42 特対の悩み
金吾はフリースクールでちゃんと中学を卒業する——ということで、どうにか問題はおさまった。
悟も元の中学が遠いので近くの中学に転校して、卒業までは木蓮と同じように学業が終わった後と土日のみ参加することになった。
とりあえずこの体制で、Kチームも存続できることになった。‥‥‥が。
「人手が足りない。」
篠島課長はぼやいている。
ハルク化する患者は後をたたない。
その一方で特殊事案対策室の機動部隊は3チームしかない。
しかもそのうちの1チーム、Kチームは中学生2人の義務教育という問題に縛られて動ける時間が限られている。
それなのに、筋肉爆発の事案は首都圏を超えて関東一円に広がっていた。
Kチームの利点は、現場で治療ができることだ。
患者を拘束したまま、遠距離を移送しなくていい。その分、移送車の中でのリスクが減るのである。
もちろん、Kチーム以外の2チームの出動に光太郎や長森先生がついてゆくというやり方も併用しているが、保健所の相談窓口から送られてくるステージ1〜2の患者も後を絶たないのだ。
そちらへの対応(治療)もこなさなければならないところへ持ってきて、最強の治療者である木蓮もまだ高校生だ。
木蓮は出動したがっているし、戦力としても頼りにはなるが、いかんせん学校がある。
しかも、なぜそうなのかはわからないが、筋肉爆発の現象は夜間より平日の昼間の方が圧倒的に多い。
畢竟、若い光太郎に負担が集中してしまう。
『うおおおお! 先生だ!』
『先生、カッコいい!』
動画の中に光太郎を呼ぶ「先生」という声が入っていたらしく、SNSではちょっとしたヒーロー扱いになっていた。
「柔道整復師がヒーローになったのは初めてなんじゃないかなぁ。」
長森先生はそう言って笑うが、そういう扱いに慣れていない光太郎は苦い顔だ。
「オレもメットだけでもかぶろうかなぁ。」
「だったら光太郎は白いスペードにしよ!」
(なんだよそれ? だいたいなんで年上を呼び捨て?)
そんな木蓮の動画は出動回数が少ないだけにレアものとして扱われてはいるが‥‥。
そのコメントは本人が望んでいるものとは少し違っているようだった。
『出た! 痛ピンク!』
『だけどマジ強ぇーよな、こいつ』
「自衛隊や警視庁の機動隊から応援をもらっても、彼らは訓練内容が違うから上手くいかないと思うんだよ。彼らの対応対象は暴徒や敵であって、患者ではないんだ。それにあちらも人手が足りない。」
何度目かの人員補充の要請にきた篠島あかりに、室長の鍛冶が渋い顔で言った。
「今、日本では現場はどこも人が足りない。日本人の若者はキツい仕事や危ない仕事をやりたがらないんだ。」
「あの中学生2人は貴重な人材だとはお認めになるんですね?」
「それもあるから、上も認めたんだ。」
それから鍛冶室長はちょっと妙な笑顔を作って篠島を見た。
「そこで、特対室独自に人員募集の手を打ってみようと思うんだがね?」
「取材?」
「テレビ局の?」
光太郎と猟助が怪訝な顔をする。
「正確には番組制作会社だ。」
篠島課長が憮然とした表情で答えた。
「『TOKUTAI』というドラマが企画されているという話は聞いているか?」
「SNSで噂は見たことがあります。」
「え? え? もしかして、わたしたちそれに出演するんですか?」
木蓮が目を輝かせた。
「出演するのは俳優だ。Kチームをモデルにするということで、脚本家とスタッフが取材したいという話なんだ。」
木蓮が、がっかりした表情になる。
「そんな余裕は‥‥‥」
「あります! あります! わた、わたしのシフトの時間なら!」
光太郎が露骨に嫌な顔をする。
篠島課長は諦めたような顔で続けた。
「室長がすでに受けてしまった。人気が出れば新しい入隊希望者も出るだろう、ということで。それにオーディションにかこつけて山帽子みたいな潜在的治療者を見つけることもできるかもしれない——と。」




