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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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1話 天城救出作戦7

「裏だ!」


 男の怒鳴り声が倉庫街へ響く。


 静寂は終わった。


 懐中電灯が動く。


 無線が飛ぶ。


 怒号が響く。


 武器を掴む音が聞こえる。


 数秒前までの優位は消えていた。


 だが。


 神代湊は足を止めない。


 見つかった。


 それだけだ。


 天城美月の位置は確認済み。


 敵の配置も把握している。


 ならば優先順位は変わらない。


 救出。


 それだけだった。


 入口の見張りが拳銃へ手を伸ばす。


「止めろ!」


 怒鳴り声。


 だが遅い。


 湊は既に踏み込んでいる。


 一直線。


 二号倉庫の内部へ。


 一人目。


 拳を喉へ叩き込む。


 呼吸を失った男が崩れる。


 二人目。


 腹部。


 膝。


 顔面。


 床へ沈む。


 三人目が発砲する。


 乾いた銃声。


 弾丸が鉄骨へ突き刺さる。


 だが当たらない。


 湊は既に横へ移動している。


 腕を掴む。


 捻る。


 拳銃が落ちる。


 そのまま床へ叩きつけた。


 残る見張りも反応する。


 武器を抜く。


 構える。


 だが間に合わない。


 数秒後。


 入口を守っていた男たちは全員床へ転がっていた。


 誰も立ち上がらない。


 そして。


 倉庫内。


 全員の視線が侵入者へ向く。


 ◇


 天城美月は顔を上げる。


 誰かがいる。


 暗闇から現れた人影。


 見覚えがある気がした。


 だが分からない。


 こんな場所にいるはずがない。


 そんな相手だった。


 ◇


 奥にいた男がゆっくり立ち上がる。


 現場責任者。


 倒れた部下たちを見る。


 入口。


 床。


 血。


 そして侵入者。


 学生服。


 ナイフ一本。


 若い。


 あまりにも若い。


 責任者の眉が僅かに動く。


「……ガキか」


 低い声。


 周囲も戸惑っていた。


 高校生にしか見えない。


 だが。


 入口を守っていた連中は全員倒れている。


 その事実だけが現実だった。


「ふざけるな……」


 責任者が吐き捨てる。


「護衛三台潰したのがガキ一人だと?」


 湊は答えない。


 答える意味がない。


 視線は天城美月だけを捉えていた。


 責任者はその視線に気付く。


「なるほど」


 口元が歪む。


「嬢ちゃんが目当てか」


 護衛たちが武器を構える。


 緊張。


 沈黙。


 そして。


 崩れる。


 湊が先に動いた。


 距離。


 一瞬。


 護衛一人目。


 喉。


 崩れる。


 二人目。


 腕を取る。


 投げる。


 棚へ激突。


 三人目。


 拳銃を抜く。


 遅い。


 ナイフの柄が側頭部へ叩き込まれる。


 昏倒。


 四人目。


 殴りかかる。


 避ける。


 鳩尾。


 沈む。


 五人目。


 発砲。


 弾丸が空を切る。


 次の瞬間。


 視界が反転する。


 床。


 終了。


 数秒。


 それだけだった。


 護衛は全員倒れる。


 残るのは責任者一人。


 ◇


 責任者は初めて表情を変えた。


 驚き。


 警戒。


 そして苛立ち。


「ふざけやがって……」


 拳銃を抜く。


 湊が踏み込む。


 発砲。


 避ける。


 距離が消える。


 腕を掴む。


 銃口を逸らす。


 組み合い。


 近い。


 呼吸が聞こえるほどに。


 責任者も素人ではなかった。


 裏社会で生き残ってきた男だ。


 拳。


 肘。


 体重移動。


 汚い。


 だが実戦的だった。


 しかし足りない。


 速さも。


 正確さも。


 経験も。


 全て。


 神代湊の方が上だった。


 責任者の体勢が崩れる。


 肩を掴む。


 投げる。


 男の身体が宙を舞う。


 木箱へ激突。


 段ボールが崩れる。


 鉄製ラックが倒れる。


 轟音が倉庫内へ響いた。


 終わった。


 普通なら。


 だが。


 責任者は倒れたままではなかった。


 崩れた荷物の中へ手を突っ込む。


 何かを探している。


 湊は追撃へ移る。


 距離を詰める。


 あと数歩。


 その時だった。


 男の手が黒い金属を引き抜く。


 Vz.61 スコーピオン。


 短機関銃。


 責任者の顔に初めて余裕が戻る。


 勝てる。


 そう思った。


「死ねぇッ!!」


 轟音。


 連続射撃。


 鉄骨へ弾痕が走る。


 木箱が吹き飛ぶ。


 破片が散る。


 火花。


 粉塵。


 倉庫内の空気が変わる。


 だが。


 湊は驚かない。


 柱の陰へ飛び込む。


 着弾。


 コンクリートが削れる。


「どうした!!」


 責任者が叫ぶ。


「来いよ!!」


 発砲。


 発砲。


 発砲。


 恐怖を撃ち尽くすような連射。


 だが。


 湊は見ている。


 発射位置。


 反動。


 連射速度。


 銃口の流れ。


 そして。


 撃っている男自身を。


(近い)


 それだけだった。


 近距離。


 遮蔽物多数。


 視界不良。


 短機関銃の優位を最大限発揮できる環境ではない。


 責任者が再び撃つ。


 柱へ向けて。


 湊がいるはずの場所へ。


 だが。


 もういない。


「――どこだ」


 責任者が初めて焦る。


 視界から消えている。


 次の瞬間。


 左。


 視界の端。


 黒い影。


 銃口を向ける。


 間に合わない。


 湊は既に踏み込んでいる。


 ナイフが閃く。


「ぐあぁぁッ!!」


 腕が裂ける。


 スコーピオンが跳ね上がる。


 暴発。


 天井へ弾丸が走る。


 火花。


 金属音。


 短機関銃が床へ落ちた。


 その瞬間。


 責任者は理解する。


 勝てない。


 ここでは。


 この距離では。


 だから。


 最後の手段を選ぶ。


 腰の無線機を引き抜く。


「二号倉庫だ!!」


 怒号。


 倉庫全体へ響く。


「全員来い!!」


 湊が距離を詰める。


 だが間に合わない。


「侵入者だ!!」


「今すぐ来い!!」


「殺して構わねぇ!!」


 叫び。


 絶叫。


 焦り。


 恐怖。


 全てを吐き出す。


 そして。


 無線が返る。


 複数。


 同時。


 倉庫街全体が動き始める。


 遠くから足音が聞こえる。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 増えていく。


 怒号。


 無線。


 武器を持って走る音。


 責任者は床へ崩れ落ちる。


 血まみれ。


 敗北している。


 それでも笑った。


「もう遅ぇよ……」


 荒い呼吸。


 狂気じみた笑み。


「お前は終わりだ……」


 湊は答えない。


 視線を動かす。


 責任者。


 倒れた護衛たち。


 そして。


 拘束された天城美月。


 本当の問題は敵の数ではない。


 時間だった。


 拘束解除。


 安全確保。


 脱出経路。


 その全てを終える前に敵が集結する。


 残された猶予はわずか。


 倉庫入口の向こうに影が現れる。


 一人。


 二人。


 三人。


 さらに増える。


 そして。


 天城美月はまだ知らない。


 目の前で暴力団たちを蹂躙している侵入者が。


 今日、入学式で出会ったばかりの。


 同じクラスの男子生徒だということを。

ご拝読ありがとうございます。

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