40 特殊事案対策室 Kチーム(特対K)
「やっほーい!」
木蓮が遊びにでも来たような声とともに、肥大化した筋肉男の暴れる危険エリアに飛び込んだ。
「待て! 足を止めるから!」
制止する猟助の言葉を聞きもせず、暴れ回る筋肉男と戦う金吾と悟の戦線に加わってしまった。
そもそも木蓮の出番は3人が筋肉暴走を始めたAMPS患者の動きを止めてからのはずだ。
金吾の格闘技と悟の戦略眼で筋肉野郎の動きをコントロールしたところへ猟助が捕獲弾を撃ち込んで足を止め、金吾と悟がそれぞれ片腕ずつ押さえ込む。
場合によっては猟助が肩も捕獲弾で固定してしまって、そのあと現場治療にかかるのだ。
それが、樋山さんが考えたKチームのフォーメーションだったはずだ。‥‥が。
木蓮がシフトで現場に出てくると、それを全く守らずに勝手な動きをする。
しかもボディーを守る戦闘服は身につけず、ヘルメットだけをかぶって、あとは白衣のままだ。
「光太郎さんが白衣で戦ってるの、カッコいいんだもーん。」
「あれは戦ってるんじゃない。それに私の場合は着替えてる時間がないんだ。山帽子さんは夜間シフトでヒマなんだから、ちゃんと身を守るためにも戦闘服は着た方がいいよ。」
光太郎は篠島課長みたいにビシッと言うのは苦手だから、どうしても語尾があまい。
「だってえー、このかわいい顔も写んないじゃなーい。」
「はあ?」
「おまえ樋山さんと違って、俺たちが動きを止める前に患者に突っ込んでっちゃうじゃないか。あんなのに頭でも殴られたらマジでヤバいぞ?」
猟助にそう言われて木蓮は渋々ヘルメットだけはかぶるようにしたが‥‥‥なぜかフルフェイスの黒いヘルメットの額部分にでっかいピンクのハートシールが貼ってある。
ナントカレンジャーのピンクみたいだ。
そのピンクのヘルメットがちょこまかと動き回るので、猟助は狙いが定められない。
「じゃまだ、木蓮!」
と猟助が言ったときだった。
筋肉男が振り向きざま、木蓮の頭めがけて拳を振り回してきた。
「危ない!」
金吾が叫んで食い止めようと腕を伸ばすが、間に合わない。
マッチョ男の拳が木蓮の頭を直撃した。
‥‥‥かに見えたが、木蓮は意外にも両手でそれを受け止めている。が、質量の差はいかんともし難い。
木蓮は木っ端のように吹き飛ばされて、路上にひっくり返った。
しかし。
筋肉男の方も無事ではない。
木蓮を吹き飛ばした方の腕が肩まで、ぶよん、と水ぶくれのようになり、力を失ってだらりと垂れ下がった。
「ごああああっ?」
木蓮がアスファルトの路面から跳ね起きる。
「見たかあ! ピンクバスター!」
なんじゃ、そりゃ?
と思いながらも金吾はマッチョマンの脚にタックルを仕掛けた。
「今だ! 木蓮! 行け!」
悟ももう一方の腕を押さえにかかった。
木蓮が再び筋肉男に襲いかかる。
ムキムキの筋肉のあちこちを、ぺちぺちと叩いてゆく。
「ピンクバスターストォーム!」
(なんじゃ、そりゃあ——?) (^◇^;)
金吾はもりもりの筋肉男の脚を抱え込んで顔を押し付けたまま、思わず笑いそうになった。
その脚もすぐに、ぶよん、とした水風船になる。
さっきまでの筋肉の怪物は力を失って、その場にべちょよんと崩れ落ちた。
「医療班!」
猟助が叫んで、車に待機していた医療チームを呼ぶ。すぐに皮下の水を抜かないと内臓が圧迫されて患者が危険な状態になるからだ。
樋山さんの場合はこれほど急ではないから医療チームに準備時間があるが、木蓮のパワーは破壊的だ。
一見コミカルに見えるが、本人が言うようにこれは『戦闘力』と言っていい。
「俺の出る幕なかったな。」
猟助は、ふっ、と笑って銃を下ろした。
「金吾くん、ありがとおー♡」
「な‥‥何が?」
「あいつが殴りかかってきたとき、あたしを庇おうとしてくれたじゃない? あたし、きゅんきゅんしちゃったぁ♡」
「いや‥‥その‥‥‥」
金吾が少し赤くなる。
その後、誰かが撮っていたこの動画もSNSで拡散された。
「ふふふー。あたしもカッコいいでしょ?」
が、この動画は木蓮が思ったようには受け取られなかったようだった。
特に「職人」によって「ピンクバスターストーム」のところに字幕がつけられてからが、大いにバズった。
『イタタタタタタタ!』




