家族
「その格好でか? 走りづらくないのか」
「走るわけではないです、あなたの大事なものを捨ててください」
「なんだと?」
精霊の口から出た言葉にハヤトは思わす顔をしかめた。
「お金でも恋人でも武器でも良いです、あなたの大事なものを私にください」
「俺を試してるのか、精霊」
「試すだなんてそんなことないです」
「それに、外の死体の中に王国騎士の鎧を着たやつが何人かいた、王国騎士になるような奴らが簡単に警戒を解くわけもないし、命の次に大切な武器を捨てるはずもない、それなのに奴らは無残に斬り殺されていた、あれはお前がやったんだろ」
王国騎士になるためには剣技祭での優勝、または王族が特別に指定した貴族の家柄の主人たちからの推薦、または王国からのスカウトである。 実力者揃いの王国騎士が血まみれで倒れるなどハヤトには信じられないことではあるが、現に遺跡には死体の山が転がっていた。
「そいつらはおそらく武器を捨てた、恋人なんて連れて来てないだろうしな、でだ。 この結界、というか異空間を見るにお前はここで精霊の力を使えない、そうだろ」
「はい、確かに私を封印した魔導師たちは私の能力を使えないようにしました」
ハヤトは頭は回るほうだ、考察をするのは好きだし、観察眼もある、それらを活用しハヤトは1つの推論を口にした。そして、精霊の少女に近づき、その目の前で膝をついた。
「大切なものね、あいにくそういうのはほとんど本国に置いてきたからな、これしか持ってないんだ」
そう言って、ハヤトは自分の胸に剣を突き刺した。
「……………」
精霊の少女は目を丸くするだけで言葉は出さない、しかしこの行動は予期していなかったようで瞳孔が開ているのはわかった。
「…………不思議な感覚だな、痛みはない。 普通なら血が出て死ぬはずなのに、俺は生きてる」
「…………こんな行動をしたのはあなたが初めてです、合格ですあなたに私の力を授けます」
「ああ、力を貸してくれるか」
「イエス」
「おっ、帰ってきたね、てっきり死体になると思ってたけど」
「それが弟子に言うことかよ、このやろう」
「あはは、ごめんごめん。 いやあ、そうかあついにハヤトも精霊と契約かあ。 これで立派な魔導士の仲間入りだ〜」
「マスター、この人は?」
「俺の師匠だよ、変なやつだけどな」
精霊の少女はハヤトの影に隠れてそっとセーラのことを見つめていた。 その姿は本当にただの小柄な女の子にしか見えないが。
「さてと、その子の服を買いに言って来るから少し待ってな、君の依り代になる魔導具も手に入れないとね」
「はい」
「全く、あの時のニオは怖かったのなんの」
「マスターに身も心もめちゃくちゃにされて私はマスターと契約したんです……………ポッ」
ニオはあからさまにわざとだと思えるような態度で頬に手を当てて顔を赤らめている。
一体、精霊であるというのにどこでこういうような知識を覚えるのだろうかとハヤトはふと疑問に感じた。
「……………それ、他の奴らの前で言うなよ? さてと、そろそろ寝ようか。 いい加減課題ばかりだとポイント稼ぐのもキツイしな。 ランキング上げないとリスベットと戦えないかもしれない」
「あの女と戦いたいのですか?」
「だって、ここで1番強いのはリズベットなんだし、俺だって魔導師として強いやつと戦いたいよ」
「マスターがそう望むのでしたら、私は槍にも盾にもなりましょう」
退院した2人はすぐさまランキングを戻すため、一日中模擬戦を行うというようなかなりのハードスケジュールをこなすことになった。
ルティアはさすがと言うべきか、みるみるとランキングを上げた。 わずか一週間で30位にまで落ちていたランキングを13位まで上げた。
2位のルティアがランキングを落としていた間は繰り上げとしてリエラ(2位)、ネリー(3位)、サラ(4位)となっていたが、ハヤトも50位以下まで落ちたランキングをなんとか21位まで持ってきていた。
ひたすら上位のランカーに戦いを挑んだのが良かったのかもしれない。
ランキング上位と闘うことにより多大なポイントを得ることは出来る、しかし負けた時のリスクもそれなりにある。
そんな中、ルティアは鈍った体を叩き直す意味も込めて模擬戦も続けたため、技の威力が今まで以上に強力になっていた。
「私だってあなたに勝つんだから!」
女生徒はルティアの放つ攻撃を素早くかわしながら間合いを詰めていく。
「獲った!」
「………私は負けるわけにはいかないのよ、貫け! アクアランチャー!!」
まるで大砲のような強力な水流が対戦生徒の発動してかけていた魔術をかき消し、霧雨のように会場全体に降り注いだ。
「きゃあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」
「そこまでだ、勝者ルティア。 今日の試合は全て終了した。 参加したものは魔力の回復に努めること、以上だ」
『ありがとうございました』
対戦した二人はお互いに頭を下げそれぞれ控室へと戻ろうと歩み始めた。
「おい、ルティア」
試合の審判を務めていた教官がルティアを呼び止めた。
「はい?なんですか」
「君が優秀な魔導士なのは認める、ただ試合のするペースは基準ギリギリのペースだぞ。少し休んだらどうだ」
「…………私は一番にならないといけないんです」
「君ほど優秀なら魔力の枯渇がどれほど危険かわかるはずだ、君は」
「ほっといてください!!!………失礼します」
「はあ………駄目だな、私」
ルティアは控室で盛大にため息を漏らしていた。
試合後だったということもあってアドレナリンが出ていたのかもしれないが、いくらなんでも教官に対してのあの発言はどうなのかと自分を責めずにはいられなかった
のだ。
「あっ、こんなとこにいた」
「ネリー?どうしたの?あなたの試合は大分前に終わったでしょ」
「うん、少しルティアと話があってね。ここいい?」
「いいわよ」
ネリーはルティアの隣に座ると、普段から被っている魔女の帽子を取った。綺麗な赤髪がふわっとなびく。この国では決して多くない髪の色だ。
「綺麗だよね、ネリーの髪」
「………うん、昔はいろいろ言われたけどね」
「色々?」
「あはあ、こっちの話だよ。それでね私の部屋にこれが紛れてたの」
「なに?」
「ルティアへの手紙、ごめん封が開いてて少し内容見えちゃった」
ネリーから渡された手紙にはルティアの家の紋章と母親の名前の記載があった。
「………お母様だわ」
「たまには顔を見せなさいとかいう感じの内容ぽくはなかったけど」
「あの人はそういうこと言わないわよ」
ルティアは中身の確認をせずに手紙を制服のポケットにしまい込んだ。
「ごめん私行くね、手紙ありがとう」
「うん、また後でね」
ルティアを見送ってからもう一度帽子を被りなおした。
「………家族か」
何かもやもやした感情がネリーの胸を襲う。
「隣の芝生は青く見えるってやつかな」
正直に口に出しても胸のもやもやは消えることはなかった。




