第九話:成果
ユーリ一行は戦いの後、作戦続行不能との判断を下した。
重症者は出なかったが、クルトや僕、カシアンは体中ぼろぼろだ。
もともと、魔族と戦うために来たわけじゃない。情報を集め、灰への対策を探る。それが僕たちの目的だった。
だが、あいつと遭遇した以上、これ以上の調査は危険すぎる。
せっかく往復十日を費やし、情報収集をしようということだったのにもったいない気がしなくもない。
だが成果もある。逃げる途中で例の魔族が最初に持っていた剣を拾ったのだ。
魔族が持っているというから禍々しいものを想像したが、黒を基調とした柄に細いけれど力強さの感じる白刃を持った、洗練された剣だった。
これを研究すれば、魔族の武器や魔力の性質を探る手がかりになるかもしれない。それに、刃から漂う魔力の密度が違う。ここにいる歴戦の猛者たちの武器と比べても、明らかに格上だ。
自分で使いたい気持ちもあったが、今の僕では宝の持ち腐れだろう。この剣は、最も使いこなせそうなクルトに預けることにした。
前から彼は腕の立つ騎士だと思っていたが、想像以上だ。剣術はもちろんその場の状況判断やフィジカルにおいても抜きん出ている。
それに気づけたのも成果の一つと言えよう。
そしてこの戦いを機に僕も剣術を習うことにした。この体は運動神経がいいから、ある程度はできるはずだ。
魔術と剣術のコンビネーションの強さは相当なものになるだろうから、今から楽しみだな。
…話を戻そう。
撤退の主な理由だが、逃げ延びられたからと言ってあれともう遭遇しないとは限らないし、この状態で街に残るのは危険すぎるからだ。
住民が起き出してきたら騒ぎになる可能性もある。
そんなこんなで帰ろうとしたのだが、ここでまた壁にぶち当たってしまった。
馬が逃げていたのだ。繋ぎ止める余裕なんて欠片もなかったからしょうがないのだが、大幅なタイムロスになることは間違いないだろう。
くそ、上手くいかないことが多いな。
クルトとフィオナが二人揃って顎に手を当てている。
「どうする?まだ近くにいるかもしれないが」
「うーん、もうちょっと探してみる?」
歩いて帰れば、灰が到達するまでの残り一週間に間に合わない可能性が高い。だが、馬を探すために散開すれば、魔族と鉢合わせる危険がある。
どちらを選んでも危険は残る。ならば、時間を無駄にしない方法を取るしかない、か
「じゃあクルトは北、僕は南、フィオナは西、カシアンと冒険者は東を探すことにしよう。ただしちょうど日が落ちる時に、ここで集合だ。魔族がいたらくれぐれも見つかる前に逃げるように」
僕が指示するとみんなが頷いた。
よし、時は有限。そうと決まれば早めに——
「一つ提案してもいいか?」
「…?ああ」
「馬を探すにあたって魔族と遭遇したり、なにかイレギュラーなことがある可能性は高い。だから誰か1人ここに残っておいた方がいいだろう」
…確かに
何かが起きてここに戻ってきても、誰もいなければ意味がないもんな。
ただここ付近は魔物もちらほらいるし、魔族もそう遠くはないはずだ。責任は重い。
「ここは僕が残るべきか…」
そう苦渋の決断をしようとした時、1人の男が言った。
「いや、俺が残ろう」
歩み出たのは…会議の後にハンスと揉めていたあいつか。確か名前は…ケースだったか。
「なぜ、自分が残ると?」
理由を問うと、ケースは重々しく語り出した。
「俺は正直、魔族も舐めていたし、ユーリ。あんたのことも舐めてた。だがさっきの戦いであんた達が善戦しているところをただ見ていることしかできなかった」
ケースはそう言って俯く。
「途中クルトさんやフィオナさん、あんたがおこぼれみたいな感じで用意してくれた攻撃のチャンスも逃しちまった。俺は結局、あそこではいないのと一緒だったってことさ。あんた達はそんな俺と違って涙が出るほどかっこよかった。明らかに格上なのに向かっていって、一矢報いたんだ。尊敬するよ」
おこぼれとはあの一斉攻撃の時か。そんなふうに捉えていたんだな。
「いや、ケース達が周りを囲っていたおかげで、魔族の選択肢を減らせていた。十分な活躍だよ」
「いや、何もしていなかったのは事実だ。ここは俺が責任を持ってあんた達を待ち、そこら辺の魔物は狩っておく」
「みんな、それでいいか?」
「そうだな、ケースは力もあるし格下にはまず負けない。魔族と遭遇しない限りは大丈夫だろう。そもそもの話誰であってもあれに遭遇したら詰みだからな、俺は任せるのに賛成する」
カシアンは賛成か。他の冒険者も頷いている。
「わかった、ケースに任せよう。頼んだぞ」
「おお!!」
ケースは気合いのこもった声を上げた。体も大きいし安心感があるな。
「よし、作戦は以上だ。行動開始!!」
僕の合図と共にそれぞれが己の方角へ歩みを進めた。




