ルティアの気持ち
「すっかり暗くなっちゃったわね、ごめん付き合わせて」
「いいよ、ルティアの普段見れない顔が見られたからな」
「………ハヤトぉ?」
「えっ、なに? 俺そんなに変なこと言ってないだろ」
ゆっくりと同じ歩幅で歩くルティアに視線を移すと、ジト目でハヤトを睨みつけていた。
「そう言うこと女の子に簡単に言わないほうがいいからね? 好きになる人もいるかもしれないし」
「俺をか? そんなもの好きいるわけないだろ」
「いや、あんたのルームメイトがそうだから」
「え?」
「何でもないわよ、あの子も苦労するわね、きっと」
ルティアは友人であるサラの気持ちの行く先が心配になった。
歩みを進めると、街の子供達が木の枝でチャンバラをしているのが眼に映る。どこにでもある、どの街にもある平和な証である。
「良い街よね、ここは」
「そうだな、俺の街は酷かったからな。 毎日血の雨が降ってたようなそんな感じだった」
「東の国はのんびりした国だと聞いていたんだけど違うの?」
ハヤトはルティアの問いに少し懐かしいような目をしてからルティアに視線を戻した。
「………前に戦ったフードの男が俺のこと言ってたの覚えてないか」
「うん、確か血にまみれた手みたいなことだったかな? 頭がぼーっとしてたから曖昧なんだけど」
「俺の家はさこの国で例えると聖騎士を少し汚くした感じの裏切り者とか雇い主の命令に遵守して実行するっていうのが任務だった。 俺だって人を何人も殺してるよ」
「………そうなんだ」
「だから今は人を殺さないように上手く力を制御することができるようになった。魔力と戦い方を上手く制御すれば早々相手を傷つけないからな」
「えっ、それじゃ………………ハヤトっていつも全力じゃないってこと?」
ハヤトは魔導科100人いる学園でいきなり6位になる実力者だ。 学園に来た時の最初のテストの時、自分を助けた時も本気ではなかったということなのだろうか。 もしハヤトが本気を出せばリエラや自分のことを倒すどころか、リズベットにも勝てるのではないか。
「じゃあなんで6位になの? ハヤトの強さならいくらでもポイント稼げるんじゃないの」
「……俺は二本の魔導具があるのは知ってるだろ、でも一本しか使えない。 サラたちの戦い方を見てていまの俺では君たちに勝つのは無理だと思った。仮にポイントで上に行けてもそれは真の実力とは言えない、俺は最強を目指してるからな、君たちなら全力で戦っても死なせないだろうけど俺は本当に本気で戦えるようになった時に最強を狙いたいんだよ」
ハヤトの決意のこもった強い瞳にルティアの視線は釘付けになっていた。 そして胸の奥で強く締め付けるような感情を感じていた。
「うん、もう定期検査は必要ないわね、これならは模擬戦でも本気を出していいわよ」
学園の専門女医はルティアの健康診断のカルテを一枚ずつ眺めながらルティアに向き直った。
「まぁ模擬戦をなんともやってから言うのもあれなんだけどね、怪我とか病気になった人って無意識に自分の能力を抑え込んでしまうことが少なからずあってね、それは消して悪いことではないの。人間の立派な防衛本能だからね。でも、魔導師の場合は戦闘に向かわなければ行けないこともある。特にあなたのように優秀な魔導師なら尚更ね」
「優秀ってなんなんでしょうか」
「え?」
ルティアの問いに女医は意味がわからないという感じで目を丸くした。 しかし、すぐ合点がいったのか。 眼鏡の位置を元に戻しルティアの質問に答えた。
「とある学者さんの言葉なんだけどね「天才とは努力する凡才のことだ」っていう言葉を残してるの。 生まれながらの才能は確実に存在する、悲しいことだけどね。 それとあなたは努力することに頭がいっぱいになってるけど他にも目を向けることも必要かもよ?」
「他のこと、ですか」
ルティアは貴族として家の名に恥じぬように英才教育を受け、魔導師として1番になることを求められてきた。 1番になるために魔導書を何千冊も読んだし、どんな危険な任務も請け負ってきた。 そんな自分が別のことに目を向けることなどできるとは思えなかった。
「例えば、ハヤト君とかかっこいいじゃない? 彼のこと気になったりしないの?」
「なっ!? 何を言うんですか!? わ、私は別に……………あいつのことなんか」
口ではそう言いつつも不思議と嫌な気分にはならなかった。 たしかにハヤトは自分のことを守ってくれたし、人柄も良く魔導師としての実力も申し分ない。
好きかどうかはわからないが、彼の過去やあの強さの秘訣が気になるといえば気になるのが正直なところだった。
「良いわねえ、青春ねえ。私もあと10年若ければアタックしたんだけどなあ」
冗談混じりに女医はくすくすと笑った。 赤面したルティアの顔を見て頬がにやけたのだろう。
「それでは私戻ります」
「はーい、お大事に〜」
ルティアは医務室を出ると少し小走りに歩きはじめた。
「(わ、私はあいつのことなんか好きじゃないし…………それに私が好きになったらサラはどうなるのよ、あの子には温もりが必要なのよ)」
「痛っ」
「きゃっ!」
どかっと鈍い音とともにルティアは勢いよく尻餅をついた。 曲がり角だったのだが気にせず歩いていたため不覚にもぶつかってしまったようだった。
「ご、ごめんなさい。 考え事してて………は、ハヤト」
「大丈夫か? 悪い、少し考え事しててさ」
「あ、ありがと」
ハヤトの差し出してきた手を握り、ルティアは起き上がる。 女の子である自分とは違う硬くゴツゴツした大きい手、父親以外の男性と手を繋ぐなど、父親について行って参加した時に舞踏会に参加した時くらいしかない。
ルティアの心臓はバクバクと破裂するのではないかというほどに激しく鼓動している。
「………」
「ルティア? 大丈夫か。 も、もしかしてどこか痛めたとか! それともまだ毒の後遺症があるのか」
「は、ハヤトはさ、その」
「ん? どうした」
「(な、なんなのよ、どうしてこんなにドキドキするの〜、前までは普通に話せてたじゃないっ!)」
何故だかハヤトを直視することができない、無理に直視しようとすると胸が張り裂けそうになり、呼吸ができないほど苦しくなる。
「大丈夫かよ、なんか息荒いぞ? やっぱり具合良くないんだろ、無理するなよ。俺が医務室まで連れていって」
「…………ハヤト、次の休みの日に一緒に私の家に来て欲しいの」




