間話:世界基礎と神の沈黙
現状読み飛ばしても構わない章です
フィオナと出会う少し前、僕は自分に与えられた部屋の書斎で本を読んでいた。
なぜこんな本を読んでいるかって?生き残るためだ。
転生してからはや16年、僕はガーデニングをしていただけである。
あまりにも無知なのだ。だからこうして本を読んでいるわけだ。
『世界基礎〜世界の生き方について〜』から一部抜粋
エドモンド•サガルマータ(ブリザンテ歴542〜610年)著
この世界には三つの『界』が存在する。
三つの界の境界線では世界の起源から存在するとされる防護結界があり、破壊するには大量の魔力と技術、時間を要する。
軍勢が倒れるほどの規模で破壊したとて数ヶ月もすれば塞がってしまうため、この結界を破るのは侵略魔王くらいであろう。
この世界に存在する三つの界。
一つ。人間界である。
この星の約三割がこの人間界だ。
人は魔物や魔族に比べて弱いが、歴史上2回の大戦を経験しており武力の発達に拍車がかかっていると言えよう。
二つ。魔族界である。
この星の6割は魔族界であり、彼らは人類を蔑み、憎み食い物にしてやろうと日々機会を狙っているという。
彼らは強靭な肉体、人間と比べ物にならないほどの身体能力と頭脳を持ち合わせており、今までになかったような大規模な穴が結界に開こうものなら数年以内に人類は消し飛ぶであろう。
三つ。背界である。
人類、魔族二つの最大勢力が睨みを効かせ、歴史を紡いでいる中で、それを背にしたところ。世界樹を中心としたこの星の1割を占めると推測されており、人類未到。何も判明していない。
(中略)
この世界において重要な要素は魔力とスキル、そして神である。
魔力とは、生物が持つ力の源である。身体や物体に流して強化に利用するほか、体外に放出することで、さまざまな現象を引き起こすこともできる。
魔力を用いて気象や地形に干渉し、時には物理法則さえ一時的に改変する技術。それが魔術である。
生まれ持つ魔力量には大きな個人差があり、生涯を通じて微弱な魔力しか扱えない者もいれば、種族の頂点に迫るほどの魔力量を持つ者もいる。
魔術とは別に、スキルと呼ばれる特殊な能力が存在する。
スキルは修行によって身につける技術とは異なり、神によって特定の人類に与えられる、肉体に刻まれた固有の力である。
その種類は多岐にわたり、魔術や剣術では到達できない領域に踏み込むものもある。特にユニーク級やグレート級と呼ばれるスキルは、極めて少ない魔力消費で強大な力を発揮するとされている。
神は歴史の中で幾度となく存在を示してきたとされるが、その正体や目的、居場所については、いまだ明らかになっていない。
それでも人類は、神から授けられるスキルの恩恵を受けてきた。そのため、神は人類の味方であるという考えが長らく有力だった。
しかし、数十年にわたって新たなスキル保持者が現れない時代が訪れた。
人々はこれを「神の沈黙」と呼んだ。
この異変は、博識な魔術師や各国の重要機関、既存のスキル保持者たちの間で、大きな議論を呼んでいる。
……なるほど。
僕は本を閉じた。
神様が人類の味方だというのなら、どうして新しいスキル保持者は現れないのだろう。
ましてや、魔王軍によって大地が死に始めた今も、神様は沈黙したままだ。
僕に与えられたのは、魔王を倒す力でも、世界を救う力でもない。
土をいじるためのスキルだけだ。
……それでも、このスキルが人間界を救う何かにつながるのだろうか。
「……まあ、いいか」
今さら神様の考えを推測したところで、答えが出るわけでもない。
それより、明日までにやるべき仕事がある。
僕は本を机に置き、庭へ出る支度を始めた。




