ハヤトの思い
「・・・・・グルル」
「いい牙と爪だ、それでいろんな動物を狩ってきたんだと思うけど、こいつらは切れないぜ」
魔獣はグルルと威嚇の声を発している。
ハヤトは二本の刀に手を置くが、一瞬戸惑うと使い慣れたニオの方を抜いた。
ニオの反応がない現在では、技を使うこともできない。
「・・・・・・・・行くぜ」
ハヤトは自身の魔力で刀身を強化する。
ただの刀であっても、魔力でコーティングさえすれば、それなりの切れ味を得ることができる。
魔力が低い、魔術が苦手、精霊との契約をしていない魔道士が戦うために学ぶことになる最低限の技術だ。
「ガアアアア!!!!!!」
「っ! いい動きだ」
ハヤトは師匠であるセーラと旅をしていた際、魔獣との戦いを何度も経験させられた。
そのときに、口が酸っぱくなる程言われたことがある。
「(・・・・・・・・殺すなって言われてもな)」
魔獣はハヤトの首の頸動脈を的確に鋭い牙と爪でえぐろうと狙ってくるが、ハヤトは素早くそれをかわす。
「はっ!!」
ハヤトはニオ(鬼怒丸)を魔獣の右腕に切りつけた。
「ガアアアア」
「これで、お前の自慢の爪は使えないぜ」
「・・・・・・」
「諦め悪いな、お前セーラと気があうと思うぜ」
右の爪を削られたことで、魔獣はさらに頭にきたらしく、先ほどよりも素早くハヤトの体に傷を付けようと爪を大振りで振り続けたが、ハヤトには擦る気配もない。
「オラァ!!」
「ギャウ!」
ハヤトの回し蹴りが、魔獣の懐に入り魔獣は倒れこんだ。
「・・・・・・・・クー」
「お前は強いよ、でも俺たちはお前を殺す気は無いさ、それにさっきから殺意丸出しのあいつの相手をしないといけないみたいだ」
「ガウ」
「悪いな、さっき会ったばかりで悪いんだが、ルティアを・・・・・・・頼む」
「へえ、気づいていたとは、ザルドが負けたのも案外笑い話ではないようですね」
ハヤトの前に現れた銀髪で長髪の男は丁寧な口調を浮かべつつ、ハヤトと横になっているルティアのことを品定めするように眺めた。
「俺もこの国に来てそんなに経っていないが、随分と有名になったんだな」
「・・・・・・ハヤト?」
ルティアは体を起こそうとするが、毒の影響からか、目蓋の開閉しか行えなかった。
「ここよりも西の国に剣豪を数多く排出して来た国がある。 そこにあるアサシンの集団がいた、アサシンたちはどんな命令にも忠実に従い、国と政府の役人の害を為すと思われる者たちの暗殺を請け負い実行していた・・・・・と資料にはありましたね」
「・・・・・・何が言いたい」
「上手く隠しているんですね、あなたはその両手でどれほどの人たちを手に掛け、どれほど赤く染めたのですか」
「!?」
「(・・・・・ハヤトが、人を・・・・・・手に掛けた??)」
ルティアは動かない体の代わりに、必死に意識を集中し、うっすらと目を開けて、2人の状況を確認した。
「俺がいた国は確かに剣豪を多く排出しているし、アサシンの活動も盛んだ。 でも、俺には関係ないことだ」
「・・・・・・関係ないですか」
「・・・・・・・・っ!」
鈍い金属音が木々の間を駆け抜ける。
男は殺気こそ放っていたが、武器を手にしている様子もなかった。
一瞬の踏み込みの間に武器を抜き、ハヤトの懐に入り込む人間離れした加速力、ハヤトは攻撃を受け止めたものの、動揺を抑えるのがやっとだった。
「ほぅ、今の速度に反応するとは、ザルドが負けたのもふざけて負けたわけではないようですね、しかし」
男は横になっているルティアをちらっと見た。
そして、不気味な笑みを浮かべ、第二陣の攻撃を仕掛ける。
「確かに速いが、ザルドってやつのほうが速さだけなら上だと思うぜ」
「僕をあの速さだけが取り柄のやつと同じだと思わないでください・・・・・・・・はっ!!!!!」
「なんだ!?」
「・・・・・・・シャドーキャッチと私が名づけました」
「なに?」
「子供の時にあなたも遊んだのではないですか? 影踏み、または影鬼とも言うのでしょうかね、この技は相手の影を拘束するというそれだけの技です。 しかし、あなたのような戦い方をする人にはこれ以上ないくらいの効果的な技です」
「・・・・・・そうか、ここは」
