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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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1話 カーチェイス1

2026/6/8 本文修正

 車列は首都高速を西へ向かっていた。


 先頭。


 メルセデス・ベンツEクラス。


 チャーリー1。


 前方警戒を担当する先導車両。


 続いてアウディQ7。


 ブラボー。


 現場指揮を担当する指揮車両だ。


 その後方。


 トヨタ・ハイエース。


 アルファ。


 今回の輸送対象を収容した護送車両。


 そして最後尾。


 もう一台のメルセデス・ベンツEクラス。


 チャーリー2。


 後方警戒を担当する追跡監視車両だった。


 隊列は乱れない。


 速度も一定。


 一般車両の流れへ自然に溶け込んでいる。


 無線が鳴る。


『ブラボーより各車』


 落ち着いた男の声。


 Q7の助手席に座る指揮官だった。


『状況報告』


『チャーリー1、異常なし』


 即答。


 前方道路に問題はない。


『アルファ、異常なし』


 護送車両からも短い返答。


 ハイエースの後部座席では天城美月が拘束されている。


 騒ぎは起きていない。


『チャーリー2』


 数秒。


 後方警戒車両から通信が返る。


『異常なし。予定通り処理済みだ』


 その一言で十分だった。


 ブラボーは小さく頷く。


 追跡妨害班は正常に機能した。


 本来なら、ここで追跡は終わる。


『追跡の兆候は?』


『確認できず』


『了解』


 通信が切れる。


 車内に静寂が戻った。


 ブラボーは窓の外を見る。


 夕暮れの首都高速。


 流れは良好。


 渋滞もない。


 予定通りだった。


 今回の任務は襲撃でも暗殺でもない。


 対象を確保し、指定地点まで運ぶ。


 それだけだ。


 だからこそ派手な行動は避けている。


 警察も動いていない。


 報道もされていない。


 一般人は何も知らない。


 理想的な状況だった。


『ブラボーより各車』


 再び通信を開く。


『このままルートを維持する』


『了解』


『了解』


『了解』


 返答は即座だった。


 無駄な会話はない。


 全員が自分の役割を理解している。


 訓練されたチームだった。


 だから誰も疑わない。


 作戦は成功した。


 既に勝負は終わっている。


 そう考えていた。


 実際、彼らの持つ情報だけを見れば、その判断は間違っていない。


 追跡車両の報告はない。


 警察無線にも反応はない。


 予定されていた追跡妨害も機能した。


 少なくとも彼らはそう認識している。


 だが。


 知らない。


 チャーリー2が最後に確認した情報が、既に過去のものになっていることを。


 知らない。


 追跡妨害に投入された二台のプリウスが、今や原形を留めない鉄屑になっていることを。


 知らない。


 そして何より。


 その事故を突破した追跡者が存在することを。


『各車、速度を上げる』


 ブラボーが指示を出す。


『予定通りポイント・デルタへ向かう』


『了解』


 車列がわずかに加速する。


 首都高速の流れへ溶け込むように。


 静かに。


 確実に。


 誰にも気付かれないまま。


 任務は成功した。


 少なくとも彼らはそう信じていた。


 その背後で。


 誰も予想していない速度で、一台の黒いWRXが距離を詰め始めていることも知らずに。

ご拝読ありがとうございます。

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