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パラサイトマッスル  作者: Aju


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49 穏やかな日々

 魔沙鬼の行方がようとして知れない。


「かくまっている人間がいるのか? あれほどの体躯が隠れられる場所など、そうそうあるものじゃないはずだが‥‥‥」

 篠島課長は脚を組んで椅子に座ったままつぶやいた。

 そのつぶやきに、ふとそちらを見た光太郎が目のやり場に困って慌てて視線を逸らす。

 篠島はその光太郎の微妙な表情には気がついていない。


「あれを取り逃したのは痛かった。」

 あれはかなり長い間あの状態でいて、しかも捕獲弾をかわして逃げるだけの理性も持ち合わせていたのだ。

 他の患者が感情任せにただ暴れているのとは違う。


「脳にあれは侵入しないのか‥‥。あるいは脳の中まですでに入り込まれた結果なのか‥‥‥」

 篠島課長はずっと考え事をしたまま、ふわりと組んだ脚を解いて立ち上がった。

 視線を逸らしているのに、光太郎の目の端にその動作が映ってしまう。


 この時になって篠島あかりはようやく光太郎の耳が赤くなっているのに気がつき、樋山光太郎の反応と自分の無意識の動作との関係に思いが至った。


 ふうーん‥‥‥。


 あかりが光太郎の傍に寄っていく。


「樋山くん‥‥」


「は、はい!」


「今度一緒に食事でも‥‥」と言いそうになって、喉のところで思いとどめた。

 もし違ってたら、すごく恥ずかしい。単純に若い健康な男子の反応——というだけかもしれないのだ。

 三十路のオバサンの勘違いほど恥ずいことはない。


「い、いや‥‥何でもない。」

 ひとつ、こほんと咳払いをする。


「あいつは、魔沙鬼というやつは‥‥この先どうなっていくと思う? 死ぬだろうか? それとも‥‥‥」


「それは‥‥ちょっとわかりません。この寄生生物はわからないことだらけです。」


「魔沙鬼(あいつ)を捕まえられれば、この寄生病の全貌がもう少しわかるかもしれんな。あんなバケモノみたいなやつでも何かの肉体的コンプレックスを持っていたんだろうか? いつからだ? 紗枝内くんが言っていたように、ストリートのキングなどと呼ばれていた時からだとするなら‥‥‥」


 AMPSの患者としては特異な症例と言えるかもしれないのだ。




 筋肉爆発はピークを過ぎたようで、少しずつKチームの出動回数も減ってきている。

 あの動画が出回ったことで、不安になった患者が早いうちに医療機関などに相談するようになったのだ。

 捕獲チームそのものの出動回数は減ったが、その分治(・)療(・)のできる長森先生、光太郎、木蓮の3人はむしろ忙しくなった。


「つまんなぁーい! 戦いに出たぁい!」

 わずかな休憩時間に施設の屋上で空に向かって叫んでいる「ピンク」こと山帽子木蓮を、光太郎と金吾は苦笑いで見ていた。

 最近、木蓮は金吾のいる場所によく顔を出す。


 ドラマ『TOKUTAI』の撮影は順調に進んでいるようだった。

 何度か特殊事案対策室の建物の前でロケをしているのを光太郎も見ている。


 あのアイドル俳優西園寺(さいおんじ)怜苑(れおん)が白衣をきて恥ずかしいほどクサイ演技をしているのを、光太郎は建物のガラス越しに見て苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。

 監督はあの新進気鋭と言われる苦怜(くれい)炎人(えんじん)だ。

 苦怜監督がどこまであのクサイ演技をそれらしく見せてくれるのか——。それに期待しながら光太郎は撮影風景に背を向けた。

 仕事に戻ろっと。


「小林くんはサッカー部に戻ったりはしないのか? Kチームの出動要請も減ってることだし。」

 ボールを器用に操っている悟に篠島課長が話しかけた。

 中学生をこの異常な世界にいつまでも縛りつけておくわけにもいくまい。と篠島も考えてはいる。常識がないわけではないのだ。

 経過観察といっても、その後の小林と紗枝内の2人に特に異常は見当たらないのだ。筋肉の発達が速いということを除けば——。


「う〜ん。やりたい気持ちもあるけど‥‥‥。菖(あやめ)と一緒にやれる中学からは転校しちゃったし‥‥‥」


「今の中学にはサッカー部ないの?」

 光太郎が聞くと悟は少し複雑な顔をした。

「あるけど、弱い。菖(あやめ)とのコンビネーションみたいなことは‥‥」


「菖って、あの神代(じんだい)菖(あやめ)?」


「知ってるの? 先生。」


「知ってるもなにも。うちの整体院と提携してる学校の生徒だし、U19の有力候補なんて地元では言われてるみたいだね。」


 悟が少し寂しそうな笑いを浮かべた。


「たとえ戻れたって‥‥」

 俺は菖(あやめ)の引き立て役でしかない‥‥‥。

 そもそもその屈折した思いが、悟があれに取り憑かれた第一要因だったかもしれないのだ。


「ふうん‥‥。でもさ、別に味方で交わる必要はないんじゃない?」

 光太郎のその言葉に、悟が目を上げる。

「君が今の中学の弱いチームを率いて、神代(じんだい)菖(あやめ)のいるチームと戦えるチームにするってのもアリじゃないか?」


「神代(じんだい)菖(あやめ)と戦う?」


「Kチームの仕事見てて思うのは、君の戦略眼とフェイントの凄さは全国レベルで通用すると思うけどな。その年で特対(ここ)だけが居場所なんて考えちゃう必要はないと思うなぁ。」

 光太郎は悟や金吾を見てて、思うのだ。

 中学生って、まだこれからじゃん。


「夢くらいでっかく持とうよ。悟と菖がJリーガーとして戦う姿とか、私は見てみたいけどな。そして私が全日本のトレーナーとして君たちの身体のケアに入る!」


「ははは‥‥、先生、誇大妄想のケあったりしない?」



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