貴族の悩み
「ここで良いかな」
「良い場所だな、街が見渡せる」
「うん、お気に入りの場所なの、嫌なことがあった時はいつもここに来てる」
二人は街の高台に登った。ここからはボストニアの街が一望できるのだ。
ルティアは買い物袋をベンチの上に置くと、日が沈む水平線を細めで眺めていた。
そんなルティアはとても今まで見たことないくらい美しいとハヤトは密かに思った。
磨かれたアクアマリンのような美しいブルーの髪が海からの風にゆらゆら揺れている。
夕焼けは女の子を綺麗にすると昔誰かが言っているのを聞いた記憶がある。
「サラが言ってた通りね」
やっと開いたルティアの口から出た言葉は短かった。しかし、どこか重さを感じるようなそんな一言だった。
「サラが?何か言ってたのか」
「何も聞かないでくれるでしょ、ハヤトは」
サラは兄がクーデターを起こし両親と屋敷の使用人たちを皆殺しにし、国際的な指名手配犯となっているが、それを聞いたのはサラの口からだった。
元々人の噂には興味はないし、下手な共感はその人を傷つけるだけだからだ。
「俺は不器用だからな、気の利いたアドバイスとかできない男だ」
「…………あの人ね、私のお母様で昔から私に1番になれって言って"あの人"に教育を受けてきたの」
悔しさを押し殺すようにルティアは百合の花ような白いスカートを強く握りしめた。
ルティアの母親に対する喋り方は少し嫌悪感のようなものを含んでいるようだ。
「苦しかった、辛かった。けど誰も私を褒めてくれなかった。それはあの家にとって私は娘でも家族でもなかったから」
ハヤトはただ黙ってルティアの悩み、いやむしろこれは愚痴に近いものなのかもしれない、それでも今のルティアにはこれが一番の薬なのだ。
「ハヤト、クイズしよっか」
「クイズ? いきなりだな。 得意じゃないけど………良いよ 」
ルティアはピンク色の可愛らしさ唇に人差し指を当てている。問題でも考えているのか少し間を空けてからゆっくりと口を開いた。
「ある日、貴族出身の女の子が家にある大きなりんごの木に登って遊んでいました。 その女の子はとても元気な子で毎日勉強を頑張っていてとても真面目な子でした。 もう何回めかわからないくらいリンゴの木を登ったある日のこと、その日はきっと前日の雨の影響で木が萎れていたんだろうね、女の子は滑って木から落ちてしまった。
それを見た使用人はその女の子の母親に報告、そしてその後は母親にある一言を言われました。はい、なんでしょう?」
「…………魔導師にとって大事な手を怪我したらどうするんだ、みたいなことかな」
「………やっぱりハヤトは優しいよね、いきなり正解を言ってくれた」
この話のようなことは魔導師を輩出するような家柄では決して珍しくはない。
特に権力や領土拡大を目論む貴族は高い金額を支払い、自分の子供に魔導師の英才教育を受けさせるらしい。
ハヤトも色んな国も旅してきたため、それなりの知識は持っているのだ。
「まぁ、俺も本国ではそれなりの家柄で色々させられたからな、全く気持ちがわからないわけではないさ」
「そっか………ハヤトって結構胸の筋肉あるんだね」
ルティアがハヤトに近づき、ハヤトの胸に顔を埋めた。
香水の匂いだろうか、女の子の香りがハヤトの鼻腔をくすぐる。
「…………ハヤトって婚約者とかいる?」
「えっ? いないけど」
「私と……………結婚して!」
「はぁっ!?」
聞き間違えかと思った。ハヤトは一つ深い深呼吸をした後、ルティアの顔をもう一度見つめた。
「今、結婚って言ったか」
「ハヤトがいいなら第一妻出なくてもいい、愛人でもいいの、だから………」
「いや、俺たち特に接点ないだろ、こんなに話したのだって最近までなかったしさ」
「やっぱり、胸の小さな子はだめ……………?」
ルティアは涙を浮かべながら、ハヤトを見上げていた。
たしかに、リエラやリズベットに比べるとかなり小ぶりだし、サラやネリーは制服の上からで正確な大きさは不明だが、決して小さくはないのではと思ってはいた。
「いや、そういうわけではないけど………どうしたんだ」
「…………ごめん、ちょっとおかしくなってたね、えへへ」
「大丈夫、ここにはルティアの仲間はたくさんいる、ルティアのことをルティアとして見てくれる奴ばかりだと思うぜ、だから大丈夫」
「………うん」
ルティアはそのまま、ハヤトの胸に顔を埋め、二人を夕日が照らし続けていた。