「ええ、光がまともに届かない森の中です、うってつけの場所ですよ」
男は勝負ありと見たのか、満足そうに空を見上げた。
「・・・・・・暗闇は素晴らしい、どんなものさえ飲み込む・・・・・ああ、なんて素晴らしい」
「・・・・・くそ」
「動けませんよ、いくらあなたが強くてもね」
ニオが反応してくれればこの程度の束縛魔法ならば容易く破ることもできようが、ハヤトの自身の魔力だけで破るには少々骨が折れそうだ。
「さて、あなたちに消えて欲しいと依頼してきた人がいるのです、なかなかの報酬でしたね、我々の目標に近づくのが多少は早まるかもしれません」
「・・・・・・・・・ルティア」
「(どうしよう、ハヤトが・・・・・・・でも、今指を動かすのも辛いのに、私に何ができるのよ!!!)」
毒の影響で、体への麻痺が治らないルティアは自身の不甲斐なさに怒りを覚え、うっすらと涙を流す。
「ハヤト」
ハヤトの頭の中に、最後の特訓の際にセーラに言われた言葉が蘇る。
「君は強いよ、元々素質は良かったが、ここまでなるとは思わなかった。 それは君自身が生きる意味と殺し以外に戦う理由を見つけたからだ、忘れるなよ、人というのは」
「・・・・・・・人というのは、仲間を守るために強くなれる、か」
「なに?」
「お前はこの魔法に自信があるようだが、これ・・・・・・くらいなら、動ける」
ハヤトは身体の動きを封じている影を振り切ろうと、身体に力を込める。
普通のロープや鎖であれば切れるであろう力を加えても、影は切れる気配がない、やはり魔力を込めたものの頑丈さは一味違うようだ。
ただし、それも今のハヤトには関係のないことだった。
一人だった、家を破門にされ、追い出されたハヤトをセーラが、サラやルティアたちボストニア学園の生徒たちは受け入れてくれた、その恩をハヤトは忘れたことはない。
その仲間のために、ハヤトは魔力を全開にする。
「うおおおおおおおおおおおお」
「な、人間がちぎれるものではないんだぞ!?」
ブチブチとちぎれる音と共に、ハヤトに纏わりつく黒い影はゴムのように伸びていく、そして。
「・・・・・・・・ばかな」
バチンと千切れる音を響かせ、ハヤトにまとわりついていた影は地面に落ちるのと同時に消滅していく。
「どうだ・・・・・・・ボストニアの生徒を舐めんな」
「手加減し過ぎましたか、なら今度はさらに高い魔法を」
男が次の魔法を発動しようと試みた。
「させませんわ!」
男の攻撃を妨害する光の球体が、ハヤトとルティアを守るように男の前を囲った。
「この声は・・・・・・!」
「お待たせしましたわ、ハヤトさん」
「ちっ、仲間ですか」
「なるほど、辺りに散らばっている黒い魔法物を見るからに、あなたの影と森の暗闇を組み合わせて、ハヤトさんの動きを止めていたというところでしょうか」
男は少し驚いた顔を浮かべるが、すぐに冷静な顔に戻った。
「私の能力をすぐに理解ですか、しかし理解できたとしても防げるわけではない!」
影はニュルニュルと生き物のように蠢き、リエラの立っている場所へと伸びていく。
「・・・・・・輝きなさいバルドール」
リエラの解放呪に反応し、バルドールは眩い黄金色の光を放った。
リエラ以外の三人は眩い光から手をかざして光を防ごうとする。
「なんだ、この光は!?」
「これは」
「私の能力は光を扱うことですわ、あなたの影とは正反対の能力ですわよ」
リエラの剣はまばゆい黄金色の光を放ち、周辺にあった影を一掃した。
「・・・・・リエラ!」
「ハヤトさんはそこでじっとしておいてください、疲れているのでしょう?」
「行きなさい! 影の精鋭!」
再び足元から、人型の黒い何かが立ち上がるが、リエラが剣で斬りつけていくと、次々と消滅していく。
「効きませんわ!」
「強い」
リエラの動きはとても洗練されていて無駄な力みがなく、剣の筋は一直線だった。
サラもなかなかの太刀筋であったが、リエラのそれはサラを上回るかもしれないと、ハヤトは感じた。
「走りなさい! シャイニング レイ!」
「ちっ」
剣から稲妻のような光が男に向かって飛んだが、それを軽々とかわした。
自分に酔った能力頼りの魔導士というわけでもないようだ。
「なかなか良い動きしますね」
