1話 天城救出作戦3
二人組だった。
倉庫街外周。
巡回要員。
見張り。
責任者の指示で周辺警戒に出された人間たちだろう。
だが緊張感は薄かった。
腰には拳銃。
それなりに場数も踏んでいる。
それでも手は武器に伸びていない。
歩き方にも余裕がある。
警戒というより確認作業。
そんな空気だった。
「つーかよ」
一人が煙草を取り出す。
「兄貴も神経質になり過ぎじゃねぇ?」
ライターを鳴らす。
火が灯る。
隣の男が鼻で笑った。
「それな」
「車一台だろ?」
「しかも護衛連中がやられたとか言ってたやつか?」
二人が笑う。
「仮に五人乗ってたとしてもよ」
煙を吐く。
「こっちは三十人近くいるんだぞ?」
「倉庫ごと囲んで終わりだろ」
「見つけたら袋叩きだな」
「兄貴が半殺しにして連れてこいって言ってたしな」
また笑う。
追われている感覚などない。
自分たちが狩る側。
それが当然だった。
実際。
人数。
武装。
地形。
全て自分たちが有利なはずだった。
だから油断する。
だから気付かない。
自分たちが既に監視されていることに。
◇
神代湊はコンテナの影にいた。
姿勢は低い。
呼吸は静か。
視線だけが男たちを追っている。
二人。
武装あり。
練度は低くない。
だが問題にならない。
重要なのは数ではなく順番だった。
どちらを残すか。
それだけ。
男たちはそのまま進む。
照明を抜ける。
倉庫脇を通る。
コンテナ群へ入る。
死角。
人目の届かない場所。
湊が動いた。
音はない。
影から影へ。
夜そのものが移動したようだった。
一人目。
煙草を咥えた男。
ライターをポケットへ戻そうとしている。
視線が落ちる。
その瞬間だった。
背後から腕が伸びる。
口を塞ぐ。
首を固定する。
「っ――」
声にならない。
反射的に暴れようとする。
だが遅い。
頸動脈が圧迫される。
数秒。
それだけだった。
男の意識が落ちる。
身体から力が抜ける。
煙草だけが地面へ転がった。
湊は倒れる身体を支える。
音を立てない。
そのままコンテナの影へ引きずる。
全て十秒も掛からない。
◇
もう一人は気付いていなかった。
数歩進む。
違和感。
足音が一つ足りない。
「ん?」
振り返る。
誰もいない。
「おい?」
面倒そうな声。
警戒ではない。
苛立ちだった。
「どこ行ったんだよ」
来た道を戻る。
コンテナの角を覗く。
そこで見つけた。
地面に倒れている仲間。
「な――」
最後まで言えない。
背後。
腕。
首。
一瞬で拘束される。
叫ぼうと口を開く。
だが。
冷たい金属が口内へ押し込まれた。
ナイフ。
刃先が舌のすぐ先にある。
「――っ!?」
男の身体が硬直する。
少しでも暴れれば、自分の口の中が裂ける。
理解するのに時間は掛からなかった。
呼吸だけが荒くなる。
湊は男をコンテナ裏へ引きずり込む。
周囲を確認する。
人影なし。
監視なし。
無線なし。
問題ない。
男は震えていた。
恐怖で顔色が変わっている。
「今から質問する」
感情のない声。
「声を出すな」
ナイフがわずかに動く。
男の肩が跳ねた。
「肯定なら頷け」
「否定なら首を振れ」
男は必死に頷く。
「天城美月は生きているか」
即座に頷く。
「この倉庫街の中にいるか」
頷く。
「移送はまだか」
頷く。
「監禁場所を知っているか」
頷く。
湊の目が細くなる。
「何号倉庫だ、数字の分だけ首を縦に振れ」
男は首を縦に2回頷く。
「二号倉庫だな」
頷く。
「事務所棟か」
強く頷く。
「一階か」
頷く。
「見張りがいるか」
頷く。
「三十人以上か」
頷く。
「四十人以上か」
首を横に振る。
湊は無言になる。
頭の中で配置を組み立てる。
人数。
警戒態勢。
監禁場所。
脱出経路。
必要な情報が少しずつ埋まっていく。
男は必死に頷き続ける。
助かりたい。
それだけだった。
「この現場で一番偉い奴はいるか」
頷く。
「倉庫内にいるか」
再び頷く。
十分だった。
必要な情報は揃った。
男は安堵しかける。
協力した。
答えた。
だから助かる。
そう思った。
だが。
湊の表情は変わらない。
目の前の男は敵だ。
情報源。
それ以上でも以下でもない。
その頃。
倉庫街ではまだ誰も気付いていなかった。
二人の巡回要員が消えたことに。
そして。
それが始まりに過ぎないことにも。
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