28 リハビリ
「相手のことをほとんど何も知らないで戦っていたのか、あの中坊は。助けてやっても何の役にも立ちゃしない。こんなことなら手術でPMを取り出して研究と実験のサンプルにすべきだった。」
篠島さん、思考が怖い‥‥。と光太郎は思わず引いてしまう。
そんな光太郎の表情に気がついたのか、篠島はちょっと気まずそうな顔をしてわずかに頬を染めた。
「と‥‥とにかく、我々はこの寄生生物に関してほとんど何もわかっていない。」
その中学生、紗枝内金吾は長森の指導のもとでリハビリに励んでいた。
まともに立って歩けるようになるまでに1週間を要したが、そこから先は金吾自身も驚くほど回復が早かった。
走ることもできるようになり、ジャンプができるようになり‥‥。
しかもその速さも高さも、寄生生物に取り憑かれる前の金吾よりパラメーターが上がっている。
「神経がPMに対応していたこともあるかもしれませんね。」
長森先生はそんなふうに言った。
「運動能力というものは筋力だけではなく、脳や神経が体の筋肉をどれだけ的確に動かせるかということに大きく影響されますからね。紗枝内くんの場合、神経がPMの運動量に合わせて発達したことで自分の筋肉に置き換わってもどこの筋肉をどう動かせばいいのかの経験値が残っているんでしょう。極めて稀なケースといえます。」
そう言われると、金吾はもっと頑張ってみようという気になれる。
もしかしたら、寄生生物に頼らなくてもまたあの格闘技の動きができるようになるかもしれない。
取り憑かれる前のサエナイ金吾ではなく、あの億田や丹馬に一目置かれていた金吾に戻れるかもしれない。
自前の筋肉で——だ。
そんな欲が金吾のリハビリの努力を支えていた。
「紗枝内くんは努力家だなぁ。」
そんな金吾の内心を知ってか知らずか、長森先生はそう言って金吾をにこやかに眺めている。
金吾は観察されている。
「極めて珍しいケースです。」
MRI の画像を見ながら篠島は課長室で研究チームの報告を受けている。
「他の患者が1ヶ月以上かかってかろうじて日常生活が送れるようになるという状況の中で、この紗枝内という少年は1週間で筋トレまでできるようになっています。回復力が異常に早い。」
「PMが残っているというようなことは?」
篠島が腕組みをしたままMRI 画像を眺めて言った。
「長森先生が触ってみても、特に異常は見られないそうです。PMの取り憑きが短期間だったため、内臓のダメージが小さかったこともあるのかもしれません。」
篠島は厳しい表情を緩めない。
「引き続き隔離状況で観察しろ。外部との接触はさせるな。」
金吾は病院にいるような気分でいるようだったが、このリハビリ施設は病院ではない。政府の運用する特殊施設であり、外部との連絡は絶たれている。
入院したというのに親にも連絡がいっていないようだったし、スマホも取り上げられたままだ。
少し考えればわかりそうなことだが、金吾はそういうことに頭が回っていないようだった。
まだ中学生だからかもしれず、金吾自身が以前のサエナイ金吾に戻りたくない——それはとりもなおさずイジられていたあの日常に戻りたくないということ——と思っているせいかもしれなかった。
親も、クラスメートも、会いたい存在ではない。
一流のトレーナーの助言のもとでする筋トレは、自己流でやっていたものと違って金吾の筋肉をみるみる成長させていった。
金吾にとってはそれが夢のようで、他のことを考える気になれないのかもしれなかった。




