44 そいつ再び
筋肉爆発が頻発するようになってから、特対の捕獲チームの移動手段はヘリになっている。
例えば筑波の本部から八王子あたりの発生現場まで車で行くとなると1時間半以上はかかる。車ではどうにもならないのだ。
筋肉爆発がごく稀なケースだった頃は、あらかじめの情報をもとに怪しい人物の周辺に車で待機するという方法がとられていた。
金吾の場合などはそれである。デュエルゲームでの異常な事態を、特対はすでに把握していた。
しかし事件が頻発するようになるとそんな悠長な手段はとっていられなくなり、防衛省から輸送へり2機を借り受けることになった。
「それもあるから、これ以上人員まで無理は言えん」というのが鍛冶室長の言だった。
光太郎は白衣のままでヘルメットだけを持ってヘリに乗り込む。
木蓮も今回は一緒だ。
2人が一緒に現場に出向くのは珍しいが、今回目撃されたのは通報によれば2体だという。それで2チームが同時派遣されることになり、治療者も2人体制で行くことになったのだ。
「安全のために対象には近づかないように。見るだけですよ?」
篠島課長がヘリに乗り込む佐々木山に釘を刺した。
「ご心配なぁーく! ほんと、自己責任で見るだけですから!」
佐々木山はヘリの爆音の中で声を張り上げて手を振った。
味湯羅は? と光太郎が見ると座席の縁を両手でがっしりと掴み、青い顔をして宙空の一点を睨みつけている。
周囲のおどろがさっきよりも大きい。
木蓮がそんな味湯羅の顔を覗き込んだ。
「大丈夫、宅魔? 酔った?」
下の名前? しかも呼び捨て!
光太郎が呆れる。こいつは〜〜? 他人との距離感というものが全くわからないのか?
一応有名な脚本家先生なんだぞ?(ここにいる誰も知らない名前だけど)
「ああ、彼は高所恐怖症なんですよ。だぁいじーぶです。ほっといてやってください。着陸すれば収まりますから。高所恐怖症でもヘリに乗って現場に触れて、作品のクオリティを上げる! こぉれがこの先生の凄いとこなんですよ!」
佐々木山が、きらりと目を輝かせて言った。
はあ‥‥‥そういうもんなんですか。この業界は‥‥。
光太郎はついていけない気分だ。
木蓮だけが目の中にお星様を浮かべている。
「わあ! 宅魔センセー、かぁっこいい!」
ヘリが着陸できる場所は限られている。
なにしろ自衛隊の輸送ヘリなのだ。
だいたいは規制線を張った広い通りの交差点か公園などになる。現場にはそこから待機していた救急車で移動する。
機材の積み込みに少し時間をくうが、それでも筑波から車で来ることを思えばはるかに時間は短縮できている。
2人、いや2体の筋肉の化け物が戦っていた。
繁華街の中だ。
警察が人々を避難誘導しているが、規制線を張れるわけではない。2体とも激しく動き回るのだ。
「があああああっ!」
「ごあああああっ!」
殴りかかる1体を、もう1体が回し蹴りで蹴る。
ずしん! という重い音がして技は決まるが受けた方も怯まない。普通の人間なら即死するような衝撃だろうが、まるで意に介していない。
化け物というに相応しかった。
2体とも体に対して顔が小さく見えるが、それは体が筋肉で肥大しているからだろう。
首から顔面にかけても筋肉がゴリゴリと盛り上がり、人の顔のように見えないほどだ。
「あっ‥‥」
と金吾が声をあげた。
「魔沙鬼!」
「え? 金吾、知ってる人?」
木蓮が金吾に聞く。
その声に反応して、1体がこちらを向いた。
その隙を突いてもう1体がその頭部にパンチを入れる。
が、こちらを見た1体はびくともしない。
そのまま相手の腕をつかんで動きを押さえ、じっとこちらに視線を向けている。光太郎はその目の光にぞっとした。
「ぎんごぉ?」
地獄の底から響くような声でそいつが唸った。
金吾が少し後退る。
「やべぇ‥‥‥」




