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病室でのこと

「着いたぞ、ルティア立てるか」


「うん、だいぶ痺れも取れたし」


学園についたメンバーは馬車から降り、荷物を降ろしてリエラは馬を馬小屋に連れて行くために1人だけ馬車から降りずにそのまま馬車を走らせていった。


「ほら、おんぶしてやるよ」


「いいわよ、ハヤトだって疲れてるでしょ? 」


「気にするなよ、ルティアはそんなに重くなかったしな」


「な、なななななななな!?」


お姫様抱っこをされた時のことを思い出し、カアアアアと顔が赤くなる。


男性にお姫様抱っこなどされたことのないルティアには刺激的な体験になってしまった。

箱入り娘のルティアには同じ年の男性と話す機会など殆どなく、ルティアの中で男性というのは使用人やパーティーで軽い挨拶を交わすような年上の紳士達だった。


「ルティア、どうした? 顔が赤いぞ」


「べ、別になんでもないわ!」


「そ、そうか?」


「ハヤト君! ルティア!」


第2正門から、サラが長い髪をなびかせながら向かってくる。 ハヤト達の帰還を聞きつけて迎えにきてくれたのだろう。


「大丈夫? 怪我は? 痛いとこある? すぐ医務室に」


「待て待て待て、俺なんかよりもルティアの状態を気にしてやれよ」


「ホントよねー、長年の親友のことよりも先に心配するのはハヤトのことなのよね〜」


「あわわ、ち、違うのルティア! そういうことじゃないからぁ〜!!」


「くすっ、冗談よ、ただいまサラ」


「もう。 うん、おかえりルティア」


仲睦まじい2人を横目で見つつ、ハヤトは左腰にぶら下げている自身の武器に視線を落とした。


ルティアに魔力を供給したニオがまた姿をあらわすのには再び時間がかかることだろう。


「もう1本使えるようにしておくべきなんだよな、本当は」


ニオとは反対側の右腰にぶら下げている刀の鞘に手を添える。


いつものように反応はなく、カチャリと響きのいい音がするだけだ。 精霊が宿る魔道具とは思えない。


「ハヤトの精霊は大丈夫なの?」


「どうかな、ただでさえニオには負担かけていたから、魔力回復にはかなり時間かかると思う。 もう1本は使えないしな」


「その刀使えないの? 魔道具なんでしょ」


「一応は…………………………な、こいつを精霊といって良いのかはわからないが」


「お待たせしました、部屋へご案内します」


学園の治療班が到着し、ルティアを担架に乗せルティアの入院する部屋へと運んでいく。


「ハヤト君は? 」


「俺はルティアほど疲弊はしてないよ、魔力は空になったけどな」


「ハヤト君、ちょっとこっち来て」


「うん? わかった」


サラの言う通りに彼女に近づくと、サラは勢いよくハヤトの胸に顔を埋めた。


「バカっ、心配したんだから……………」


「ごめん、ただいま、サラ」


寂しさを我慢していた小さな子供のように、ハヤトの胸をぽこぽこと可愛らしく叩いた。


心配をかけてしまったという罪悪感が、ハヤトの胸をギュウギュウと締め付ける。


「お兄様はね、私が泣いていた時にいつもこうして抱きしめてなでなでしてくれたの」


「俺がサラのお兄さん探し出してみせるよ」


サラを落ち着かせるように、小さく壊れないようにそっとサラのことを抱きしめた。





「今すぐシャワー浴びて寝たいんだけど、今じゃないとダメなのか?」


「うん、学園長に報告しないとね」


「はぁ」


2人は学園長室へと向かい、コンコンとノックをする。 中から返事が返されたのを確認してから入室する。


「おかえり、ハヤト君」


「いえ、水質の問題はなんとかルティアの力で解決しました。 ただ、何者かに襲撃は受けました」


「襲撃?」


すると、コンコンと誰かが学園長室のドアをノックした。


「どうぞ」


「お待たせしましたわ」


ノックの主はリエラだった。 リエラは馬小屋に馬車を運んでから2人に遅れて学園長室へ向かっていた。


「ハヤトさんの話に補足しますわ。 あの男は闇属性の使い手でした、しかも相性の良い操作系魔法でしたわ」


「ルティアも俺も魔力がすっからかんの状態だったとはいえ、全快でもあいつに勝てたからわからない、かなりの手練れでした」


「一応、10剣が揃ってから話そうと思っていたのだけど、良い機会かしらね」


学園長であるイミーラはふぅと息を吐いてから、学園長椅子へと腰掛ける。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「ここ最近、王国内で破壊活動をする組織が現れだしたの、メンバーはみんな実力者ばかりで、先日王国直属の聖騎士部隊の隊長が仲間になったと報告があったわ」


