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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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2話 緊急会議

 翌日。


 東京都千代田区。


 地下に設けられた国家危機管理センター。


 通常は大規模災害や有事の際に使用される会議室には、各省庁の幹部たちが集められていた。


 警察省。


 防衛省。


 公安調査庁。


 海上保安庁。


 そして内閣情報調査室。


 大型モニターには横浜港の航空写真が映し出されている。


 重苦しい空気が会議室を支配していた。


「それでは始めます」


 立花エマが席を立つ。


 全員の視線が集まった。


「埠頭事件の関係者への尋問結果です」


 スクリーンが切り替わる。


 映し出されたのは一人の男。


 鋭い目付き。


 短髪。


 無表情。


 名前が表示される。


 李文龍。


 会議室の空気が僅かに変わった。


「黒龍会幹部」


「中国系国際犯罪組織黒龍会の実質的な現場責任者です」


 エマが続ける。


「埠頭事件で拘束した構成員の証言により、黒龍会が天城美月誘拐事件の引き渡し先だったことが判明しました」


 ざわめきが起こる。


「現在、李文龍は国内に潜伏中です」


 スクリーンに写真が映し出される。


 短髪。


 鋭い眼光。


 無表情な男。


 黒龍会幹部。


 李文龍。


「尋問結果によれば、目標は二日後に横浜港より出国予定」


「出国前に何らかの取引を行う可能性が高いと判断しています」


 エマが説明を続ける。


 会議室の空気は重い。


 防衛大臣席に座る東雲隆弘が口を開いた。


「質問だ」


 全員の視線が集まる。


「李文龍が動く理由は」


 東雲は資料へ視線を落としたまま続ける。


「その程度の案件でわざわざ姿を見せる男ではない」


 エマも同意だった。


「私もそう考えています」


「ですが現時点では不明です」


「……そうか」


 東雲は短く頷いた。


 納得したわけではない。


 だが現時点で答えが存在しないことも理解していた。


「続けろ」


「はい」


 エマは次の資料を表示する。


「作戦案です」


 特殊部隊突入。


 公安による監視。


 海上保安庁による海上封鎖。


 複数の案がスクリーンに並ぶ。


 しかし。


「問題があります」


 エマの声が響く。


「李文龍は極めて慎重な人物です」


「異常を察知した場合、即座に撤退する可能性があります」


 公安調査庁の代表が頷いた。


「間違いない」


「だから今も捕まっていない」


 沈黙。


 誰もが理解していた。


 今回を逃せば次はない。


 その時だった。


「一案あります」


 活用派の幹部が口を開く。


 会議室の空気が変わる。


 処分派の数名が露骨に顔をしかめた。


「神代湊を投入します」


 やはり。


 誰もが予想していた名前だった。


「反対だ」


 即座に声が飛ぶ。


「監視対象だぞ」


「危険人物を作戦へ投入する気か」


「本末転倒だ」


 処分派が反発する。


 活用派も引かない。


「しかし成功率は上がる」


「成功率だけの問題ではない」


「国家安全保障上の脅威を増やしてどうする」


 議論が熱を帯びる。


 だが。


「静かに」


 東雲の一言で全員が口を閉じた。


「監視担当は来ているか」


 後方の扉が開く。


 制服姿の少年が入室した。


 九条迅。


 会議室の一部が僅かに反応する。


「……九条か」


「九条家の」


「そうか」


 それ以上は誰も言わない。


 迅は一礼すると前へ進んだ。


「報告しろ」


 東雲が言う。


「はい」


 迅は頷いた。


「神代湊について報告します」


 会議室が静まる。


「まず学校生活についてです」


 迅は資料へ視線を落とした。


「問題行動は確認されていません」


「遅刻、欠席ともに無し」


「学業成績も良好」


「教職員及び生徒との関係も概ね良好です」


「品行面については問題なしと判断します」


 まずは客観評価。


 会議室の数名がメモを取る。


 そして。


 迅は一度言葉を切った。


「次に私個人の評価です」


 空気が変わる。


「危険です」


 言い切った。


「私がこれまで接触した人物の中でも突出しています」


「身体能力」


「戦闘能力」


「状況判断能力」


「いずれも常識の範疇を超えています」


 誰も口を挟まない。


「先日の埠頭事件においても」


「通常では説明できない戦果を挙げています」


「監視が必要な危険人物であるという評価は変わりません」


 迅の声は淡々としていた。


「また」


「彼が本気で暴走した際」


「それを抑止する手段が現状不足しています」


 会議室の空気が重くなる。


「暴走した場合」


「被害は想像を絶する規模になると予測されます」


 処分派の幹部が満足そうに頷く。


 迅は続けた。


「よって私個人の意見としては」


 短い沈黙。


「即刻処分が妥当であると考えます」


 活用派が顔をしかめる。


 処分派は満足そうだ。


 だが。


 迅はまだ終わっていなかった。


「しかし」


 全員の視線が集まる。


「今回の作戦は別です」


 東雲が目を細める。


「出国予定まで二日」


「準備に使える時間は四十八時間を切っています」


「目標は李文龍」


「失敗は許されません」


 迅は続ける。


「その条件下において」


「神代湊以上の適任者を私は知りません」


 沈黙。


「特殊部隊狙撃手」


「SAT」


「防衛省要員」


「候補は検討しました」


「しかし」


「要求される射程」


「精度」


「成功率」


「全てにおいて神代湊が上回ります」


 そして。


「国家利益を優先するならば」


「本作戦に限り利用すべきです」


 会議室が静まり返る。


「なお」


 迅は最後に付け加えた。


「作戦行動中は私が監視につきます」


「必要と判断した場合」


「私が対処します」


 東雲は腕を組んだまま目を閉じた。


 長い沈黙。


 やがて。


「……気に入らん」


 誰もが息を呑む。


「だが」


 東雲はゆっくりと目を開いた。


「現状最善だ」


 防衛大臣としての結論だった。


「神代湊の投入を承認する」


 会議室に重い静寂が落ちる。


 誰も喜ばなかった。


 だが。


 誰も異論を唱えられなかった。


 そして会議は続く

ご拝読ありがとうございます。

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