36 多様性チーム
「ああ、ちょうどよかった。樋山クンも来てくれ。」
廊下で篠島課長に声をかけられたのは、光太郎が3人の患者の治療を終えて休憩しようと自販機コーナーの方に向かっていた時だった。
あまり外との接触をしないこの施設の性格上、コーナーに備えられた自販機はちょっとしたコンビニ並みにメニューが豊富で、しかも美味しい。
昼食や夜勤の夕食をここで済ませる職員も多い。
(狙ってたスイーツ‥‥‥)と思ったが、課長の命令では仕方がない。しかも、あの距離感なし女子高生もいる‥‥。
思わず顔に出てしまった光太郎にちらと目をやって気にしたような表情をした篠島課長だったが、言ったのはごく業務的な問いだけだった。
「最近、紗枝内少年はどうだ? 変わったことはないか?」
「筋トレをやっていますね。最近は木刀を振ったりもしています。」
光太郎はとりあえず見たままを報告する。
「木刀?」
「強さを補うためなんだそうです。以前のような体にはなれないから——と。」
「あのガキはPMに取り憑かれてた方がよかったとでも考えてるのか?」
「そこまでは思ってないようですが、『前は道路標識をひと蹴りでひん曲げられた』そうです。」
「それを異常だとは思わなかったワケ? その中学生。」
頓狂な声で話に割り込んだのは山帽子木蓮だ。
光太郎は少しだけ顔をしかめる。
どうも、山帽子はニガテだ。
「学校でいじめられてたらしくて‥‥いろいろと屈折してるようです。強さに対する執着があるようですね。」
リハビリのトレーナーとして接する中で、金吾は少しずつ光太郎にホンネをもらし始めていた。
これまで話せる大人がいなかったということもあるのかもしれない。
「変わったことというのはメンタルの話じゃなくて、身体の方の話だ。」
篠島課長が、話を戻す、という感じで言った。
「紗枝内金吾と小林悟の2人の中学生から、人間のものではないRNAが検出された。他の患者からは検出されていない。」
「RNAって?」
木蓮が子犬みたいな目で篠島に聞く。
「学校で生物の先生に教えてもらえ。」
篠島課長に鼻をかんで捨てるみたいな言われ方をして、木蓮は表情を固めて黙った。
なるほど。こういうふうに扱えばいいのか、こういう子は——。と光太郎はひとつ学んだような気がする。
「どうだ?」
と篠島課長が光太郎にもう一度眼差しを向けた。
うあぁ。キリッとしててかっこいい‥‥。
「たしかに‥‥、筋肉の回復が早いですが‥‥‥。異常というほどではありません。人間が努力でつけられる範囲ではあるんですが‥‥」
「不確実でも気になったことは言ってくれ。」
「ただ、マッサージをしている時に違和感はあります。」
そう言って光太郎は少し黙る。
「どんな? どんな? あたしもマネージャーやってたとき、部員の男の子のマッサージとかもやってたんだけどぉ。たいていの男の子はあたしがマッサージすると喜んでくれてたのにぃ、あのブヨブヨになっちゃった子だけ触らせてくんなかったのよねー。『女に体触られたくない』とか言ってぇ。あたしに気があって恥ずかしがってるのかと思っちゃったー。」
また勢いを取り戻した木蓮に光太郎は冷たい視線と共に、ひと言で黙らせようと篠島流を試みた。
「そっちじゃないよ。」
「じゃあ、なに、なに? どんな感じ?」
効き目なかった‥‥‥
「逃げるような動きはないし、はじけるようなものもありません。ただ、なんていうか‥‥‥押し返してくるみたいな‥‥‥。何かを守ろうとするような。ぼ‥‥私の指から‥‥。」
「ふむ‥‥。」
篠島課長が少し考え込む。
「わかった。本人の感覚も聞いてみよう。」