「褒めていただけて光栄ですわ、でもこれで終わりにします」
「その強さを賞賛して、私の名前を申し上げます、私はドジャー・ワーグナー」
「ボストニア公国 アルミット家第一息女 ボストニア学園 魔道士科 ランキング第3位リエラ・アルミット 」
「君の能力は僕と同じだ、フィールドを支配すれば強いが、それを妨害されれば能力を封じられる。 能力頼りの魔道士が!」
「・・・・・・・私が能力頼りと言いました?」
「なに」
「・・・・・・・バルドール、シャイニングロング!!!」
刀身がさらに強い光を放ち、天高く長く伸びた。
「な、なんだその技は」
「・・・・・・・この技は模擬戦では一度も使ってませんわ、理由は」
「か、影よ! 僕を守れ!!!」
「力の加減が出来ませんのよ!」
ドゴオオオオオオンと耳を塞ぎたくなるほどの轟音を立て、周辺の木々が吹き飛び、辺り一面は荒地と化した。
「・・・・・・・り、リエラ今のは」
「今の技はあまり使いたくない技ですの。 力の加減が出来ませんし、何よりこのような惨状になるので」
「・・・・・・・リエラ?」
「大丈夫か、ルティア」
「体を動かせるようにはなったわ」
「なにがあったんですの?」
「魔獣を退治した後、一瞬の油断で毒がルティアの身体に入ってな、ニオの魔力でルティアの身体に魔力を送って進行を止めていたんだ」
「・・・・・・なるほど、ならこれを」
リエラは学園指定のカバンとは違う色のカバンの中から、小瓶を取り出した。
「それは?」
「毒消ですわ」
「・・・・・・リエラ、この薬の味ってどうにかならないの?」
「それでも美味しくなったんですのよ? さ、上着を脱がしますわよ」
リエラはルティアの制服の上着を脱がせた。
「ハヤトさん、後ろ向いててもらえます?」
「わ、わかった!」
リエラに言われて、ハヤトはあわてて目をそらした。
後ろでは、シュルシュルと布の擦る音が聞こえ、なんだかんだ言いながら、年頃のハヤトには耐え難い音であった。
「(昔の俺ならこれくらいなんてことなかったのにな)」
人間らしさが出て来た自分に不思議な気持ちが湧いてくる。
「しかし、あんたよくこの場所がわかったわね」
「魔力探知の魔法を使いましたの。 あまり得意ではありませんが、こんな森に魔力持ちの人なんてそうそう来ませんもの」
「そうよね」
リエラ、ハヤト、ルティアの三人が現在いるこの森は、政府からの許可、依頼が無い場合の立ち入りが禁止されている。
もしこの禁忌を破れば、禁錮三年か罰金100万ガルドが処せられる。
「しかし、リエラの魔法は凄いんだな、夜だってのに森が昼みたいに明るくなったのには驚いたぞ」
「リエラは魔力の量が凄いって言われてるのよ、それに剣術に関してもかなり高いレベルだしね」
「それは俺も思ったんだ。 この学園の女の子はみんな剣筋が綺麗だなって。 やっぱり貴族の子達って小さい頃から習ったりするのか?」
「私の場合はほぼ独学ですわね、私の家はほとんど魔力持ちが生まれませんの、その代わり財力はありましたから、魔力持ちの私に英才教育をしてくださったのですわ」
魔力というのはほぼ100%と言っていいほど先祖からの遺伝で決まる。
剣技や魔法の訓練を行うことで、剣技の剣筋が安定、または上達、魔法の質が上がることは当然のことだがある。
しかし、魔力に関してだけは本人の努力でどうにかなる問題ではないのが現在の魔術機関の見解だった。
「正直、私はリエラならリズベットにも勝てるんじゃないかなと思ってるんだけどね」
「私は1人の騎士として、努力を怠る気はありませんが、最強はやはり彼女ですわ」
「俺は、リエラと一度模擬戦をしてみたいな」
「ええ、ぜひ手合わせお願いいたしますわ」
「ああ、さてともうすぐ夜明けのはずだ、明けたら一気に森を抜けた学園に戻ろう、ルティア行けるか?」
ハヤトはゆっくりと後ろを振り向くと、そこには「……………えっ?」
ルティアの白く可愛らしい下着姿があった。
「…………か、かわいいよ?」
「///////////」
「えっと」
「見るなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
薄暗い森の中に、ルティアの怒号が木霊した。




