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第3話

 優太とは社会人になってからも度々会って飲みに行く仲だが、こうやって開けっぴろげに飲みあうのは本当に久しぶりだった。ここまでお互いに存在をさらし合ってぶつかれるのは、俺にとっては優太しかいない。世の中にはそんな存在がいない人間も多い中俺は本当に恵まれたなと、どこかの誰かが言ったことと同じ言葉が頭に浮かんだ。

 あれからもう一週間ほどが経つ。それにも関わらず、俺はあの日の出来事を今でも鮮明に思い出すことができる。あれほど濃い体験をしたのは、今も昔もあの日しかない。

 とりあえず今日は転職の話はタブーだ。俺は大音量でテレビを見ながら大好物のポテトをむしゃむしゃと頬張る優太に視線を向ける。

「で、花純との仲はどうなんだよ? ちょっとは進んだのか?」

「ちょ、す、進んだって、い、いきなりぶっとんだこと言うなよ」

「俺は別に何も言ってないが。一体何を想像したんだ、優太くんは?」

「お、おい! ずるいぞ、その言い方は。別に彼女がいる男が不純な動機を抱くことなんて普通のことじゃんか!」

「だから俺は何も言っていないんだが。さっきから一体何を想像してんのかな? 聞かせてくれよ」

「あーもう! そんなふうにからかうのはやめてくれ!」

 優太は顔を真っ赤にしてじたばたする。右手の腕時計が部屋の明かりを受けて乱反射し、俺の目を攻撃してくる。しばらくの攻防の末、優太がもじもじしながら口を開く。

「実は……一ヶ月前に花純と一緒にオーストラリア旅行に行った」

「おお! マジか!」

 優太に花純とのオーストラリア旅行を提案したのは俺だった。

 俺は高校生の頃、学校の協定留学制度を利用してオーストラリアのパースへ一年間留学したことがある。

 留学を通しオーストラリアの魅力を知った俺は、かねてより優太にオーストラリア旅行を勧めていたのだった。

「それで、行ったのは? シドニー? パース?」

「えーと、確か、メ、メル……」

「メルボルンか?」

「あ、そうそう、メルボルン! いやぁ~海外の地名って覚えづらいね」

「日本語だとカタカナ5文字だぞ。それに花純と旅行に行った場所の名前くらい覚えとけよ」

「あはは……ごめんごめん」

「で、楽しめたか?」

「うん! コアラを抱っこしたまま写真撮ったり、コーヒーショップ巡りをしたり……とにかくすごく楽しかった!」

「へぇ~コーヒーショップか。そういえばお前ら、コーヒー好きだもんな」

 優太も花純もコーヒーの味にはそれなりのこだわりを持っている。ゆえにコーヒーに関する発言には十分注意が必要だ。ふいによみがえった苦い記憶に俺は軽く顔をしかめる。

「よくあんな苦いもん飲めるな」

「え、その苦さが良いんじゃない。英介の味覚はまだまだ子どもだね」

「俺は年を取りたくないから、まだまだ子どもで結構だ」

 重度の甘党の俺はふてくされたように、油でてらてら光ったごま団子を口に放り込む。思ったより内部の温度が高かった。ふはふはしながらもなんとか飲み込むことに成功するも、あんこの甘さがなくなった舌には一連の流れで負った軽いやけどが残った。地味にじんじんして痛い。

 そんな俺の様子を楽しそうに眺めてくる優太を悔しそうに見返す。

 それにしても優太はこんなふうに屈託なく笑う奴だっただろうか。なんか遠慮しなくなったというか……。上手く説明できないが、花純と出会ってから優太はより笑うようになったと思う。 

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