37 多様性チーム
「新しい捕獲チームを作ることにした。」
篠島課長が光太郎たちとのミーティングでそんなことを言ったのは、2人に聞き取りをした3日後だった。
「長森さんとも相談したんだが、現場で直ちに治療できる『捕獲チーム』が1つあってもいい。」
「どういうことですか?」
光太郎が尋ねると、篠島課長は別のことみたいな話を始めた。
「今のところ紗枝内クンと小林クンの2人にはアクティブなAMPS後遺症が出ている。つまり筋肉の異様な回復と増強化だ。特に紗枝内クンにその傾向が顕著だ。つまり‥‥」
と、篠島課長は両手をテーブルの上で組んだ。
「この人手不足の中、あの2人のパワーと運動能力をただの観察のためだけにこの施設の中で無駄に筋トレさせておくのはもったいない。」
木蓮は子どもみたいな目で篠島課長を見ている。まだ何も推測できてはいないらしい。
光太郎はいやな予感がした。
「現捕獲班の中から1人、捕獲銃の射撃手を付けるから、5人で現場に出向いてほしいのだ。」
木蓮が、ぱあっと顔を輝かせた。
が、一方の光太郎は冗談じゃないと思う。
「ぼ‥‥私は、荒事は‥‥‥」
「心配いらない、樋山クン。キミに戦えとは言わない。戦うのはあの中学生2人と射撃手だ。キミたち2人の仕事は彼らが取り押さえた患者のPMをその場で無力化することだ。」
「3人で戦う‥‥って、2人はまだ中学生ですよ?」
「昨日、捕獲班の猛者たちと模擬戦闘をやらせてみたが2人とも引けを取らなかった。それどころか、捕獲班の1人に軽い負傷を負わせるほどの健闘ぶりだったよ。AMPSの後遺症はアクティブに出ると運動神経もよくなるようだな。」
「模擬戦なんてやったんですか? 見たかったですぅ!」
木蓮が目を輝かせる。
「‥‥ていうか、中学生にそんなことを‥‥。彼ら自身は『やる』って言ってるんですか?」
最近少しは心を開いた話を聞いている光太郎にすれば、紗枝内金吾という少年は「強くありたい」という思いを強烈に持っているとはいえ、その本質的なところには気弱さを持っている少年のように見えた。
小林悟少年は、サッカーに復帰したがっていたはずだ。
そんな2人の少年が喜んで特対の戦闘員なんかやりたいと言うとは思えなかったのだ。
「隊員の1人を怪我させたことを不問にしてやると言ったら、快くオーケーしてくれたぞ?」
篠島さん。‥‥あんたそれ、中学生を脅しただけじゃん? (^^;)
射撃手としてKチームに回されてきたのは、20歳になったばかりの井出猟助という男だった。
りょうすけの「猟」の字に少し驚いた光太郎だったが、どうやら表情を読まれたらしい。何も言ってないのに、向こうから説明してきた。
「うちは代々マタギの家系なんだ。男児の名前には必ずこの一字がつけられる。」
「うわあ! カッコいい!」
木蓮がまた目を輝かせる。
猟助も悪い気がしないらしく、ふっ、と小さく笑って見せた。
「樋山クンがこのチームのリーダーとして現場の指揮をとってくれ。」
篠島課長にそう言われたときは、「なんでオレ?」と思ったけれど‥‥。たしかにこうやってメンバーが揃ってみると、それしかないのかも‥‥とも思える。
「キミがいちばん年上だしな」という以上に、冷静に全体を見て指示が出せそうなのは光太郎しかいなかった。
井出猟助は冷静そうだったが、彼には射撃に集中してもらわなければならない。
まかり間違って「患者」以外の人に拘束弾を当ててしまうと大変なことになるし、動き回る「患者」の手や足を狙って撃つのはかなり難しいはずだ。
患者の口や鼻を塞いでしまえば命にも関わる。全体を見ている余裕はあるまい。
あとはわけのわからん距離感なし女子高生と、コンプレックス持ち中学生2人だけだ。
‥‥‥‥‥‥
チームの名前は光太郎の頭文字から取って「Kチーム」としたらしい。
樋山の方から取らなかったのは、それだといかがわしいチーム名になりそうだからだ——と光太郎は後で気がついた。
街中でハルク化する患者が増えている。
たしかに、対応の人手は足りていない。




