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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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1話 追跡開始3

2026/6/8 本文修正

 前方の流れが変わった。


 白いプリウスが二台。


 それまで一般車両に紛れていた車両が、明確に役割を見せ始める。


 一台が車線を横切る。


 もう一台が減速しながら進路を絞る。


 封鎖。


 事故を装った追跡妨害。


 教本通りのやり方だった。


 普通の追跡者ならここで終わる。


 だが。


「甘いな」


 湊は小さく呟く。


 視線は車両ではない。


 一般車両の配置。


 後続車との車間。


 退避可能な空間。


 逃げ場。


 全てを確認する。


 一般人は巻き込まれない。


 それだけ確認できれば十分だった。


 アクセルを踏み込む。


 WRXが加速する。


 封鎖線へ向かって真っ直ぐ。


 本来なら誰も入らない距離。


 誰も入れないタイミング。


 だからこそ成立する作戦。


 だが。


 湊はその前提ごと踏み潰した。


 プリウスの運転手が反応する。


 想定外の進入。


 回避。


 修正。


 封鎖維持。


 複数の判断が同時に走る。


 そこへ。


 湊はさらに速度を乗せた。


 コンマ数秒。


 封鎖側へ判断を強要する。


 選択肢を奪う。


 均衡が崩れる。


 プリウス同士の距離が消える。


 接触。


 衝撃。


 そして。


 もう一度。


 今度は致命的な角度で。


 片方の車体が跳ね上がる。


 タイヤが浮く。


 横転。


 激しい金属音を響かせながら中央分離帯へ叩き付けられる。


 潰れるルーフ。


 砕け散るガラス。


 火花。


 回転。


 停止。


 もう一台も巻き込まれる。


 ガードレールへ激突。


 車体前部が大きく潰れた。


 エアバッグが展開する。


 ボンネットから白煙が上がる。


 首都高の流れが一瞬だけ凍り付いた。


 普通なら目を奪われる光景だった。


 だが。


 湊は見ない。


 バックミラーを一瞥するだけ。


 感情はない。


 運転手の安否も確認しない。


 確認する必要がない。


 少なくとも。


 もう追跡妨害はできない。


 それだけ分かれば十分だった。


 事故現場の隙間へWRXを滑り込ませる。


 車体が抜ける。


 封鎖線突破。


 バックミラーの中で、横転したプリウスは動かない。


 運転席も見えない。


 生きているのか。


 死んでいるのか。


 湊は興味を持たなかった。


 敵だからではない。


 優先順位が違う。


 今助けるべき人間は別にいる。


 天城美月。


 ハイエースの中にいる少女だ。


 アクセルを踏み込む。


 エンジンが咆哮する。


 黒いWRXが再び前方へ飛び出した。


 神代湊は振り返らない。


 振り返る理由がなかった。

ご拝読ありがとうございます。

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