1話 天城救出作戦10
昨日、投稿忘れて寝てしまったので連投します。
1話は書き切っているので今日中に1話は全部投稿します!
責任者の身体が崩れ落ちた。
床へ倒れる。
動かない。
完全に意識を失っていた。
終わった。
その瞬間だった。
二号倉庫を覆っていた緊張が、ようやく解ける。
銃声はもう聞こえない。
怒号も消えた。
無線も鳴らない。
残っているのは負傷した男たちの呻き声だけだった。
「ぐっ……」
「痛ぇ……」
「腕が……」
床へ転がる構成員たち。
肩を撃たれた者。
太腿を撃たれた者。
膝を撃ち抜かれた者。
誰も立ち上がれない。
誰も戦えない。
だが誰も死んでいない。
三十人近い男たちが倉庫内外へ倒れている。
それでも死体は一つもなかった。
神代湊は静かに周囲を見渡す。
脅威なし。
確認終了。
ようやく視線を天城美月へ向けた。
両手を拘束されている。
顔には疲労が滲んでいる。
だが大きな怪我は見当たらない。
(無事だな)
短く確認する。
それだけだった。
湊はゆっくりと歩き出す。
拘束を解くために。
一方、美月は近付いてくる湊を見ていた。
同じ制服。
同じ新入生。
今日の朝、入学式で会ったばかりのクラスメイト。
それなのに。
さっきまで映画の主人公みたいな戦いをしていた。
未だに現実感がない。
何を言えばいいのか分からない。
それでも。
何か言わなければと思った。
「神代く――」
その時だった。
電子音が鳴る。
場違いな着信音。
静まり返った倉庫の中へ響く。
湊が足を止めた。
ポケットから携帯電話を取り出す。
画面を見る。
表示された名前。
立花エマ。
湊は通話ボタンを押した。
「もしも――」
『湊ォォォォォォォォッ!!!!!』
爆音だった。
携帯を耳に当てている湊が少し顔をしかめる。
だが。
それ以上に。
離れた場所にいる美月にまで聞こえていた。
思わず肩が跳ねる。
『今どこにいるの!?』
『無事なの!?』
『怪我は!?』
『美月ちゃんは無事なの!?』
一息。
そして。
さらに声が大きくなる。
『いや違う!!』
『そうじゃない!!』
『何やってるのよあんたはぁぁぁぁぁ!!』
倉庫中に響く怒声。
美月は呆然とする。
さっきまで三十人近い相手を制圧していた人物が。
今。
電話越しに怒鳴られている。
『防犯カメラ全部見たわよ!!』
『首都高で何してるの!?』
『追跡車両に体当たり!?』
『料金所突破!?』
『車列に突っ込んでるじゃない!!』
エマの怒声は止まらない。
『しかも単独行動!!』
『なんで連絡しないの!?』
『なんで待てないの!?』
『なんで毎回そうなるの!?』
湊は黙って聞いている。
反論しない。
できない。
言われていることは全部事実だった。
『今どこ!?』
「二号倉庫です」
『それは知ってるわよ!!』
即答だった。
『だから今向かってるんでしょうが!!』
湊が少しだけ視線を逸らす。
怒られている。
完全に怒られている。
先ほどまでの戦闘中には一切見せなかった反応だった。
美月はぽかんとしていた。
頭が追い付かない。
誘拐された。
助けられた。
戦闘を見た。
人質になった。
救出された。
そして今。
命懸けの戦いを終えたばかりの少年が。
保護者らしき女性に本気で叱られている。
意味が分からない。
『いい!?』
エマの声が再び響く。
『そこから一歩も動くな!!』
『絶対だからね!!』
『十五分で着く!!』
『それまで大人しくしてなさい!!』
そこで通話が切れる。
沈黙。
再び倉庫が静かになる。
残るのは負傷者たちの呻き声だけ。
湊は携帯電話を見つめる。
怒られた。
かなり怒られた。
そして。
ゆっくり顔を上げる。
目の前には美月がいる。
美月は数秒黙ったまま。
それから。
小さく吹き出した。
「……神代くん」
湊が視線を向ける。
美月は少しだけ笑った。
「怒られてたね」
湊は数秒考える。
そして。
「はい」
素直に認めた。
その返事が妙におかしくて。
美月は、誘拐されてから初めて自然に笑った。
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