第4話
優太と花純が付き合い始めたきっかけは、社会人三年目の夏頃に開催された小学校の同窓会だった。
優太と一緒に参加した同窓会で、俺たちは花純と再会した。
小学生の頃の花純はどちらかというと素朴で落ち着いており、口下手で友達も少ない印象だった。しかし大人になった彼女は明るく笑顔が絶えない女性へと変貌を遂げていた。
そんな花純に話しかけられた優太は、驚くほどあっさりと恋に落ちた。
「英介。俺、西山さんのこと好きになっちゃったかも」
ほどなくして、優太の花純へのアタックが始まった。
優太の恋の行方に我ながらかなりハラハラしたものの、半年後、優太は無事花純と恋人同士になった。
後から優太から聞いた話だと、花純も優太に迫られてまんざらでもなかったらしい。かといって、どちらかが攻めなければ二人の恋が実ることはなかったので、やはり優太の頑張りは評価されるべきだ。
少なくなってきたグラスにビールをつぎたし、それを一気にあおる。今夜はまだまだいける気がした。目の前に目を向けると、優太も俺と同じように新しいビール缶を開けていた。
俺は体中に染み渡るアルコールの気持ちよさにしっかり浸かりながら、ビールで濡れた唇をひとなめしなんとはなしに口を開く。
「お前、浮気なんてすんなよ?」
「え、な、何言ってんだよ。そんなことするわけないだろ! ほら、これを見ろ! 俺は花純との予定が立て込んでて非常に忙しい男なんだ!」
優太が近くにあった通勤鞄から取り出したのは、この前の誕生日に花純からもらったという手帳だった。デザインは月並みだが、文字を書く枠も広く、シンプルで使いやすい構成になっている。
優太が示している31日分の枠が並んだページを見ると、まだもらってから日が浅いはずなのにどの日にも書き込みがあった。そしてそのどれもが「花純と」から始まっていて、過去の日付の枠にもその記録があった。小さな枠の左上に印字された日付には、先々週の今日までの数字にバツがついている。過ぎた日をチェックしていたのだろうか? それなら二週間前から今日までの日付にバツがついていないのは何故だろうか? そんな疑問が俺の頭を一瞬よぎるも、得意げな表情を浮かべる優太に沸き上がった悪戯心がすぐに俺の頭を占領する。
「お前の努力は分かったが……こんなに顔を合わせてても『実は随分前から気になってる人がいて……』みたいな展開は普通に結構存在するみたいだからな」
「不吉なこと言うなよ! 俺たちはそんなことにはならないよ」
「どうだかな。花純はまだしも優太はな……。いつの日かの飲みの帰りも、繁華街の店先にいた黒髪美女に手振られて真っ赤になってたじゃないか」
「し、失礼な! 無視するのもかわいそうだなって思っただけだよ!」
「ふーん……かわいそう、ね……」
「とにかく、俺にはまだまだ花純と一緒にやりたいことや行きたいところがたくさんあるんだ。それを実現するためだったら何だってやるよ」
「……お前、ウザすぎて花純に引かれるんじゃないか?」
「花純に限ってそれはない」
「やけに自信ありげだな」
「当たり前だ。俺たちは愛し合っているからな」
「あー、なんかお腹いっぱいになってきた」
「え、じゃあ、このシュウマイ、俺がもらっていい?」
「ダメだ! これは俺のものだ!」
俺は正面右側から伸びてきた優太の箸を自らのの箸で払いのけ、一つだけ残っていたシュウマイを素早く口へ放り込む。さすが有名店で買ったシュウマイだ。寒い中一時間も並んだ甲斐がある。冷えてしまってもなお衰えていない芳醇な肉のうまみとぷりぷりと張りのある皮に舌鼓をうちながら、俺の頬は自然と緩む。
「英介って本当にシュウマイ大好きだよね」
「シュウマイは神だ」
「もはやシュウマイを彼女にしたらどう?」
「甘いな。シュウマイはすでに俺の手に落ちている」
「手じゃなくて腹の中だろ?」
優太のツッコミにお互いに顔を見合わせ吹き出す。
「てか、優太。俺とこんなに話してていいのか? 花純におやすみの電話しなくていいのかよ?」
「ああ、大丈夫。花純にはあらかじめ今日は英介と飲みの約束があって電話できないかもって話してあるから。それにあっちも友達と旅行中だからね」
(あれ、でも、いつの日かの飲みの時は、酔っ払いながらも花純に電話かけてたよな……?)
もしかして優太、花純と喧嘩でもしてんのか? そう聞こうとしたが、これまた有名店のフカヒレスープおいしそうにすする優太の顔を見て、すぐに考えを改める。
(大好きな相手と喧嘩をしている人間が、おいしく飯なんか食えるわけないよな)
夜はまだまだ長い。
俺は何度目か分からない乾杯を優太と交わし、再び料理へ箸をのばした。




