。
魔族の階級
将軍:心臓1つ
中尉:心臓2つ
隊長:心臓3つ
司令官:心臓4つ
魔王子:心臓7つ
力が増すごとに心臓を増やすのだ。
今回死んだ隊長は、
第三の心臓を形成しつつあった。
それでも――
人間にとっては極めて危険な敵だった。
――同じ頃、ルンセラ。
王宮の広間に、三人のランク10騎士が戻っていた。
彼らは魔族の死体を運び、
石の大机の上に置いた。
そこには都市の支配者、
アリス王女(31歳・ランク9) がいた。
幼少より王国最強の戦士たちに鍛えられ、
その才能は卓越していた。
ゆえに王はまだ後継者を定めていない。
アリスは死体を見つめ、
三人の騎士も立ち会った。
レイン(57歳・ランク10 剣士)
カエル(48歳・ランク10 槍の達人)
セラフィーヌ(62歳・ランク10 高位魔導師)
セラフィーヌは慎重に調べ、言った。
――これは普通の魔族ではない。
アリスが問う。
――どの階級?
セラフィーヌは胸を指した。
――第三の心臓が形成されていた。
レインは眉をひそめた。
――つまり…隊長級だ。
沈黙が広間を覆った。
隊長級は決して軽い敵ではない。
特に第三の心臓を完成させようとしていた者なら。
カエルは腕を組み、言った。
――だが奇妙なのはそれだけではない。
アリスが視線を上げた。
――何が奇妙なの?
カエルは答えた。
――森が真っ二つに裂けていた。
レインが続けた。
――一撃だ。
――それが全てを引き起こした。
アリスは沈思した。
――つまり誰かが…この魔族を倒し、
――森を丸ごと切り裂く一撃を放った。
彼女は窓辺へ歩み、街を見下ろした。
ルンセラの大会は間近に迫っていた。
その大会には重大な目的がある。
勝者は魔族領域へ赴く戦士の一人となる。
毎年同じことが繰り返され、
人間最強の者を選び出す唯一の方法だった。
アリス自身も参加を望んでいた。
だからこそ最強を選ばねばならない。
王女は命じた。
――警備を強化せよ。
――街へ入る者をすべて調査せよ。
――特に戦士たちを。
――この魔族を殺した者がいるなら…大会に現れるかもしれない。
三人の騎士はうなずいた。
レインが答えた。
――承知。
だが心の奥では皆、同じ疑問を抱いていた。
――誰が隊長級の魔族を討ったのか?
街のすぐ近く――
質素な宿屋で、
一人の盲目の青年が静かに休んでいた。
衣は破れ、
体は傷だらけ。
だが誰も知らなかった。
その青年こそが――
森を二つに裂いた者だった。




