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その“クエスト監視人(ウォッチドッグ)”は仕事ができない  作者: 朽縄咲良
第一章 “監視人”アッシュヴェル・エヴァーピース
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第六話 寒村と村長とクエスト内容

 ――翌日。


 熟睡していたせいで起床が送れ、夜明けからだいぶ経ってから野営地を出発したゲラウとシュガは、二時間ほどで目的地のミフィーテに到着した。


「……思っていた以上に寂れた村ですね」


 ポクポクと蹄の音を鳴らしながら歩く馬の背に揺られながら、シュガがぼそりと呟く。

 周囲を小高い山に囲まれた村の風景は、まさしく彼の言葉の通りだった。

 昔はそれなりに栄えていたのか、村の中心を貫く大通りには石畳が敷かれていたが、整備が行き届いていないのか、あちこちが割れ砕けてしまっていて、亀裂の隙間には雑草がびっしりと根を張ってしまっている。

 道の両脇に居並ぶ店舗や民家はどれも例外なく古く、どこかしらが痛んでいた。

 村の顔にも等しい大通りにもかかわらず、空き家になって日が経っているような廃屋も目立つ。


「……そうだな」


 馬の上から周囲を見回しながら、シュガの言葉に頷いたゲラウは、怪訝そうに眉を顰めた。


「つーか、さっきから見る村人、見事にジジババしか居ねえな……」

「たしかに……」


 ゲラウの言葉に、シュガもハッとして、改めて道行く人々に目を配る。


「言われてみればそうですね。全然若い人がいない……。どうしてでしょうか?」

「ふふふ、それはですねぇ」


 シュガが上げた疑問の声に、得意げに笑いながら口を挟んできたのは、ふたりの横に並んで歩くアッシュヴェルだ。

 彼は、懐から取り出したメモ帳を開きながら、ふたりに説明する。


「ここミフィーテはですね、二十年ほど前まではとても栄えていたらしいんですよ。健康になる温泉が湧く観光地として、ね」

「温泉……? あ、そういえば、確かに入り口に温泉の記号が入った看板が立ってましたね。ボロボロに朽ち果ててたから、文字までは読めませんでしたけど……」


 そこまで言ったシュガは、「あっ……」と声を上げた。


「ひょっとして、この村がこんなに寂れてしまっているのって……」

「そうそう、シュガさんがお気づきになった通りです」


 ニコリと微笑んだアッシュヴェルは、メモ帳のページを繰りながら話を続けた。


「十八年前に、この辺りで少し大きな地震が起こったんです。まあ、直接的な被害はあまりなかったようなんですけど、その地震の影響なのか、それまで湧いていた温泉がピタリと止まってしまったとの事で……」

「それまで観光地としてのウリだった温泉が無くなった事で、湯治目的の客が村に来なくなり、それに伴って収入も仕事も減ったので、若い人たちはみんな働き口を求めて村の外に出ていってしまったと……」

「で、村には満足に働けないジジババ共だけが取り残されて、こうなった……ってか」


 シュガに続けて言ったゲラウが、露骨に顔を顰める。


「やれやれ、クエストついでにキレイな(ねえ)ちゃんでも引っかけて美味い地酒でも飲もうと思ってたのに、これじゃ両方とも望み薄だな」


 そう吐き捨てるように言った彼は、シュガを急かすように顎をしゃくった。


「オラ、とっととクエストを片付けてファルディスに帰るぞ。こんな年寄り臭え村に長居してたら、こっちまでジジイになっちまいそうだぜ」

「は……はいっ!」


 勝手に言い捨てて馬を先に走らせるゲラウに置いてかれまいと、シュガも慌てて馬の横腹を蹴りつける――。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 「冒険者様、こんな片田舎までようこそお出で下さいました。私はグシオス。この村の村長(むらおさ)を務めております」


 村の奥にある集会所でゲラウとシュガ……ついでにクエスト監視人のアッシュヴェルを迎えたのは、皺の寄った広い額が特徴的な白髪の男だった。

 どんなに若く見持っても、年は五十より上だろう。だが、これでもこの村の人間の中では最年少らしい。

 簡単なあいさつの後、栗色の目を細めてゲラウを見上げたグシオスは、感嘆した様子で声を弾ませる。


「随分と逞しい体つきをしていらっしゃいますなぁ。さすが、王都の冒険者ギルドが派遣して下さった冒険者様だ」

「がははは! なかなか人を見る目があるじゃねえか、オッサン!」


 ゲラウは、村長の言葉にたちまち機嫌を良くした。


「安心しな! このオレ様が来たからには、テメエらの困りごとなんざ、あっという間に解決してやるぜ」

「それは頼もしい。期待しておりますよ」


 偉そうに胸を張ってみせるゲラウに軽く頷いたグシオスは、「では……」と続ける。


「早速、本題に入りましょう。今回我々が依頼したクエストの大まかな内容は、もちろんご存知ですよね?」

「あ、はい」


 村長の問いかけに、シュガが小さく頷いた。


「確か……この村(ミフィーテ)の祖神を祀る聖廟に供物を捧げに行ってほしい……ですよね」

「ええ」


 シュガの答えにニコリと微笑んだグシオスは、集会所の窓の向こうを指さした。


「こちらの方角……歩いて一時間ほどの距離に、アケモニ山という小高い山があります。その中腹に、古来からこの地を守っていた祖神・シガンクア様を祀った聖廟がございまして、十年ごとに村人の祈りを込めた供物を捧げに行っていたのです……《《十八年前までは》》」

「十八年前までは……?」


 訝しげに村長の言葉を反芻したシュガは、すぐに先ほどアッシュヴェルと交わした会話を思い出してハッとする。


「確か……このあたりで地震があったのが十八年前でしたよね。――ひょっとして、それと何か関係が?」

「ほぉ……良くご存知ですね」


 シュガが漏らした声を聞いて感心の表情を浮かべた村長は、退屈そうに耳をほじっているゲラウに頷いた。


「そこの、冒険者様の《《お供さん》》がおっしゃった通りです」

「い、いや……俺も一応冒険者なんですけど……」


 口元を引き攣らせながらおずおずと声を上げるシュガだったが、村長は無視して話を続ける。


「被害こそ軽かったものの、しばらくは復興やら何やらでドタバタしておりまして……数年の間、聖廟に詣でていなかったのです」


 そう言うと、彼は大きく肩を落とした。


「……今思えば、それがシガンクア様の逆鱗に触れてしまったのでしょう。地震が起こる前はあれほど豊富に湧き出ていた温泉が、地震の後からみるみる湯量を減らし、終いには完全に枯れてしまいました」

「あ……」

「あれだけ湯治目的の客でごった返していた我が村は、温泉が枯れるや誰も寄り付かなくなってあっという間に荒れ果て……今ではご覧の通りの有様です」


 と、深いため息を吐いた村長は、ゲラウに向けて深々と頭を下げ、懇願するように言う。


「お願いいたします、冒険者様! シガンクア様の元に供物を捧げてお怒りを鎮め、我が村の温泉を蘇らせて下さいませ!」

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