カナ・マエゾノ
「ハヤト君平気かな………」
「どうしたんだい、サラっち」
「ひゃい!?」
「か、カナか………もう、驚かせないでよ」
カナは濡らしたタオルでサラの頬を吹いたようだ。 少しだけ怒ったサラにカナはニコッと笑顔を返した。
「いやあ、愛する人の帰りを待つ黄昏る女の子は絵になりますなあ」
「そういうのじゃないって言ってるじゃない、それより何の用?」
「なんかふとハヤトっちってどんな人なのかなって思ったんだけど。 私クラスも違うから、サラなら彼のことよく知ってると思って聞きに来た」
「カナだって、ハヤト君のことを知ってそうだけど」
わかってないなあという感じで、カナは首を横に振った。
「私と彼はね、生まれた地域が近いというだけで国は違うから」
「やっぱりそうなんだね、私もリズベットのことはあまりよく知らないし。 同じ国だけどあの子がなにを好きなのかもあまりよく知らないな」
同期入学のリズベットとサラであるが、サラはリズベットのことをあまり知らないのだ。
リズベットはほとんど学園にいることはない上、あまり人とコミュニケーションを取ろうともしない謎の多い少女なのだ。
「あとは、ハヤトっちに惚れた理由とかも聞きたいなあとか思ったりとかね」
「わ、私はハヤト君のことは!」
「わかってるわかってる。 恋する乙女は皆そういうんだよ〜〜〜〜」
「……………………………………ハヤト君にはきっと心に決めた人がいるっぽいし」
「ワオ」
ハヤトは自分の過去を話そうとはしない。
自分が信用されてないのか、ハヤトの過去はサラが思っている以上に重いのか、人に話してはいけない機密か、または呪いを掛けられているのか。
「おっ、珍しい組み合わせだな」
「確かに。 カナったら、サラちゃんに迷惑かけてない? 嫌なら突き放して良いのよ?」
「アリス、何でもかんでも私が問題起こすみたいに言わないでよ〜〜」
不満そうに、ぶーぶーとカナはブツブツと文句を言っているが、決して2人は仲が悪いというわけではない、基本的にいつもチームを組んでいるメンバーということもあり、遠慮をしなくなっているのだ。
「カルロスとアリスは今日も仲良しだね」
「ち、ちげえよ!」
「そ、そうだよ、私たちはカナを探しに来たというか、別に私とカルロスはそういうのじゃ…………」
「サラ、あんたの天然ぶりは本当に癒されるわ、こういう時はなおさら」
カナはサラを可愛がるようにポンポンとサラの頭を叩いた。
「まぁ、カルロスとアリスがいい感じなのはチームメイトはみんな知ってるし、付け入る隙は無いというね」
「カナ、後で覚えてろよ………」
カルロスは恨めしそうにそう言ってはいるが、口元が緩んでいるのをサラは見逃さなかった。
「ふふっ」
「サラちゃん、よく笑うようになったね、ここ最近思ってたんだけど」
アリスはサラを見ながら呟いた。
「そうかな? 前からこんな感じだと思うけど」
「あの、ハヤト?ってやつが来てからかな、前のサラは本当に近づきたく無いというか、近づけなかった感じだったからな」
カナ、カルロス、アリスの三人はサラやハヤトたちとはクラスが違う。
元々あまり接点のなかったカルロスたちでさえ、サラの変貌ぶりには少々驚いていたのだ。
「だって、お兄ちゃんのことから立ち直らせてくれたのはハヤト君のおかげ。 だから、彼が困ってる時は助けになりたいなって思ってる」
「でも、あいつって謎だよな、本国で何してたのか誰も知らないんだってよ」
「それでもいいんだよ、ハヤト君はハヤト君だもん」
幸せそうに笑いながら振り向いたサラの髪がふわっと宙に舞う。
「彼も隅に置けないわ」
「カルロス、そろそろ模擬戦の準備しないと」
「そうだったな、じゃあサラ今度ハヤトのこと話してくれよ………って、その前にあいつら帰ってくるかな」
「そうだね」
カルロスとアリスは控えている模擬戦の準備をするため、急ぎ足で去っていき、サラとカナの2人がその場に残された。
「カナは次は何かあるの?」
「私は模擬戦じゃなくて、学科だよ、模擬戦で今より上に行ける自信はないからね」
「私もネリーたちに叶う自信ないかも」
『ふふふ』
「でも、ランキングが決まるまでは時間あるし、サラもSランクの高い任務をやってポイント稼げば?」
「うーん」
ボストニア学園を含め、ランキング制度を設置している魔法学園には学園ごとの基準で、任務のランク付けがされている。
Sランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランクと6つのランクに設定されており、Bランクはランキング10位内の学生1人、Aランクは2人、Sランクは三人以上が行う、または同行しなければならないと条件が定められている。
「カナは入学した時からポイント荒稼ぎしてたもんね」
「だって、勉強嫌だしー、本国の国のこともわからないのに外国の歴史なんてわからないわよ」
「ハヤト君と同じこと言ってる」
クスクスと笑うサラの顔を見て、カナは優しい表情を浮かべ、腕を後ろに組んでクルッと回った。
「良かった、ようやく笑ったね」
「もしかして、元気づけてくれてたの?」
「えっ、本気で言ってるの!?」
カナはショックのあまり、ゆらゆらと揺れながら崩れ落ちた。
「へ? どうしたの! 具合悪いとか!?」
「いやあ、サラっちは天然だなあと思ってね」
「そんなに天然かなあ」
「じゃっ、模擬戦してくるね」
「うん、頑張って」
「ハヤトっちがいない間にポイント稼いでおくからね、ふふふ」
妙に楽しそうにカナは模擬戦が行われる会場に走っていった。
なんだかんだ言いつつも、同郷の出身者が学園に来て嬉しいのだろう。
「さて、部屋掃除しておかないと、ハヤト君たちが帰って来た時にすぐに寝られるように!」
小さくガッツポーズし、サラはよしっ!と1つ気合を入れた。