「そいつらはクーデターでも起こす気なんでしょうか」


ハヤトの問いに、イミーラはわからないといった様子で首を横に振る。


「彼らについてわかっていることは、お金を集めていること、組織を大きくするためなのか、実力のある人をスカウトしているということだけよ」


「でも、聖騎士が謀反だなんて、幻覚魔法で操ったという可能性もあるのではないんですの?」


「その可能性は低いわ、聖騎士は全員幻覚魔法を防ぐ魔法を会得しているし、その隊長さんはかなりの実力者で国への忠誠も確かだったみたいなのよね」


イミーラは窓の淵の埃を布巾で拭きながらポツリとつぶやいた。


「それにあの子はそんなことするような子では」


そして、誰にも聞こえない大きさでつぶやくが、ハヤトは聞き逃さなかった。


「(あの子?)」


「王国内の情勢は悪くなって来ましたわね」


「聖騎士が抜けるとかなりきついだろうな…………っ!?」


突如、ハヤトの左足はガクッと折れ、力がみるみる抜けていくのを感じた。


魔力切れの影響が今になって現れたのかもしれない。 思わず立っていられなくなったハヤトは膝から崩れ落ちた。


「力が……………俺も限界だったのか、魔力切れなんて初めてだ、こんなに辛いのかよ」


「ハヤト君、起きれる?」


サラは倒れ込んだハヤトを抱え込む、ハヤトの顔にサラの胸が当たっているが、今のサラにはそれを気にしている余裕はないようだ。


「………………ああ、天使が見える」


「ふぇっ!?」


「天使よ、我の魂は神の元へ行き、そして全ての生あるものに感謝し、再びこの世界に芽吹くことを祈らん」


「ハヤトさん、それは死ぬ時の言葉ではなく、年越しの際に来年もみんな元気で居られるようにとお願いする言葉ですわ。 サラ、ハヤトさんは意外と元気ですわよ」


サラがジトーっとした目でハヤトを見つめ、サラは目をパチパチさせつつリエラと目を合わせた後、ハヤトの身体を支えたままハヤトの方に視線を戻した。


「ごめんごめん、倒れたのは本当だけど、死ぬほどではないよ、心配させたかな」


「…………………しらないっ!」


頬を膨らませて機嫌が悪くなったサラは怒って背中を向けてしまった。


「しかし、ハヤトさんはよく今のお祈り知ってましたわね、最近は形だけやる街も多いのですけど」


「昔、グランって街にいたことあってさ。 そこで少し教会に通っ出た時に教わった」


「グランはあまり魔導師を快く思っていない人が多いと言われる街だったわよね」


「ですね、俺もセーラも魔導師とは言わなかったですから」


「そう。 ごめんなさい、話が長くなってしまったわね、あなたもすぐ医務室に行きなさい」






「ねえ、ハヤト」


「ん? なんだ」


「馬車の中での話の続き聞かせてよ」


ベットに横になりながら本を読んでいたハヤトにルティアが話しかける。


「さっきの?」


「ほら、精霊と契約しにいくって話。 その精霊はニオなんじゃないかなって思ったんだけど、違う?」


「あー、そんなに聞きたい?」


「なんでそんなこと言うのよ、仲間のこと知りたいってそんなに変なことじゃないでしょ」


「わかったよ、そこまで言ってくれるなら話すよ。 俺は2体の精霊と契約してる。 ニオともう1人、俺の恩人のカレンだ」


「恩人ってなによ」


ルティアは身体にまだ力が入らないため、自力で起き上がる事は出来ないが、気持ちだけは前のめりになっているらしく、話の続きを気になっているようだった。


「ルティアはさ、精霊化って聞いたことあるか」


「禁忌の1つよね、人が精霊になることは禁忌であり、そして不可能に近い、出来たとしても自我を保てない。 禁忌を犯したものは国外追放、場合によれば禁錮の刑に処されるって耳にタコができるほど聞かされたわね」


「さすがルティアだな。 それを俺はしたことある。 もちろん失敗はしなかったけどな」


「えっ?」


ルティアは横になったまま聞き返す。 まさか自分の友人の口から禁忌の経験があると言われるとは思わなかったのだろう。


「精霊化は上手くいったけど、当時の俺は魔力操作は出来なかったからな。 カレンはカレン自身で魔力を保持するために休眠状態になってる。 だから、こいつと契約しないといけないんだけど、なかなか魔術回路の接続が難しくてな、邂逅自体はサラのおかげで出来たんだけどな」


