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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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2話 ブリーフィング

 内閣情報調査室。


 地下駐車場へ停められた車から降りた湊は、職員の案内で会議室へ向かっていた。


 廊下を歩く。


 すれ違う職員達が僅かに視線を向ける。


 だが誰も声はかけない。


 前回の埠頭事件以降。


 神代湊という名前は、内調の中でもある程度知られる存在になっていた。


 案内された会議室の扉が開く。


 中には既に数人が集まっていた。


 エマ。


 ひまり。


 そして。


「来たか」


 九条迅だった。


 学校で見る柔らかな笑顔はない。


 淡々とした表情。


 完全に監視官の顔だった。


 湊は席へ向かう。


「九条」


「今回は同じ任務だ」


 迅は短く言った。


「勘違いするな」


「監視だ」


「そうか」


 湊はそれだけ返した。


 迅は僅かに眉をひそめる。


 だが何も言わなかった。


 その時だった。


「あら♡」


 聞き慣れない声が響く。


 湊が振り向く。


 そこには一人の女性がいた。


 長身。


 整った顔立ち。


 どこか中性的な美しさを持つ人物。


 警察関係者らしいスーツ姿。


 そして妙に目立つ存在感。


「あなたが湊ちゃん♡?」


 初対面だった。


 だが妙に距離が近い。


「神代です」


「あらぁ♡」


 女性は楽しそうに笑った。


「湊ちゃんの方が可愛いじゃない♡」


 沈黙。


 湊は何と返していいか分からなかった。


「隊長」


 隣にいた小柄な女性がため息を吐く。


「困らせないでください」


 ショートカットの女性だった。


 真面目そうな顔立ち。


 警察関係者だろうか。


「紹介するわ」


 エマが口を開いた。


「SAT隊長。霧島蓮司」


 女性が胸に手を当てる。


「霧島蓮司よ♡」


 柔らかく微笑む。


「でもみんなからは蓮って呼ばれてるの♡」


「湊ちゃんもそう呼んでね♡」


 当然のように言った。


 湊は数秒沈黙した。


「……分かりました」


「あら♡」


 蓮は満足そうに笑った。


「いい子ね♡」


「隊長」


 隣の女性が再びため息を吐く。


「真面目にしてください」


「あら、真琴ちゃんひどい♡」


「SAT副隊長です」


 綾瀬真琴は湊へ軽く頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 形式的な挨拶。


 湊も軽く会釈を返す。


「みんな揃ったわね」


 エマがモニターを起動した。


 室内の空気が変わる。


 仕事の時間だった。


 スクリーンに横浜港の航空写真が表示される。


「今回の目標は李文龍」


 顔写真が映る。


「黒龍会幹部」


「二日後、横浜港で取引を行う可能性が高い」


 エマはリモコンを操作する。


 画面が切り替わる。


 複数の建物。


 複数のポイント。


 そして赤く塗られた場所が一つ。


「狙撃地点候補は三十二ヶ所」


 ひまりが説明を引き継ぐ。


「でも実際に使えるのは一ヶ所だけですぅ」


 次々と候補が消されていく。


「ここは射線が不安定」


「ここは敵に近すぎますぅ」


「ここは確保部隊が遠すぎますぅ」


 全て却下。


 最後に残ったのは一つだった。


 建設中の高層ビル。


「ここですぅ」


 ひまりが指し示す。


「距離約二千メートル」


 室内が静まる。


「唯一、確保作戦が成立する狙撃地点ですぅ」


 ひまりは続けた。


「最近建設が始まったビルなので、敵の警戒も比較的薄いと予想されますぅ」


 蓮が口笛を吹いた。


「二千メートルねぇ♡」


 真琴も少しだけ眉を上げる。


 普通なら不可能な距離だった。


 しかし。


 誰も異論を唱えない。


 神代湊が撃つのだから。


「目標は確保」


 エマが言う。


「可能なら生け捕りを優先して」


 そして一瞬だけ視線を落とした。


「……できれば、射殺は避けたい」


 小さな本音。


 会議室に沈黙が落ちる。


「甘いわね」


 蓮だった。


 だが責める口調ではない。


「相手は黒龍会よ♡」


「分かってるわ」


 エマも即答する。


「それでもよ」


 蓮は数秒だけエマを見た。


 そして肩を竦める。


「そういう所、嫌いじゃないわ♡」


 エマは何も返さなかった。


 代わりに資料を切り替える。


「状況次第では射殺命令へ変更される可能性がある」


「その場合は改めて指示する」


 迅が静かに頷いた。


 誰も反論しない。


 それが国家の判断だった。


 作戦開始まで残り二日。


 本格的な準備が始まろうとしていた。

ご拝読ありがとうございます。

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