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パラサイトマッスル  作者: Aju


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50 ボランティア筋肉

 雨が降っている。

 それもどしゃ降りなんてものじゃない。連続して襲来した台風が引き連れてきた線状降水帯が、ここ筑波にもやってきたのだ。

 ニュースでは東京都や神奈川の惨状を昨日から伝えているが、ここも他人事ではなさそうだった。

 もっともこの施設は高台にあるし、地下施設への防水もしっかりはしている。


 そんな天候の中でも、関東各地からAMPSの患者は搬送されてきていた。特にステージ3になった患者は対応を急ぐ。筋肉爆発に至るステージ4になってしまえば生命に関わることもあるからだ。

 光太郎たち治療のできるスタッフは相変わらず忙しい。


 そんな中、しばらく鳴っていなかった緊急アラームが施設内に響き渡った。


「久しぶりだぁ!」


 ちょうど治療の合間で休憩中だった木蓮が目を輝かせてヘルメットをつかむと、勢いよく廊下に飛び出した。

 相変わらず白衣はそのままだ。

 むしろステージ1〜2の患者が増えたことで、公明正大に白衣のままで出動できる。


「ひっさびさにネットがピンクの動画で盛り上がるぞぉー!」


 いや、あれは盛り上がってるというより炎上してるという方が近いのでは?


 金吾や悟、猟助も戦闘服を着てヘリポートに向かって走り出す。


「猟助!」

 光太郎が治療室から顔だけを出して猟助を呼び止めた。

「私は患者が多くて行けないから、全体の指揮を頼む!」


「任せて。」

 猟助は親指を立てて応えると、あとは後ろも見ずに走っていった。



 Kチーム4人と医療班、それに清掃班がそれぞれ2機の輸送ヘリに分乗して筑波の施設を飛び立った。

 今回の現(・)場(・)は渋谷である。

 連日の都心豪雨で道路が寸断されてしまっていて移送車両は使えない。医療機器もストレッチャーも全てヘリに積み込んだため、出発までに時間がかかってしまった。


 現場はひどい有様だった。

 内水氾濫の水はまだそのままで、あちこちに水没した車の屋根が見える。

 こんな都市のど真ん中で——とも思えるが、都市だからこそ排水設備の想定には上限の数値がある。

 降雨がそれを上回ってしまえば、そこはもとの自然の地形のままに水があふれ出すのだ。


 渋谷はその地名のとおり谷である。

 普段都会の華やかさに目を奪われていると気が付かないかもしれないが、水の流れる地形は江戸時代とさして変わってはいない。

 変わったのは風景(川や沼が見えなくなり、ガラスやコンクリート、アスファルトで覆われた)と、気候変動による雨量だ。

 1時間に100ミリという異常な降雨はビルの谷間の坂を濁流となって流れ下(くだ)り、低い渋谷駅周辺に車や屋外看板など諸々の物を押し流して堆積させた。


 今は雨も止み、水はかなり引いてはいるが、押し流されたり水没して動かなくなった車や堆積物などがあって緊急車両なども通ることができない。

 今、東京にはこうした箇所が何箇所も存在している。


 低地部では、茶色く濁った水に浸かったビルの屋上で手を振っている人たちがいた。使っているのが自衛隊のヘリだから、助けに来たと思われたのだろうか。


 すみません。俺たち別の任務なんで‥‥‥


 金吾も悟も猟助も、唇を噛むようにしてそう思うしかない。

 こんな状況下で筋肉爆発したやつがいるのか——。


 膝上まで水に浸かった状態で車を持ち上げているそいつが、ヘリの上からちらりと見えた。すでに人間のプロポーションではない。

 近くでヘリが下りられる場所を探す。

 ビルの屋上はダメだ。ヘリポートがあってもエレベーターが動いていなければ機材が下ろせない。


 幸い患者が暴れているあたりから100メートルほどのところに立ち往生した車のない交差点があった。ただ、ヘリ2機の着陸は難しそうだ。


「機材を積んだ医療班のヘリをそこへ下ろそう。俺たちのヘリは近くのビルのヘリポートに下ろしてくれ。エレベーターがダメでも徒歩で階段を下りる。」


 猟助の判断で地上の警察官と連絡をとり、態勢を整えてもらう。


 金吾たちが暴れている患者の近くまで行ってみると、そいつは相変わらず車を持ち上げては投げ飛ばしていた。


「があああああああっ!」


 動きは速くはない。足元が水に浸かっているせいだろう。

 しかしそれは、金吾たちにとっても同じことが言えた。膝まで水に浸かってしか患者に近づくことができないのだ。


「このままでも撃てる。ただ、下が水だからその場には固定できないだろう。」

 猟助が銃を構えたまま、迷った。


「ねえ、あれって‥‥」

 木蓮が怪訝な声を出した。

「車を道の脇に投げて道路を空けてない?」


 言われてよく見てみれば、そいつは道の真ん中で立ち往生した車を持ち上げては道の脇に放り投げている。


「うんごおおおおおっ!!」

 ドガシャーン!


 あたりをよく見れば、猟助たちが下ってきた坂道も道路脇に壊れた車が何台もひっくり返っていた。

 車を退けて道路を通れるようにしているのか? それであの交差点にもヘリが着陸できた?


「災害ボランティア?」


「や‥‥役に立ってるよな? 乱暴だけど‥‥‥」


 これ、捕獲しちゃっていいんだろうか?

 


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― 新着の感想 ―
ボランティア? いやその、結果的には……って話では? そりゃ、彼に聞かなきゃわかりませんけど。 理性が残っているタイプだとしたら面白いですね。 怖くもある。 ニュータイプだわ。
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