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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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1話 カーチェイス2

2026/6/8 本文修正

 事故区間を抜けた瞬間だった。


 景色が変わる。


 首都高速。


 本来なら無数の車が走っているはずの道路。


 だが今、そこにあるのは違った。


 前方。


 メルセデス・ベンツEクラス。


 チャーリー1。


 アウディQ7。


 ブラボー。


 トヨタ・ハイエース。


 アルファ。


 そして最後尾。


 チャーリー2。


 もう一台のEクラス。


 そのさらに後方。


 黒いWRX S4。


 それだけだった。


 道路が空いているのではない。


 整理されている。


 意図的に。


 人為的に。


 追跡と逃走以外の全てが排除されていた。


「……なるほど」


 湊は小さく呟く。


 ようやく見えた。


 相手の全体像が。


 素人ではない。


 輸送チーム。


 警戒チーム。


 妨害チーム。


 役割分担された作戦行動。


 よく訓練されている。


 だが。


 それだけだ。


 アクセルを踏む。


 WRXが速度を上げる。


 急激ではない。


 滑らかに。


 静かに。


 獲物との距離を詰める捕食者のように。


 前方。


 チャーリー2。


 最後尾警戒車両。


 車列の蓋。


 そして最初に壊すべき場所。


 湊の視線が細くなる。


「まずはお前だ」


 ◇


 チャーリー2。


 運転席の男はバックミラーを見た。


 そして違和感を覚える。


「……?」


 何かいる。


 遠く。


 黒い車。


 だが距離感がおかしい。


 普通の追走車両ではない。


 気付いた時には近い。


 まるで道路を削りながら接近してくるような速度だった。


「ブラボー」


 通信を開く。


「後方に車両を確認」


『一般車か?』


「分からん」


 即答できなかった。


 それが異常だった。


 一般車なら一般車と答えられる。


 警察なら警察と答えられる。


 だが違う。


 説明しづらい。


 ただ。


 嫌な予感だけがあった。


『チャーリー2、詳細を報告しろ』


「黒のWRXだ」


 短い沈黙。


『追跡か?』


「……分からん」


 そう答えた瞬間。


 距離が縮まる。


 一気に。


 常識外れの速度で。


「っ!」


 男の顔色が変わる。


 追跡車両だった。


 しかも普通ではない。


『封鎖は完了していたはずだ!』


『妨害班は何をしている!?』


 無線が騒がしくなる。


 だが。


 湊には関係ない。


 アクセルを踏み込む。


 水平対向エンジンが咆哮する。


 ターボが立ち上がる。


 車体が前へ飛ぶ。


 ブレーキは使わない。


 速度も落とさない。


 車線という概念から半歩だけ外れる。


 チャーリー2が反応する。


 進路変更。


 ブロック。


 後方警戒車両として正しい判断だった。


 だが。


 遅い。


 湊は見ていた。


 ミラーを見る癖。


 修正舵のタイミング。


 重心移動。


 全て。


 その一瞬で読み切る。


「甘い」


 ギアを一段落とす。


 回転数が跳ね上がる。


 トルクが解放される。


 WRXが加速する。


 車と車の間。


 本来存在しない空間。


 ほんの数十センチの余白。


 そこへ。


 黒い車体が刃のように滑り込む。


 チャーリー2の運転手が息を呑む。


 理解した。


 この車は追跡しているのではない。


 狩りに来ている。


 距離が消える。


 空間が潰れる。


 そして。


 神代湊は、最後尾警戒車両を突破するための一手を放った。

ご拝読ありがとうございます。

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