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黒爪

「ハヤト、起きてる?」


「ああ、起きてるよ。 何かあったか」


ハヤトがベットから体を起こすと暗がりなため見えずらいが、ルティアがベットの手すりに捕まり立っているのが見えた。


「立てるのか」


「これでも体力には自信あるからね、それより少しだけ行きたいところあるんだけど」


「………行きたいところ?」


「うん」


「……………わかった」


「聞かないの? 理由とか」


「聞かないよ」


ハヤトはベットから降りると、まだ多少のふらつきのあるルティアの体を優しく支えた。


「昔同じことをある女に言われたことがある。 そいつに言われたのが『女の子の行動に理由とか聞くな』だってよ」


「その人は………ハヤトの刀の精霊さん?」


「ああ。俺よりもずっと凄い剣士だったよ、いつも勝てなかった」


「…………」


「ごめん、話が長くなったな。 行こうか…………よっと!」


「ひにゃっ!?」


ルティアはいきなりのハヤトの行動に間抜けな声をこぼした。


「今の声可愛かったな。 ほら行くぞ」


「お、下ろして! 」


「だめだ、立てるようになったっていっても万全じゃないだろ」


「………………なによ、もう」








「……………………俺は、一体なにをしてるんだ」


ハヤト今風呂にいた。 床と壁は大理石で作られ、天井は透き通るガラスでそれを支える石柱にはそれぞれ精霊の石彫りが施されていた。


「しばらく風呂に入れなかったし、ルティアが体を洗いたいという気持ちもわかる。しかしだ、なぜ俺も入ってる? なぜだ」


「………………は、ハヤト」


「!?」


「は、入るから」


「お、おう」


ちゃぽんと水がなびき、ルティアがゆっくりと体を沈ませる。


「やっぱりお風呂は気持ちいいわね、ハヤトの国は温泉が沢山あるのよね?」


「ああ、そうだな」


今のハヤトにはルティアの質問に真面目に答えている余裕は無く、自分自身の理性を抑えることで全意識を集中させている。


「ハヤトって結構体に傷ばかりなのね」


「!?」


「ご、ごめんっ! 痛かった?」


「そうじゃないけど、その……………なんで俺まで風呂に入るのかと思ってな」


「…………ハヤトはさ、1番になれなくて悔しかったことある?」


ハヤトの背中の傷を悲しく見つめながら、ルティアは言葉を零した。


「あるよ、さっき言った奴は本当に凄い奴だった。 俺より体は小さかったが、動きも戦闘スキル、センス、魔力の多さ、質、命に対しての考え方が俺なんかよりもしっかりしてた」


「他のはわかるけど、命の考え方って?」


「……………」


ハヤトは言っていいものなのだろうかと少し迷った表情を見せたが、一呼吸置いてから言葉を発した。


「…………使命のために命を捨てること」


「………なんのためにそこまでするの?」


「俺たちの使命は依頼人の敵の始末だ。 その障害になるのであれば友人、親も見捨てろと言うのが俺がいた組織の掟さ。 世界のために殺しを行う最強の暗殺集団」


「組織の名前……………聞いていい?」


「…………世界の秩序と平和を守る『黒爪』聞いたことあるだろ」


『黒爪』は自分たちで名乗っていた組織名というわけではない、和国だけでなく彼らは各地で暗殺の依頼、平和を脅かす存在になるであろう存在、貧困や差別を引き起こしている人物の始末を行ってきた。

中には組織から裏切り者が出たこともある。

その時はハヤトの親世代が裏切りものを抹殺。 幼かったハヤトも何人もの人をその手で殺めたことがある。

そして、所属メンバーたちは任務遂行後にその手が血で赤く染まり滴っていたことで始末対象外の人々から広まった名称が『黒爪(クロヅメ)』と呼ばれている。


「殺した後に血まみれだから『黒爪』笑うだろ」


「……少し驚いたけど笑わないわよ。私たちは。 魔導師になる人間はあまりいい思い出を持ってない人が多いから」


「サラも驚いたみたいだけど、非難はしてこなかったな。 俺が思ってるより魔導師は変な奴らが多いな」


あははと笑うハヤトにムッとしたルティアはハヤトの背中をベチンと叩いた。


「痛え! な、なにするんだよ」


「………なんかムッときた」


「いくらムッとしたからって…………あっ」


ハヤトの視線はルティアの顔より下に視線が降りていく。 お互い正面を向いているため、お互いの顔が見えるわけだが、膝をついているルティアの身体はちょうどルティアの小ぶりな胸がハヤトの目の高さにあった。


「//////////////っ!!!!!!!!」


本来は使用してはいけない時間帯だ、今ルティアが叫べは間違いなく人が駆けつけ時間外の使用の理由などを聞かれ罰則としてさらなるペナルティーでランキング戦復帰が遠のいてしまう。 今でさえルティアのランキングは6位、ハヤトは9位までランキングが落ちてしまっている。 このまま課題だけを続けているのでは以前のランキングには戻ることができない。 そのことが頭をよぎり、ルティアは羞恥心と戦いつつ、必死に悲鳴を押し殺した。


「……………ご、ごめんっ! 今度は本当に見ちまった」


「………今更な気もするけど……私最初はハヤトのこと認めたくなかったのよ」


「まぁなんとなくは察しはついてるさ、自分たちは必死にランキングキープしてるのにいきなり6位のやつが現れたらな」


「そうじゃなくて。 サラのことよ」


「サラ? どういうことだよ」


「あの子の家のこと知ってる? あの子はね今は元気になっていつもニコニコしてるけど、学園に入学した時のあの子はみんな近づこうとしなかったわ。 怯えていたというか、悲しい瞳をしてたり、情緒不安定だったわね」


少しのぼせたのか、ハヤトに背を向けて湯船の淵の大理石の上に座りなおした。


「アルジオもそんなこと言ってたな。 最近変わったってさ」


「だから、あの子のこと守ってあげて。 何があっても」


ルティアの瞳はいつにも増して強い意志を感じさせた。

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