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ヴァルハイム・プロトコル ―神代湊は平穏に生きられない―  作者: かたろーしゅ
第一章 再び響く角笛

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1話 追跡開始2

2026/6/8 本文修正

首都高速へ入ってから十分ほどが経過していた。


 車列は崩れない。


 速度も一定。


 まるで最初から決められていたかのような隊列だった。


 先頭のメルセデス。


 アウディQ7。


 ハイエース。


 最後尾のメルセデス。


 その並びは変わらない。


 湊は一定の距離を保ちながら追跡を続けていた。


 焦りはない。


 むしろ静かだった。


 だが。


「……妙だな」


 小さく呟く。


 視線は前方ではない。


 周囲の交通だ。


 この時間帯の首都高速にしては、妙に走りやすい。


 車が少ない。


 いや。


 正確には少なく見える。


 流れが不自然なほど整っているのだ。


 湊はバックミラーへ目を向ける。


 さらにサイドミラー。


 前方。


 再びミラー。


 情報を繋ぎ合わせる。


 すると見えてくるものがあった。


 二台の白いプリウス。


 ごく普通の車だ。


 どこにでもいる。


 目立つ要素は何もない。


 だが。


「……」


 一台は後方寄り。


 もう一台は車列の少し前。


 位置取りが絶妙だった。


 偶然にしては出来すぎている。


 車線変更のタイミング。


 加減速の癖。


 どちらも周囲の流れへ微妙な影響を与えていた。


 一般車両を追い越させない。


 近付かせない。


 かといって不自然にも見せない。


 そんな動きだった。


 湊は確信する。


 仲間だ。


 少なくとも無関係ではない。


 単なる誘拐犯ではない。


 輸送班。


 先導班。


 妨害班。


 役割が分かれている。


 そして全員が訓練されている。


 その時だった。


 前方で流れが変わる。


 追い越し車線。


 一台の車がわずかにブレーキを踏む。


 それに反応した後続車が減速する。


 さらにその後ろ。


 連鎖する。


 事故ではない。


 だが事故が起きた時と同じ現象が発生する。


 車列が詰まる。


 速度が落ちる。


 空間が消える。


「そういうことか」


 湊は理解した。


 偶然ではない。


 作られた渋滞だ。


 ほんの数秒。


 それだけで十分だった。


 逃走車列との距離が広がる。


 メルセデス。


 アウディ。


 ハイエース。


 そして最後尾。


 次々と視界の奥へ消えていく。


 普通の追跡者ならここで終わりだろう。


 だが。


 湊はアクセルを踏まない。


 まだだ。


 今は相手の手札を見る時間だった。


 焦った車がどうなるか。


 それを相手は待っている。


 不用意に距離を詰めれば、こちらの存在も露見する。


 だから待つ。


 数秒。


 状況を見極める。


 そして。


 前方の車列が完全に視界から消えた瞬間。


 湊は初めてアクセルを深く踏み込んだ。


 水平対向エンジンが唸る。


 ターボが立ち上がる。


 黒いWRXが一気に加速した。


 流れに埋もれていた車が、本来の性能を解放する。


 追跡は次の段階へ入る。


 もう観察だけでは終わらない。


 相手もプロ。


 そして。


 神代湊もまた、その世界の人間だった。

ご拝読ありがとうございます。

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