48 コンプレックス
「どうやらPMはある種の肉体的コンプレックスを持っている人間に取り憑くようです。」
特対で主任研究員を務める水比良波音が篠島にそう言ってきた。
波音などというしゃれた名前のわりには、黒縁メガネに普通の顔、普通の背丈で印象の薄い男である。
これも一種の名前まけかなぁ。というのがここに配属されてきたときの篠島の第一印象だった。
「先日捕獲した患者からの聞き取り内容を他の患者たちにも確認してみましたら、やはり同じように夢の中で蟲に話しかけられたという証言が得られたんです。ほぼ例外なく‥‥‥」
どうやらそのコンプレックスが、PMに対する免疫性を弱めるようだ。というのが彼の現時点での見解である。
「しかしわからないのは‥‥」
と水比良は言う。
「これが人体の外で生息している状況です。取り出した個体も培養液の中以外では1時間と生きられない。どのようにして就寝中の宿主にたどり着いて体内に侵入するのか?」
「人から人に感染するにしても、どのようにして感染するのか? 小林くんがサッカーの試合に出ていたり紗枝内くんがデュエルゲームに出ていたことを考えると、被寄生者と接触することで感染するわけではないと考えられます。」
「彼らからも聞き取ったのか?」
「実はこの話は紗枝内くんから申告があって、他の患者にも聞き取りをしてみた結果なんです。」
水比良は少し顔を赤らめてそう言った。研究者として独自にそこにたどり着けなかったことを恥ずかしいと思ったのかもしれない。
「先日捕獲した患者も意識不明に陥る前に同じようなことを言っていました。」
先日捕獲したという患者は、デュエルゲームで金吾に憧れたと言っていた少年のことだろう。
身体への負担がかなり大きかったのか、あのあと意識不明になって集中治療室に入っている。
「デュエルゲームはまだ続いていたのか?」
そう聞いた篠島に水比良は小さく首を振った。
「それは情報部門の方に聞いてください。媒介する生物がいるとしたら、それはいったい何なのか?」
話が戻ってしまう。
この男にとっては、その研究課題以外は全く興味のないことであるらしい。
篠島はため息をついて、金吾たちのいるトレーニングルームへと足を向けた。
中学生の2人は休憩時間中も熱心にトレーニングに励んでいた。
悟はサッカーボールを足にじゃれさせるようにしてフェイントの練習を、金吾は『刀剣男児』のビデオを見ながら棒振りの練習をしていた。
ああ、これが「冴え打ち」のネタ元か‥‥‥。
イメージトレーニングというやつだな。
治療がひと段落ついたのか、木蓮がそんな2人をぼーっと眺めている。
「訓練中悪いが、ちょっといいかな?」
篠島が声をかけると3人が一斉に篠島の方を見た。
「水比良から聞いたんだが、キミらも寄生されたときに蟲の夢を見たんだって?」
「見ましたよ。俺なんか3日前にもまた見た。」
「え?」
篠島の顔色が変わる。
「もっと力が欲しいだろう——って。きっぱり断ってやりましたけどね。」
「山帽子!」
篠島が厳しい顔で木蓮を見た。
「調べてみろ! 紗枝内の体を!」
「え? 触っていいの?」
なぜか木蓮が照れたような顔をする。
「触るもなにも、また取り憑かれていたら‥‥! 山帽子!」
篠島がもう一度木蓮を促す。
「いや‥‥だから、断りましたって。」
「へへへ‥‥‥」
木蓮が嬉しそうな顔をして、金吾にむぎゅっと抱きついた。
あわわわ‥‥‥
も‥‥木蓮さんのたわわな胸が‥‥‥
金吾の顔が赤くなる。
心なしか木蓮の頬も染まっているような‥‥。
「だぁいじょーぶでぇす。どこも、ぷちんっていきませぇん♪」
木蓮が首を曲げて篠島に報告する。
しかし、そのあとも金吾を離そうとしない。
「もう少し確かめてみますねぇ♡」
ああ、山帽子。おまえも年下が好みだったのか‥‥。
篠島あかりは呆れながら頭の片隅でそんなことを思った。
わたしももう少し早く出会ってたらなぁ。
どうやら、あかりにとっては「年齢」がコンプレックスであるらしい。
何にしても紗枝内が寄生されていなくてよかった。
きっぱり断れば入ってこられない‥‥‥とすると、もしかしてこれはコンプレックスに負けた心によって体内に発生するのではないか?
「ねえ、課長。」
木蓮が金吾の体を放して、頓狂な声を上げた。
「もしかして、誘惑の信号に負けちゃうとPMが異世界から体内に転移してきちゃうとかぁ?」
なにを言ってるんだ、こいつ?
なろうの読みすぎだろう。




