47 蟲
「いやあ、カッコいい! いやいやいや、これはやっぱナマの迫力ですなぁ! ねえ、味湯羅先生!」
戦闘中はさすがに圧倒されて黙って見ているだけだった佐々木山も、患者の護送車への収容が終わる頃にはまたあの調子を取り戻していた。
帰りはKチームは患者と一緒に護送車に乗る。
光太郎たちに治療された患者は、今はぐったりしてストレッチャーに横たわったまま点滴を受けている。
佐々木山たちが一緒に乗りたいと言ったが光太郎は断った。
「それほど人数乗れませんから。患者のメンタル面でも負担になります。」
冗談じゃない。治療直後の患者は精神的に不安定になることが多いのだ。そんな車の中でこんなやつの軽口なんか聞かされ続けたら、どうなることやら。
「タクシーででも局の方にお帰りください。」
「い‥‥いやいや、何をおっしゃる。鍛冶室長にもお礼を言わなければなりませんし、やはり帰るところまでちゃんと取材しないと‥‥‥。ねえ、味湯羅先生?」
「‥‥‥‥」
味湯羅は何も言わない。
相変わらず暗い顔をしているが、その表情にはある種の感動のようなものが浮かんでいた。
「せ‥‥せめて脚本を書く味湯羅先生だけでもそちらに乗せていただくことはできませんかぁ? 私が乗るとうるさいんでしょ?」
自覚してんのかい‥‥。と思いながら光太郎は味湯羅が同乗することだけは許した。
「それで本当にいっぱいですからね。」
護送車の中でも味湯羅は相変わらずおどろなオーラをまとったままだったが、その瞳の中には何か燃えるような光があった。
「うふ‥‥うふふふふふ‥‥。スバラしい。冴え打ちか‥‥‥良き良き。使わせてもらおう‥‥冴え打ち龍児!」
「なんで龍児?」
「龍児の方がカッコいい‥‥‥」
(悪かったな、金吾で——。)
30分ぐらいすると、収容できた患者が口をきけるようになって医師が負担のない範囲で質問を始めた。
「名前は? 言えますか?」
患者はその質問にはすぐに答えず、金吾の顔をじっと眺めている。
「お‥‥おまえは‥‥‥、あの伝説のキンゴ‥‥なのか‥‥?」
そう言われて金吾がぴくっと反応した。
そういえば、今こうなって萎んだこいつの顔に見覚えがある。
「おまえ、デュエルゲームに参加していたのか?」
「本当に‥‥あのキンゴさん‥‥なんスか?」
「あ‥‥ああ‥‥」
金吾は苦い顔をする。
今では金吾にとってあれは黒歴史だ。
患者は涙を流し始めた。
「オレ‥‥‥あんたに‥‥憧れてたんス。あんたみてぇになりてぇ‥‥って。そしたら、ある夜‥‥‥夢ん中に、あの蟲が現れて‥‥‥」
同じだ。
と金吾は思った。
強さを渇望して‥‥。今の状態から抜け出したくて‥‥‥。
これはそういう心の弱みにつけ込んでくる寄生生物なのか?
その夜、金吾はまた夢を見た。
——マサキを取り逃がしたな? もっと力が欲しいだろう?——
「いらない!」
金吾は夢の中ではあったが、決然とそう言い放った。
「俺には今、仲間がいる。」




