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パラサイトマッスル  作者: Aju


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52 ヒーロー

「俺がキンゴだぁ!」

 走りながら悟が叫んだ。


「ゴゥア?」

 魔沙鬼が一瞬惑う。


「おまえをぶっ倒したただ一人の男を忘れたかぁ!」

 魔沙鬼のコンプレックスを利用したフェイントだ。悟は叫びながら金吾のすぐ前を横切って魔沙鬼の右側へと走り込む。


 魔沙鬼の上体が、ごりっ! とまた盛り上がった。

 もはや人の身体とは思えない。木蓮の胴ほどもある魔沙鬼の大腿だが、それでも上体の質量に対してバランスを欠いて華奢にさえ見える。


「ギン‥‥ゴオオオオッ!」


 魔沙鬼が悟を捕まえようと右腕を伸ばす。

 その反動で左手が緩んだ。肘から先が2本ある左手だ。


「ゴブハァァ!」

 ヒーロー患者が水から顔を上げて息を継いだ。

 自分を押さえつけていた2本の腕を、肘の部分で持ち上げて自分の顔から引きはがす。


「木蓮!」

 悟の声と指差しに、木蓮が意味を察してそのヒーロー患者へと襲いかかる。暴れる2体を1体にする! まずはこの患者から治療する!


 木蓮がヒーローに触れるその前に——。

「金吾! 足だ!」

 悟の声に金吾が反応して魔沙鬼の左足をすくい上げた。


 左側に生じた2つの力と、キンゴと名乗った悟を捕まえようとした体勢の崩れでバランスを失った魔沙鬼が道路脇の車の方に倒れ、右手をその屋根についた。


「猟助! 今だ!」


 猟助が魔沙鬼の右手を撃った。


 バシャアアア!


 魔沙鬼の右手が車とくっつく。

「ゴッガアアアァァアッ!」


 魔沙鬼が右手の拘束剤をはがそうと肘から先が2本ある左手で掻きむしる。

 左手はヒーロー患者につかまれていたはずだが、いとも簡単にそれを振りほどいたのだ。

 いや‥‥‥

 その時にはすでに木蓮がヒーロー患者の筋力を奪ってしまっていた。


「オ‥‥ゴロ‥‥‥」

 ヒーローは水ぶくれになった。


「金吾! 悟! その患者を医療班のところへ運んでゆけ! 急げ!」

 猟助が叫ぶ。

 内臓の負担が限界を超える前に医療機器のある水際まで持っていかなければ命にかかわる。


 叫びながら猟助は魔沙鬼の左手に向けて捕獲銃を撃つ。


 しかし魔沙鬼はその弾を右手にくっついた車を盾にしてかわした。あの時と同じだ。


「バケモノめ!」


 金吾と悟がぶよぶよになったヒーロー患者を引きずるようにして水際の医療班の方に運ぶ。

 水があるからある程度の浮力はあるとはいえ、筋肉爆発した後の質量は大きい。悟と金吾の2人がかりでやっと引きずっている感じだった。


 早く! 早く体内の死んだPMの液体を抜いてやらないと——!

 その後ろを魔沙鬼が車を引きずって追いかけてきた。

「ギンッ、ゴオオオオォォ!」


 その時、上空にヘリの音がした。

 見上げると、黒い戦闘服の隊員が身を乗り出すようにして捕獲銃を構えている。


 バシャアッ!


 捕獲弾が魔沙鬼の腰に当たって弾けた。

 しかし、固定する対象がない。下は水なのだ。水面に広がった捕獲剤の膜を引きずって、魔沙鬼はなおも金吾たちを追ってくる。


 木蓮が追いつこうとするが、水面に広がった捕獲剤の膜が邪魔で近づけない。


「ギンゴオオオォォオオ!」

 魔沙鬼は今やどれが金吾なのかを認識したようだった。2本ある左手を金吾へと伸ばしてきた。

 金吾の腕がつかまれた。


「くそ!」

 金吾は魔沙鬼の腕を振りほどこうとするが、圧倒的に力が違う。

「悟! 患者を医療班のところへ!」


「む‥‥無理だ! 俺1人じゃ!」


「くっそったりゃああああ!」

 金吾は渾身の力を振り絞った。なんとしても魔沙鬼を引きはがしてこの患者を医療班のところまで運ばなければ——!

 この人を助けなければ!



  ——力が欲しいか?——


 金吾の頭の中で、再びあの声が聞こえた。


「欲しい——!」

 金吾が叫ぶ。


 ごもっ!


 と金吾の体が盛り上がった。


「いやあああああっ! 金吾ぉ————!」

 木蓮が泣くように叫んだ。


 ごもっ!


 ごもっ!


 筋肉爆発を起こした金吾が、魔沙鬼の2本の左手をつかんで自分の腕から引き離す。


「金吾! 金吾! いやだぁぁあああ!」

 木蓮が泣きながら金吾に駆け寄ろうとする。


「木蓮! 俺じゃない! 俺の治療は後だ! 魔沙鬼を無力化しろ!」

 木蓮がハッとして立ち止まり、そして、捕獲剤の膜の上を走って魔沙鬼の右足にとりついた。

「ゴアアアアアッ!」

 魔沙鬼の力ががくんと抜ける。そのまま水の中に倒れこんだ。

 木蓮は容赦なくその魔沙鬼の身体のあちこちを叩いてゆく。


「ゴア‥‥ゴロロロロォ‥‥‥ガッ!」


 金吾は魔沙鬼の左手を放さない。その手が木蓮を襲わないように。

 魔沙鬼がぶよぶよの水風船になって、その左腕に力がなくなってから金吾はようやく魔沙鬼の左手を放した。


 続けて金吾の治療に入ろうとする木蓮を、金吾は止めた。

「まだだ。この患者と魔沙鬼を医療班のところへ運んでからだ。」

 そう言って金吾はまずヒーロー患者をひょいと担ぎ上げて、水際に向かって走り出した。


「金吾ぉ‥‥‥」


 木蓮の泣き声に金吾がふりかえる。


「大丈夫だ。俺はまだ正気だ。」



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― 新着の感想 ―
ひいぃ、金吾~。 力を欲しちゃいましたけど。 なんか、セカンドシーズン?に入ってしまったのでは?
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