39 ヒーロー
「つまんなーい! あたしももっと現場に出たーい! 夜間シフト暇なんだもーん。」
木蓮がスマホで動画を見ながら駄々っ子みたいな声で言った。
先日のKチームの捕物を撮影していた一般人がいたらしく、SNS上に動画として出回っているのだ。
『この黒ずくめたち、強ぇー!』
『白衣の男がカッコいい。映画みたい』
『筋肉男、一瞬でぶよぶよじゃん』
『治療ってこういうこと?』
『そうらしいよ。リハビリ中の知人に聞いたんだけど、寄生してるPMを触っただけで退治しちゃうんだって』
『どうやってるの? 魔法?』
「いいなあー。あたしもこんなふうにカッコよく撮られたーい。あたしだったら飛びかかって抱きついただけで一瞬で退治できるんだからぁ。」
「私だって代わってほしいよ。でも、山帽子さんは高校生だもんなぁ。」
「なにさ。こいつらだって中学生じゃん。それでフルタイムでやってるじゃないの? なんであたしばっか学校行けって言われんの?」
「オレはがっこ行きたくないから、ちょうどいい。」
と、これは金吾。
「オレはサッカーもやりたいけど、こっちも面白くなってきた。」
悟は競争相手のいないヒーロー役が気に入っているらしい。
「いや、そういうことじゃなくて‥‥‥。そのあたり。篠島課長はどう考えてるのかな?」
+ + +
「おい、これ金吾じゃねぇか?」
億田が丹馬にスマホの動画を見せて言った。
動きが速くブレもあるからはっきり写ってはいないが、AMPSと名付けられた病気の患者(筋肉の化け物)の腕を押さえつけている黒ずくめの男の顔は‥‥‥たしかに金吾に似ている。
「金吾‥‥みたいっすね。」
一緒に戦っている黒ずくめは皆ヘルメットをしているから顔がわからないが、金吾と思しき男だけはヘルメットをかぶっていない。
特対という厚労省の特殊部隊が、筋肉爆発(通称「ハルク化」)したAMPS患者の捕獲にあたっているらしい。
という話はニュースでもやるようになっていた。
特対。
とはどういう組織なのか。今ひとつはっきりしたことはわからないが、あのデュエルゲームの夜、化け物と化した金吾を連れ去っていったのもこういう黒ずくめの戦闘服のやつらだった。
その後、金吾は学校にも出てこなくなり、そして今——もしこれが金吾ならだが——『特対』のメンバーとしてヒーローをやっている。
そう。ヒーローだ。
ネット上ではこの動画は「ヒーロー動画」として拡散されていた。
特に白衣を翻して筋肉の化け物に挑みかかり、それをぶよぶよの水風船みたいにしてしまう男はネットの中でも「カッコいい」と話題だった。
AMPSの治療はあのように行われるらしい——ということだったが、詳細は政府からは発表されない。
ただ生還してリハビリ中の患者たちの証言から、「先生」と呼ばれる人が手で触ってゆくだけでPMが死んで液体化するため、あのようになるらしいということだった。
ネット内では「魔法ではないか」と言われている。
すでにこの動画をベースにした『TOKUTAI』というドラマが企画されているらしい。という情報も出回っていた。
「マジでヒーローだな。」
「なあ。これ、ほんとに俺たちが知ってた『サエナイキンゴ』なのか?」
「‥‥‥‥‥」
丹馬も言葉が出ない。
あいつが変化したのは、いつ頃からだっけ?
今、この動画に写っている「金吾」も筋肉隆々のいい体をしている。金吾が新川ブタにイジられてた時は、こんな体じゃなかったはずだ。
それがいつの間にか筋肉モリモリの体になって、デュエルゲームに参加して‥‥そして、筋肉の化け物みたいになって——。この動画のサラリーマンと同じように黒ずくめに連れていかれた。
その一部始終を、この2人は見ているのだ。
「なあ。もしかして‥‥‥」
億田が暗い声で丹馬に言った。
「金吾は何かの実験台にされたんじゃねーのか?」




