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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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1話 天城救出作戦1

 倉庫の奥。


 鉄製の扉が開く。


 全員の動きが止まった。


 男たちが自然と道を空ける。


 誰も指示していない。


 それでもそうなった。


 現場責任者が現れたからだ。


 四十代半ば。


 大柄ではない。


 だが妙な威圧感がある。


 運転手の顔色が変わった。


 追跡者への恐怖とは別の反応。


「……あ」


 喉が鳴る。


 失敗した。


 その事実が今さら現実味を帯びる。


 責任者が近付く。


 足音だけが響く。


 運転手は無意識に一歩下がった。


「おい」


 低い声。


 それだけで空気が凍る。


「何があった」


 運転手は息を呑む。


「お、追手です……」


「誰だ」


「分かりません」


 責任者は黙ったまま続きを待つ。


「黒いWRXで……」


「何人だ」


「い、一台です」


 周囲から失笑にも似た空気が漏れる。


 一台。


 護衛車両三台を相手に。


 そんな話を誰が信じる。


 だが運転手は必死だった。


「本当なんです!!」


「気付いたら横にいて!!」


「兄貴もやられたんです!!」


「ブラボーも!!」


「チャーリー1も!!」


 責任者は最後まで聞いていた。


 途中で遮らない。


 否定もしない。


 ただ聞く。


 それが逆に恐ろしかった。


 やがて。


 責任者が口を開く。


「つまり」


 運転手が息を呑む。


「お前は何も分かってねぇんだな」


 沈黙。


「え……?」


「相手の人数も分からねぇ」


「所属も分からねぇ」


「目的も分からねぇ」


「顔も見てねぇ」


 一歩前に出る。


「分かってるのは黒いWRXってことだけか?」


 運転手の顔が青ざめる。


 その通りだった。


 責任者は腰から拳銃を抜く。


 周囲の誰も驚かない。


 運転手だけが目を見開く。


「ま、待ってください……!」


「本当なんです!」


「俺は――」


 発砲。


 一発。


 運転手が崩れ落ちる。


 静寂。


 責任者は死体を見下ろした。


「使えねぇ」


 吐き捨てる。


「失敗は別にいい」


 誰も口を挟まない。


「だが情報を持ち帰れねぇ奴はゴミだ」


 その言葉に、部下たちは背筋を伸ばした。


 この男がなぜ責任者なのか。


 全員知っている。


 強いからではない。


 冷徹だからだ。


「入口の警戒を増やせ」


 責任者が命じる。


「見張りは倍だ」


「二人一組で動け」


「倉庫周辺も洗え」


 部下たちが動き出す。


 責任者は続ける。


「相手がいるなら捕まえろ」


「腕でも脚でも撃って構わねぇ」


「だが一人は生かして連れてこい」


 その目が細くなる。


「何者かは知らねぇが、俺の現場を荒らしたツケは払わせる」


 誰も疑っていなかった。


 狩る側は自分たちだと。


 その夜。


 倉庫街全体が狩場になることを。


 そして。


 自分たちこそが獲物になることを、まだ誰も知らなかった。

ご拝読ありがとうございます。

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