2話 ガンスミス2
武器庫は地下区画のさらに奥にあった。
分厚い防爆扉が開く。
中には整然と並んだ銃器や装備品。
一般人が見れば軍の兵器庫と勘違いするだろう。
「おぉ〜♡」
蓮が楽しそうに声を上げる。
「相変わらずねぇ♡」
奥の作業台。
一人の男が座っていた。
大柄。
短く刈り込まれた髪。
無精髭。
鋭い目付き。
職人という言葉がそのまま人の形になったような男だった。
「真壁ちゃん♡」
「おひさ〜♡」
男は顔も上げない。
「やめろ」
即答だった。
「相変わらず愛想ないわねぇ♡」
「帰れ」
「ひどーい♡」
いつものことらしい。
真琴がいない理由が少しだけ分かった。
ひまりが湊の後ろへ半歩下がる。
「真壁さん怖いですぅ……」
「怖くないわよぉ♡」
蓮が笑う。
「聞こえてる」
「ひぃっ」
ひまりが更に下がった。
真壁はようやく顔を上げる。
その視線が湊へ向いた。
「神代湊か」
「ああ」
「聞いている」
それだけだった。
余計な挨拶もない。
説明もない。
真壁は立ち上がると奥の棚へ向かう。
大型のガンケースを持って戻ってきた。
作業台へ置く。
ロックを解除。
ゆっくりと蓋が開いた。
黒い緩衝材の中央。
一挺のライフルが収まっている。
Accuracy International AXMC。
黒一色の機能美。
無駄のないシルエット。
ただそこに置かれているだけで異様な存在感を放っていた。
「受け取れ」
湊はケースへ近付く。
ライフルを持ち上げる。
重心。
ストック。
チークピース。
ボルト。
トリガー。
指先で確かめる。
言葉はない。
しかし。
十分だった。
「どうだ」
「問題ない」
短い返答。
真壁は小さく頷いた。
「お前用に調整してある」
迅が僅かに眉を動かす。
二千メートル先を撃つためのライフル。
それを前提に調整された一挺だった。
「サイドアームは好きな物を選べ」
真壁が隣の棚を指差した。
そこには様々な拳銃が並んでいた。
SIG。
H&K。
Beretta。
FN。
特殊部隊向けのモデルばかり。
迅は迷わなかった。
H&K USP。
慣れた手付きで確認する。
一方。
湊は棚の前で立ち止まった。
視線が動く。
そして。
一挺の拳銃を手に取った。
Glock17 Gen5。
見慣れた感触。
何度も握ったグリップ。
何度も引いた引き金。
気付けばこれを選んでいた。
「それでいいのか」
迅が聞く。
「ああ」
湊は短く答えた。
「問題ない」
それ以上は言わない。
迅も聞かなかった。
真壁は次のケースを取り出す。
「近接用だ」
中には数本のナイフ。
軍用モデル。
どれも一級品だった。
しかし。
湊は首を横に振る。
「ある」
腰へ手をやる。
使い込まれたナイフ。
長年連れ添った愛用品だった。
真壁が視線を向ける。
「見せろ」
湊は黙って渡した。
真壁が鞘から抜く。
刀身を確認する。
角度を変える。
光を当てる。
何度も見る。
数秒。
職人の沈黙が続いた。
「……いいナイフだ」
初めて評価の言葉が出た。
「誰にもらった」
湊の動きが一瞬だけ止まる。
「恩師だ」
それだけだった。
真壁は頷く。
それ以上聞かない。
聞く必要もない。
思い入れがあることは分かった。
「貸せ」
真壁は作業台へ向かった。
砥石を取り出す。
静かな音が響く。
シュッ。
シュッ。
シュッ。
誰も喋らない。
蓮ですら黙って見ていた。
数分後。
真壁がナイフを返す。
「終わった」
湊は刀身を見る。
一見変わらない。
だが。
違う。
刃の通り方が違う。
わずかな差。
しかし確かな差だった。
「大事にしてるな」
真壁が言う。
「そうだな」
「そう見えた」
それだけだった。
真壁は踵を返す。
武器庫の奥へ向かう。
「裏だ」
短く告げる。
「試射場で撃て」
そして。
少しだけ振り返った。
「話はそれからだ」
その言葉に。
蓮が楽しそうに笑った。
「いよいよねぇ♡」
湊はAXMCを手に取る。
二千メートルの世界が。
もうすぐそこまで来ていた。
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