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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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1話 天城救出作戦6

 二号倉庫は近かった。


 先ほどスマートフォンで確認した地図と、巡回要員から聞き出した情報は一致している。


 大型コンテナが積み上げられた区画の先。


 照明に照らされた開けた空間。


 その奥に古びた鉄骨倉庫が見えた。


 二号倉庫。


 天城美月が監禁されている場所。


 湊はすぐには動かない。


 コンテナの陰から周辺を観察する。


 焦る理由はなかった。


 生存は確認済み。


 必要なのは速度ではなく確実性だ。


 ◇


 最後の警戒要員は二人だった。


 倉庫入口から少し離れた位置。


 外周監視。


 侵入者対策というより接近監視の役割だろう。


 二人とも拳銃を所持している。


 だが油断していた。


 周囲は仲間だらけ。


 侵入者などいるはずがない。


 そう思い込んでいる。


 だから。


 十秒後には二人とも意識を失っていた。


 ◇


 合計十人。


 発砲なし。


 悲鳴なし。


 無線連絡なし。


 倉庫街は依然として静かなままだった。


 湊は壁面沿いに移動する。


 窓。


 出入口。


 照明。


 監視位置。


 全てを確認していく。


 そして。


 倉庫内部を視認した。


 ◇


 椅子。


 拘束された少女。


 乱れた制服。


 後ろ手に縛られた両腕。


 猿轡。


 不安げに揺れる視線。


 天城美月だった。


(生きている)


 胸の奥で張り詰めていたものがわずかに緩む。


 間に合った。


 少なくともまだ。


 引き渡しは行われていない。


 湊は視線を動かす。


 責任者。


 護衛。


 出入口。


 射線。


 拘束解除までの距離。


 逃走経路。


 頭の中で組み立てる。


 突入は可能。


 問題は順番だけだ。


 責任者。


 護衛。


 拘束解除。


 最短三十秒。


 十分に間に合う。


 そう判断した。


 ◇


 一方。


 天城美月は俯いていた。


 時間の感覚は曖昧だった。


 どれくらい経ったのかも分からない。


 ただ怖かった。


 父は来るのだろうか。


 警察は。


 誰か助けてくれるのだろうか。


 そんなことばかり考えていた。


 その時。


 何かを感じた。


 視線。


 誰かが見ている。


 顔を上げる。


 窓の外。


 暗闇。


 そこに人影があった。


 誰かは分からない。


 だが。


 確かにそこにいた。


 ◇


 その瞬間だった。


 ♪♪♪


 電子音。


 不意に鳴り響く着信音。


 湊の動きが止まる。


 一瞬。


 何の音か理解が追いつかない。


 そして気付く。


 ポケット。


 携帯電話。


 画面が光っている。


 表示された名前。


 立花エマ。


(……)


 思い出す。


 マナーモード。


 学校では設定しろ。


 授業中は音を鳴らすな。


 普通の高校生なら当たり前のこと。


 だが湊にはまだ馴染みがない。


 携帯を持つようになったのは最近だ。


 連絡が来れば出る。


 必要なら使う。


 その程度の認識しかない。


 だから忘れていた。


 監視なら忘れない。


 尾行なら忘れない。


 戦闘なら忘れない。


 だが。


 日常の常識は別だった。


 ◇


「……誰だ?」


 入口付近の男が顔を上げる。


「おい」


「今の音、聞こえたか?」


 別の男も振り返る。


 湊は即座に着信を切る。


 だが遅い。


 もう聞かれている。


 そして。


 倉庫の中。


 天城美月の目が大きく見開かれる。


 気付いたからだ。


 あの人影が。


 自分を助けに来た誰かだと。


 ◇


「裏だ!」


 懐中電灯が向く。


 光が暗闇を切り裂く。


「誰かいるぞ!!」


 怒号。


 空気が変わる。


 責任者が顔を上げる。


 護衛たちが武器へ手を伸ばす。


 天城美月が息を呑む。


 静かだった倉庫街が動き始める。


 ステルスは終わった。


 そして。


 救出作戦が始まる。

ご拝読ありがとうございます。

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