29 筋肉の化け物
このところ、光太郎と長森先生が施設へ出向く回数が増えている。
というより、捕獲されるPM患者が急激に増えているのだ。
「そろそろ情報を抑えきれなくなるかもしれない。」
3人の患者を同時治療したある日、篠島課長がそんなふうに光太郎たちに言った。
「政府も情報の公開を検討しているということだった。近々発表されると思う。長森さんたちにもひょっとするとマスコミの取材が行くかもしれないけど、話していいことは事前に厚労省から許可の出たことだけになるから。そこんとこ、気をつけて。」
SNSの中に筋肉の化け物のようになった人間の動画が、少しずつ出回り始めている。
やたらガタイのいい男が怒りながらスーツをはじけさせて破ってしまう動画はかなり衝撃的だったが、否定的なコメントも多数ついていた。
AI に決まってんだろw
ハルクパクリ草
+ + +
おかしい。
と感じていた。
悟はこのところ自分の体がおかしいと思い始めている。
筋肉が、異様に発達してきているのだ。太ももなんか、4月に新調したばかりの制服のズボンがはけなくなるほどパンパンになってしまった。
「子どもの成長は嬉しいけど、1年に制服2回買い替えなきゃいけないなんて‥‥まあ、嬉しい悲鳴だけど。」
母親はそうい言いながら、届いた新しい制服を掲げて見せた。
悟は母親に笑顔を見せようとするが、どこか引きつってしまう。
確かにおかしいのだ。
筋肉が‥‥自分のものではないような気がする時さえある。
サッカー部の練習を最近少しサボり気味になっている。
「どうしたんだ、悟? 最近、体調すぐれないって‥‥。」
菖が心配して聞いてきたが、悟は曖昧な言葉を返すだけだった。
実際、悟自身も自分の体がどうなっているのかよくわからないのだ。どこかが痛いとか苦しいとかではない。
持久力が少し落ちた気はするが、試合に支障が出るほど走れないわけじゃないし、むしろスピードもパワーも上がっている。
しかし‥‥‥
なんだか体の内側から、キモチ悪い‥‥‥。
そんな時だった。悟があのSNSの動画を見たのは。
それはスーツ姿の男が何かに怒りながら筋肉が膨張してゆき、スーツがはじけるように破れるという奇妙な動画だった。
嘲笑コメントが多数ついていた。
誰でもわかるAI フェイクw
サラリーマン春苦
創造性ゼロww
だが、悟は笑う気になれなかった。
自分の筋肉の状況と似ている‥‥。しかも動画の最後は、画面が傾くようにして地面を写したところで終わっていた。
妙にリアルっぽい。
悟はあの試合のとき、変なマッサージで力が出なくなってしまって焦っていたとき‥‥‥灼熱した感情に呼応するみたいに筋肉が、ごりっ、と盛り上がるのを感じて、そこから急に力が戻ってきたのを覚えている。
その時は思うように力が出せて試合にも勝てたことであまり気にしていなかったが、その後、自分の体が異様に早く成長することに気味の悪さを感じ始めていたのだ。
練習をサボり気味になったのも、運動するたびに筋肉が増えていくような気味悪さを覚えたからでもあった。
これ‥‥フェイクじゃないんじゃないか?
それから数日後、マスコミがこの動画を取り上げた。
「都内で奇妙な病気にかかった人がいることがわかりました。突然体の筋肉が盛り上がってしまうという症状で、この男性はその後都内の病院に収容されたということです。政府もこの件に関しては認知しているということで、午後には厚労省が記者会見を‥‥‥」
テレビがそんなふうに報じて、あの動画を流していた。顔はモザイクがかけてあったが、間違いなくあの動画だった。
いつも思うことだが、マスコミのこの「わかりました」という言い回し。誰がわかったというんだろう?
みんなとっくに知っていることだよ?
この動画はもう何日も前からネットには拡散されていたし、膨大な嘲笑コメントに紛れて「実際に見た」というコメントも投稿されていた。
悟は「フェイクではない」派だ。
思わず、自分の脚に手をやってしまう。
病気?
オレ、病気なのか?




