エレン・シェール
「…………あれは」
「これ、本家に送っておいてちょうだい」
「かしこまりました」
ルティアはネリーと別れた後、窓からリズベットの姿を見つけた。長旅から戻ったリズベットは使いの者にいくつかの荷物を渡し場所を降りている。
ルティアはそれを見かけると一番近い廊下の窓を開け放ってリズベットに聞こえる声の大きさで声をかけた。
「リズ!」
「ルティア! 体調はもういいのね、倒れてると聞いていたのだけど」
「今そこに行くわ」
ルティアは窓の手すりを掴むとその場から飛んだ。
「フライ!」
本来は梯子を使わずとも屋根の上に飛び乗れるような簡易な魔術だが使い方によっては落下の衝撃を和らげることもできる。
「相変わらず魔術が上手いわね」
「それは嫌味かしら? 国きっての天才魔導師リズベット・ワグナリアさん?」
「天才というのは何かがきっかけで生まれるものよ、どんな場合でもね」
リズベットは首に掲げているブローチを力強く握りしめると一瞬強張った表情を崩してルティアに向き直った。
「何か用なの?」
「私は…………必ずあなたに勝たないといけないの、勝って私が1番になる」
「もしルティアがいいなら………私は一位の座を譲ってもいいのよ」
「それだけはダメなの、自分で…………実力でリズベットに勝つって私はあの時から決めてるから」
ルティアは悔しそうにスカートの裾を強く握りしめた。
「だから2日後試合をして欲しいの。 しばらくの間はこっちにいるって聞いてる」
「………わかった。 全力でルティアと戦う。約束するわ」
次の日、ハヤトはランキング32位 フリッツ・グランダーソンと試合を行なっていた。
「唸れ! ガラテア!!!」
ハンマー型の魔道具がハヤトに向かって振り下ろさら、ハヤトはそれを軽々と受け止める。
「踏み込みが甘い、体が武器を使いこなせていない、正直変えた方がいいと思うぜ」
「くそ! 」
グランダーソンはハヤトに四方八方から打撃を加えるも次々とかわされ攻撃が当たる気配がない。
「…………筋は悪くないけど遅い!神速流奥義 一鉄!」
ハヤトの魔術はグランダーソンの武器を真っ二つに叩き割る。
「これで試合終了だな」
「………まだだあ!!」
「は? いやだって武器」
グランダーソンは諦める様子はない。
むしろ、先ほどまでよりも殺気立っている様子だ。
「バーニング ブラスト!!!」
「あの距離でそんな高位魔術なんて使ったらハヤトも無傷ではないでしょうね」
「彼、そんなにハヤトが嫌いなのかしら」
ネリーとルティアが2人の試合を見ながら試合を分析していた。
「これはあくまで噂なんだけどね、ハヤトがランキング6位スタートだったのを気に入らない生徒が多いっていう噂を小耳に挟んだのよ」
「ネリーって結構そういう話好きよね…………で、まぁランキング上げるのって結構大変だしランキングが高ければ騎士団にも入りやすいし未来も変わる。 一族の期待も背負う人いるだろうし」
ハヤトは近距離からの魔法に即座に魔術障壁でなんとか直撃は避けたものの、制服が少し焦げてしまった。
「あぶねえ……………制服この前新しいもの貰ったばかりなんだけどな」
「…………今のを防ぐのか」
「いや、今のはいい作戦だったよ、今までは武器を手から離せば試合終了だったんだけどな、完全に油断してたよ。 勉強になったありがとう」
「………やっぱり俺なんかまだまだなんだな、負けたよ」
グランダーソンとハヤトは暑く握手を交わした。いつもは閑散としている生徒たちも2人の誠実さに感動したのか拍手を送った。
「…………やっと16位か、早めに戻さないと部屋を追い出されるな」
「……………おかしいわね、この辺りだと思うんだけど」
「ん?」
美しい青色の長髪の女性が小さなメモ用紙を見ながら辺りを見回している。おそらく道に迷ったのだろう。
「あの、どうかしましたか」
「あっ、すみませんボストニア学園に行きたいのだけど、迷ってしまって」
「あー、たしかにこの辺りは入り組んでるからなあ。案内しますよ」
「ここです」
「あら〜大きいわねえ」
女性は学園の巨大な門を見上げた。ハヤトも同じリアクションをしていたことから、おそらくこの学園に来た人たちの様式美のようなものなのかもしれない。
「連れてきてくれてありがとう、私はエレン・シェールって言います、娘がこの学園に通ってるのよ」
「えっ!シェールって」
「ええ、あっ! ルティア!」
「えっ」
エレンの視線の先にはルティアが立っていた。買い物袋を手に持っているということはどこかで買い物をしてきたのだろう。ハヤトたちとはすれ違ったかもしれない。
「よお、ルティア。 この人が」
「…………お久しぶりですね、お母様」
「ええ、会いたかったわルティア」
ルティアの目は消して久しぶりに母親に会ったという目ではなかった。壁を作っている、いやむしろ嫌悪感を示しているという言った方が正しい。
「ルティア、あなたに言い話を持ってきたのよ」
「…………またお見合いですか」
「ええ、これを私にきただけなの」
エレンはルティアに薄い冊子のようなものを手渡して去っていった。
「………………」
ルティアは言葉を発してはいなかった。しかし、ルティアの視線から感じる感情はルティアに声をかけることすら躊躇われた。
「…………ハヤト、少し歩けるかな」
どれくらい2人がそこにいたのかはわからない。 重い口を開いたルティアにハヤトは黙って頷いた。