「…………………精霊契約は私も苦労したわ」


「…………責めないのか、精霊化のこと」


「サラのおかげでってことは、サラもその人のこと知ってるんでしょ、あの子が何も言ってないなら私がとやかく言うのもおかしいわよ。 そ、それに……………ゴニョゴニョ」


ルティアの顔は角度の問題で表情を伺うことはできないが、声を察するに照れているのかもしれない。


「ありがとう、ルティア」


「う、うん」


「…………………仲良くなりましたね、お二人とも」


『!?』


いつからいたのか、そこには大量の書類を抱えたフィノがいた。


常時無表情なフィノからは何を考えているのか思考が読み取ることは出来ない。


フィノは無表情のまま、大量の書類をハヤトとルティアのベットの横に備え付けられているテーブルの上にそれぞれ置き、フィノは2人に書類の山について説明を始めた。


「これはお二人の治療中の課題です。 今のランキングを保つためにはこの量を毎日こなしてください。 無論興味ないならやらなくても結構ですし、他の生徒たちの頑張り次第ではランキングは下降するかもしれないですが」


「この量を…………毎日? 冗談だろ」


フィノの説明を聞いて、ハヤトは顔を真っ青にする。 勉強はできない訳ではないが、魔術回路、物理法則などの細かい法則や計算が必要になるものは得意ではなかったし、なんとか点数が取れていたのもサラが毎日勉強を見てくれていたおかげだった。


「あなたが魔術学科が得意では無いのは伺っています。 しかし、この学園の生徒には自身のランキングに相応しい生徒になっていただく必要があるのです」


「……………つまり黙ってやれってことか」


フィノが無表情なのは変わらずだが、いつもよりも表情が厳しくなったのは決してハヤトの勘違いでは無いはずだ、ちらりとルティアを見ると彼女は慣れた手つきで書類に目を通し始めた。


まだ身体を起こすことはできていないが、フィノに支えられ、体を起こした。


「ルティア、ずいぶん慣れてるな」


「貴族っていうのはね、大体は小さい頃から家庭教師を付けられるのよ、それで毎日この倍以上の勉強をさせられて、魔力の実技、ピアノ、ダンス、射的、乗馬、作法の日々。 本当に"これくらいなら朝飯前なくらいよ"」


「……………」


ルティアは少し棘のあるような言い方をした。 ルティアにとって毎日毎日が家のプレッシャーに応えるという苦痛だったことだろう。


「では、私はこれで失礼します」


スカートの裾をたくし上げ、ぺこりとお辞儀をしたフィノは物音を立てず静かに部屋から姿を消した。


「………ルティアのことも聞いて良いか?」


このままではいけない、彼女は自分と同じように何かを抱えている。 サラと出会わなければ、今の自分は昔ほどでは無いにしてもこの学園でやっていく自信は付かなかった。 今度は自分が仲間を救う番だ。


「………………私の家はね、昔は一日を食い繋いで行くのが精一杯の一族だったらしいわ。 毎日毎日浅瀬に行って小さな貝を拾っては魚市場に売りに行くってね。 それが今は貴族って言ってるんだから不思議よね」


「そこからどうやって貴族に?」


「魔力のある子供が生まれると国から補助金が出るのは知ってる? ハヤトの国はどうだったか知らないけどボストニアはそうなのよ、だからその、子供をたくさん作って魔力のある子供が生まれたら魔力のある人と婚約させてを繰り返す、そうしていけば力のある魔導師が生まれるからその人が優秀であれば国からの補助金だけでなくて国から高い権威を貰える。 それを繰り返して今の地位よ」


「そうなんだ、すごいな」


「あれ、この話をするといつもみんなドン引きなんだけど」


ルティアは不思議そうな表情をしつつ、書類に自分の名前を記入していた。


「俺の家に比べたら可愛もんだよ、努力家の一族なんだなとしか思わないしな」


「努力家…………………ね」


ルティアの小さなつぶやきはどこか冷たさを秘めている。 彼女自身の家に対する感情は決していいものでは無いのだろう。


「ん? 」


「どうしたのよ、いきなり真剣な顔して」


ルティアは気がついていないようだが、ハヤトは聴力を鍛える訓練もしているおかけで聴覚過敏気味になってしまい、睡眠の妨げになることもあるのだが。


「人の足音だ」


ハヤトが呟いたすぐ後だった、コンコンとドアがノックされた。 ゆっくりドアが開くとドアの陰からはサラが病室を覗き込んできた。


「サラ?」


「サラは意外に隠密の才能もあるかもな」


「(…………私には全く聞こえなかった、それなのにハヤトは聞こえたって言うの?)」


「ルティア、怖い顔してどうしたの? お医者さん呼んでくる?」


ルティアの顔が強張ったことに気がついたサラは心配そうにルティアの顔を覗き込んだ。


「ううん、別になんでもない」


その時のルティアはそう口にするしかなかった。

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