45 PM格闘家
今の金吾ではこの魔沙鬼に太刀打ちなどできるものではない。
「あたしが守る!」
木蓮が両手を広げて金吾の前に出た。
「ばか! 何考えてる!」
金吾も金吾だ。中学生が高校生に言う言葉ではない。
叫んだ金吾の声に魔沙鬼が反応した。
「ぐるる‥‥ぎんごぉ!」
もう1体の方がよそ見をしている魔沙鬼の顔面に、もう一方の手で殴りかかった。
魔沙鬼はそいつの方を見ないままで、軽々とその拳を受け止めて鷲づかみにする。この姿になっても格闘技の勘は全く衰えていないらしい。
だがこのことによって2体の動きが止まった。力比べの状態になったのだ。
「猟助! 2体の動きを止めろ!」
光太郎が叫んで、猟助が拘束銃を構えた。
この2体が自由に動き回っている状態では、金吾と悟が近づくこともできない。
猟助が発砲した。
2体が組み合っている腕を狙ったが、いつものように静かに狙いを定める余裕がなかったのだろう。弾が少し逸れた。
魔沙鬼ではない方の怪物の腕に当たり、弾けた液体があたりに飛び散った。
が、魔沙鬼もさるもの。さすが格闘家の勘というべきか、弾の当たる寸前に相手の拳をつかんでいた手を放し、はじけた弾の飛沫を避けた。
だが弾が逸れていたことで液体の半分がその後ろの魔沙鬼がつかんでいた相手の腕にもかかり、それは魔沙鬼の左手と相手の右腕をくっつけて発泡してしまった。
「ごああああ!」
引き剥がそうとするが、さすがの魔沙鬼の力でもこの化学の生成物はゴムのように伸びるだけでびくともしない。
一方相手の1体は左腕が発泡拘束剤で固められてしまったため、魔沙鬼を殴ることもできない。その一部が脇に流れてくっついてしまって肩も動かせない。
引き剥がそうとして足を踏ん張るが、魔沙鬼に引きずられてゆく。
「猟助! 魔沙鬼の足を止めろ!」
光太郎が叫ぶのと涼介が発砲するのがほぼ同時だった。
猟助は動きの少ない太腿の付け根を狙ったのだが、魔沙鬼という男はよほど格闘勘が鋭いらしい。猟助の発砲直前に身を捻って発射された拘束弾をかわした。
弾は背後のビルに当たって弾けた。
弾は銃に2発しか装填できない。
猟助は空になったカセットを抜き取って、新しいカセットを銃に装填するという作業をしなくてはならなくなった。
この間に金吾と悟が飛び出した。
やや遅れて木蓮が走り出す。
「俺がキンゴだぁ!」
悟が叫んで魔沙鬼の右腕側外へと走り込む。
「ぎんごおおおお!」
魔沙鬼が吠えて悟を捕まえようと右腕を伸ばしてくる。
その前で悟が、左右に軽くステップを踏んだ。
魔沙鬼の腕が一瞬迷う。
その隙をついて悟は魔沙鬼の腕の懐に入り込み、オーバーヘッドキックの要領で魔沙鬼の腕を蹴り上げた。
もちろんそんなことで魔沙鬼はダメージなど受けない。
が、そのわずかな空隙をぬって2人の人物が動いていた。1人は金吾である。
金吾は悟が開かせた魔沙鬼の体の前を通って、その足元にある鉄パイプを拾った。
振り向きざまに魔沙鬼の膝に力いっぱい叩きつける。日頃の木刀を使った稽古が効いているのか、なかなか見事な太刀筋といっていい。
みしり。
と魔沙鬼の膝の骨が砕ける手応えがあった。
「ごあうっ!」
動いたもう1人は木蓮だった。
悟が蹴り上げた魔沙鬼の右腕に突進し、その腕に両手を叩きつけた。
「ピンクバスター!」……と言うのを忘れた。
一瞬で腕が、ぶよん、と水ぶくれになる。
「ごがあっ!?」
しかし魔沙鬼は怯まず、その腕をそのまま木蓮に叩きつけてくる。
「危ない!」
悟が木蓮にタックルするようにしてその腕の下から木蓮を救出した。
その直後、魔沙鬼の右拳がアスファルトにめり込む。
魔沙鬼の拳と肘の間の水ぶくれ部分を、そのままの形で新たな筋肉がぎゅるぎゅると皮膚の下を走るように覆ってゆく。
そこに走り出てきた金吾が、薩摩示現流よろしく全身の力を込めて鉄パイプを振り下ろした。
魔沙鬼の右腕が変な形に折れ曲がった。
どうやら筋肉の鎧が間に合わず、骨が折れたらしい。
「3人とも退け!」
猟助が銃を構えて叫んだ。カセットの装填を終えている。




