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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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1話 天城救出作戦9

 二号倉庫の外で怒号が響いた。


 無線が飛び交う。


 足音が増えていく。


 責任者の叫びを受け、倉庫街に散っていた残党たちが集まり始めていた。


「二号倉庫だ!」


「急げ!」


「囲め!」


「逃がすな!」


 男たちが走る。


 拳銃。


 鉄パイプ。


 ナイフ。


 統一された装備ではない。


 だが数はいる。


 倉庫の入口。


 そこに立っているのは一人だけだった。


 神代湊。


 学生服。


 ナイフ一本。


 その姿を見て、男たちは一瞬だけ戸惑った。


 聞いていた話と違う。


 首都高で車列を壊滅させた。


 倉庫街へ侵入した。


 見張りを消した。


 二号倉庫を突破した。


 そんな相手が。


 たった一人の高校生。


 信じられるはずがない。


 だが。


 床に倒れている仲間たちが現実だった。


「撃て!!」


 誰かが叫ぶ。


 銃声。


 弾丸が飛ぶ。


 だが当たらない。


 湊は既に動いていた。


 横へ。


 前へ。


 柱の陰へ。


 コンテナの死角へ。


 無駄がない。


 倒れていた男の腰から拳銃を引き抜く。


 ベレッタ92FS。


 金属の重みが掌に収まる。


 湊は一瞬だけスライドを見る。


 残弾確認。


 少ない。


 だが十分だった。


 発砲。


 一発。


 男の肩。


 絶叫。


 拳銃が落ちる。


 二発目。


 太腿。


 男が崩れる。


 三発目。


 手首。


 武器を失う。


 四発目。


 膝。


 立てなくなる。


 外さない。


 殺さない。


 ただ戦闘能力だけを奪う。


 男たちは混乱した。


「なんだこいつ!」


「当てろ!」


「撃てぇ!!」


 銃声が重なる。


 だが湊には届かない。


 弾丸の軌道。


 射線。


 撃つ前の肩の動き。


 視線。


 全て見えている。


 そして湊の弾は外れない。


 必要な箇所へ。


 必要な数だけ。


 一人。


 また一人。


 さらに一人。


 男たちが倒れていく。


 やがてベレッタのスライドが後退したまま止まった。


 弾切れ。


 湊は迷わない。


 空になった拳銃を捨てる。


 床を滑る金属音。


 同時に、倒れていた別の男から二挺目を奪う。


 さらにもう一挺。


 左右の手にベレッタが収まる。


 男たちが息を呑んだ。


「ふざけるな!」


 発砲。


 左。


 肩。


 発砲。


 右。


 膝。


 発砲。


 左。


 手首。


 発砲。


 右。


 太腿。


 次々と崩れていく。


 誰も死なない。


 だが誰も立ち上がれない。


 数だけが減っていく。


 人数差が意味を失っていく。


 ◇


 倉庫の奥。


 拘束された美月は、それを見ていた。


 理解できない。


 現実感がない。


 同じ制服。


 同じ新入生。


 今日、入学式で会ったばかりのクラスメイト。


 そのはずだった。


 だが目の前にいる少年は違った。


 誰よりも危険な場所に立ちながら。


 誰よりも落ち着いている。


 誰よりも正確に敵を倒していく。


 怖い。


 けれど。


 不思議と、その恐怖よりも安心の方が大きくなっていた。


 彼は自分を助けに来た。


 その事実だけが、美月の中で大きくなっていく。


 ◇


 最後の男が倒れた。


 静寂。


 残るのは一人だけ。


 責任者。


 血まみれの男が笑っていた。


 壊れたような笑み。


 敗北を認めた笑みではない。


 最後の悪あがきを思いついた者の笑みだった。


 突然、男が美月の身体を掴んだ。


「っ!」


 美月の身体が引き寄せられる。


 首筋へ冷たいものが当たる。


 ナイフ。


 責任者は美月を盾にした。


「そこで止まれ」


 荒い呼吸。


 だが目だけは必死だった。


「武器を捨てろ」


 湊は止まる。


 右手のベレッタは下ろさない。


 銃口も動かさない。


 責任者の額に汗が浮かぶ。


「聞こえなかったか?」


 怒鳴る。


「捨てろ!!」


 湊は答えない。


 沈黙。


 その態度が責任者をさらに焦らせる。


「捨てろって言ってんだ!!」


 刃が押し付けられる。


 美月の首筋に赤い線が走った。


 血が一筋伝う。


 美月が息を呑む。


 責任者は勝ったと思った。


 人質がいる。


 もう撃てない。


 そう信じた。


 だから。


 次の瞬間に起きたことを理解できなかった。


 銃声。


 一発だけ。


 最後の一発。


 弾丸が一直線に飛ぶ。


 狙いは頭ではない。


 胸でもない。


 ナイフを握る腕。


 弾丸が撃ち抜いた。


「ぎゃああああああ!!」


 悲鳴。


 ナイフが床へ落ちる。


 その瞬間、湊は動いていた。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 距離が消える。


 責任者が痛みに反応するより速い。


 至近距離。


 拳。


 腹部。


 衝撃。


 男の身体が折れる。


 声も出ない。


 そのまま崩れ落ちる。


 意識を失う。


 完全沈黙。


 終わった。


 倉庫内に静寂が戻る。


 怒号もない。


 銃声もない。


 無線も聞こえない。


 倒れている男たち。


 意識を失った責任者。


 そして。


 拘束されたままの天城美月。


 神代湊は静かに銃を下ろした。


 長かった夜が、ようやく終わろうとしていた。

ご拝読ありがとうございます。

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