41 特殊事案対策室 Kチーム(特対K)
「クレームがついた。」
篠島課長が苦虫を噛みつぶしたような顔で部屋に入ってきた。
「文科省から厚労省の方に『義務教育中の児童を学校にも行かせずに現場で戦わせているのか』と苦情が入ったらしい。」
「児童って?」
「キミのことだ、紗枝内クン。顔出しで動画に映っただろう?」
篠島課長は機嫌が悪い。
「あ‥‥‥いや、その‥‥‥。児童?」
「13歳は児童だ。親御さんから学校に問い合わせが入って、学校から厚労省と文科省に問い合わせが入った。‥‥で、上から指示がきた。Kチームを解散するか、少なくとも親の了解をとって中学に行かせろ——と。」
「「「「え————っ!?」」」」
そこにいた4人が一斉に悲鳴のような声を上げた。
光太郎と金吾と悟と木蓮だ。射撃手の猟助は他のチームの応援に行っていてこの場にはいない。
まあ、いたとしても彼はこういう声を上げるような性格ではなさそうだが。
「解散‥‥って? やっと連携上手くいくようになってきたのに——。」
光太郎も思わずそう言ってしまう。
そりゃあ、たしかに光太郎も彼ら2人を学校に行かせないでこんなことさせてていいのかとは思っていたが‥‥。
しかし‥‥‥今この戦力を削がれてしまったら‥‥。
「だったらちゃんと戦える人員よこせ! ってんだよな?」
篠島課長の不機嫌はそっちのせいらしい。
「絶対戻らない!」
金吾がまなじりを決して叫んだ。
「あんな世界にはもう‥‥‥」
「だが、親には一度会ってくれ。」
篠島課長が苦虫の顔のままで金吾に言った。
「小林クンは一応親御さんと話し合ってもらってはあるが、紗枝内クンの場合は『行方不明』のままなんだ。それがネットの動画で公開されてしまったから、話がややこしくなった。このままじゃKチームは解散させられる。」
「か‥‥解散‥‥‥。いやだ! オレは絶対学校になんか戻らない。親にも会いたくない!」
金吾が悲痛な表情でそう言ってから、急に目の力を失って視線を落とした。
しばしの沈黙のあと、金吾はか細い声でつぶやくように言った。
「すいません。オレが‥‥‥いうこと聞いてメットかぶんなかったから‥‥‥」
「ヘルメットかぶらなかったのは私も同じだよ。」
光太郎が金吾をフォローする。
実際光太郎も安全上の問題だけだと思っていて、中学生の顔出しが問題になるとは考えてもいなかったのだ。
大人のくせにそこまで頭が回っていなかった。
「とにかく、親御さんに会って説得してくれ。このまま解散になったら患者の発生に追いつかん。とりあえず保護者の同意と義務教育の問題をクリアすれば、上もなんとか説得できるだろう。わたしも『行方不明』にしていたことは正直に謝るから——。」
金吾は不承不承ながら親に会うことに同意した。
このまま特対の不祥事として解散になり、強制的に親元に帰されてまたあの億田たちのいる学校に戻されるのはいやだった。
あいつらにはもう会いたくない。
「配慮が足らず、大変申し訳ありませんでした。」
篠島課長が腰を二つに折るようにして深々と頭を下げたのを見て、金吾は驚いた。
あのいつもキリッとして冷たい印象すらある篠島課長が‥‥。オレがメットかぶらなかったばっかりに。
「じょ‥‥状況はある程度わかりましたが‥‥‥」
金吾の両親、紗枝内夫妻はあまりにもあっさりと謝られたことでむしろ次の言葉を失ったようだった。
「金吾‥‥おまえ、その体‥‥‥」
「なんにも知らんかっただろ、おやじ。オレが学校でいじめられてたことも、デュエルゲームに参加してたことも——。男は強くあるべきだって言ってたのはおやじだぞ?」
中学1年生とは思えない体つきになっている金吾を前に、父親は呆然と口を開けているだけだ。
金吾の体躯はすでにひょろっとした父親を圧倒するほどになっている。本当にこの父親の子だろうか、と思うほどに。
「あの‥‥、後遺症なんでしょうか? この子のこの体格は‥‥‥」
母親が不安そうな顔で聞いた。
ここに来るまでは「責任を問い詰めてやる」と息巻いていた父親も、にわかに変化した金吾のこの体躯を見て不安の方が大きくなったようだった。
「それも含めて経過を見る必要もあったものですから。」
これは半分本当だが、半分はこの事態に対する篠島課長の言い訳である。
「捕獲を手伝ってもらったのは軽率でしたが‥‥。」
篠島はまた深々と頭を下げた。
「オレがやりたいって言ったの! 助けてもらった恩返しに。」
後半は金吾の完全なウソである。金吾はあの日常に戻りたくないだけだ。
ここでは自分が必要とされている。
それが金吾には嬉しいのだ。




